風ちゃんと朝顔
<風ちゃん>
泣き虫な子ぶた、男の子
<チロル>
しっかり者のうさぎ、女の子
<みみちゃん>
庭があるお家に住む体の弱い5歳の人間の女の子
<ママ>
専業主婦、娘が好きな朝顔を庭で育てている
<パパ>
仕事で忙しくて家にいないことが多い
ある夏の日のこと。
風ちゃん「うぅ・・・」
小さな子ぶたの風ちゃんは転んで足を擦りむいてしまい泣いていました。
すると・・・。
チロル「風ちゃんまた泣いてるの?」
風ちゃんより少し大きなうさぎのチロルがやって来ました。
風ちゃん「あ!チロルちゃん!」
チロル「足怪我しちゃったんだね、でも大丈夫!
私の友達のところへ連れて行ってあげる」
そう言ってチロルは泣き虫な風ちゃんをみみちゃんのところへと連れて行きました。
みみちゃんは人間の女の子です。
みみちゃん「大変!ママ!お友だちが怪我しちゃったの、治してくれる?」
ママ「あらあら大変、とにかく部屋に上がってちょうだい」
その間も風ちゃんはじんじんと痛む足に涙を浮かべています。
ママ「はい、これでもう大丈夫よ」
みみちゃんのママが足に包帯を巻いてくれました。
擦り傷なのですぐに治るとママが言ってくれました。
みみちゃん「ありがとうママ!」
チロル「ありがとうみみちゃんママ!」
風ちゃん「あの・・・ありがとうございます・・・」
ママ「どういたしまして!あなた初めて会う子よね?お名前は何て言うの?」
風ちゃん「えと、風って言います」
チロル「私は風ちゃんって呼んでるよ!」
みみちゃん「風ちゃんは女の子?男の子?」
チロル「男の子だよ」
みみちゃん「そうなんだー、風くんじゃないんだね」
チロル「風ちゃんは可愛いから」
風ちゃん「え?僕が可愛い・・・?」
ママ「ふふ、私からしたら三人とも可愛いけれどね」
みみちゃん「うんうん、確かに可愛いね!チロルちゃんも可愛いけど!」
チロル「ありがとうみみちゃん!チロル嬉しい!」
こういう時、自然とお礼が言えるチロルちゃんは素敵だなと思う。
友達がいっぱいいて明るくて元気で・・・僕とは正反対だ。
ママ「呼び方は風ちゃんが良ければいいんじゃないかしら?」
チロル「風ちゃんって呼ばれるの嫌だった?風くんの方がいい?」
風ちゃん「ううん、僕、チロルちゃんに風ちゃんって呼ばれるの好きだよ」
チロル「そっか!じゃあこれからも風ちゃんって呼ぶね!」
風ちゃん「うん!」
ママ「あ!そうだわ、せっかく来てくれたんだもの、朝顔見ていかない?」
風ちゃん「朝顔?」
チロル「お花のことだよ!」
庭に案内された風ちゃん。
風ちゃん「わぁ!凄い〜!綺麗!!」
チロル「風ちゃん、やっと涙止まったね」
みみちゃん「良かったね風ちゃん!」
ママ「ふふ、良かったわ」
風ちゃんは少し恥ずかしそうにしていました。
けれどすっかり朝顔が好きになったようで目をキラキラとさせながら庭を見つめていました。
それから風ちゃんはチロルに連れられてみみちゃんの家に遊びに行くようになりました。
何度か会っているうちにみみちゃんは体が弱くてあまり外に出れないのだと知りました。
そんなみみちゃんの為にみみちゃんが好きな朝顔の花をママが育ててくれていることも聞きました。
しばらくするとみみちゃんが二週間入院することになってしまいました。
風邪を引いてしまったようでした。
元々体が弱かった為、合併症を患ってしまったのです。
入院したみみちゃんに付き添い入院することになったのでママの姿も見なくなりました。
みみちゃんのパパは出張で家を開けていた為、朝顔のお世話をすることはできませんでした。
朝顔の花は世話がされずにしなしなと枯れそうになっていました。
風ちゃんとチロルは朝顔が心配だね、と話していたら居ても立っても居られなくてみみちゃんのお家に向かいました。
二人はいつもみみちゃんママが水をあげているのを隣で見ていました。
その真似をしようと縁側の隅に置いてあるジョウロをチロルが両手で持とうとしましたが
上手くいかず地面に転がってしまいました。
なんとか口で取っ手の部分を噛むとホースのところへと運びました。
その時、風ちゃんがホースから水を出そうと四足歩行からよたよたと二本足で一生懸命立ち上がります。
風ちゃん「やったー!水で・・・わぁ!!」
チロル「きゃー!!」
しかし、蛇口をひねり過ぎたのか水の勢いが強く、二人はびしょびしょになってしまいました。
チロルが急いで蛇口を元に戻します。
チロル「わー、びしょびしょになっちゃったね」
風ちゃん「ご、ごめんね!!」
風ちゃんは今にも泣き出しそうでした。
そんな風ちゃんにチロルは・・・。
チロル「大丈夫!お日様に当たればすぐに乾くよ」
風ちゃん「う、うん・・・」
チロル「もう一回、今度は一緒にやろ!」
チロルは笑顔でそう言いました。
風ちゃん「うん!」
チロルちゃんはいつも大丈夫!って言ってくれる優しい子だ。
僕もいつかチロルちゃんに大丈夫だよって言える存在になりたいなぁ。
地面に水たまりができてしまいましたが
それでも二人はなんとかジョウロに水を入れて水を巻くことに成功しました。
二週間後。
家に戻ってきた二人にお礼を言われて一番驚いていたのは風ちゃんでした。
ママ「あら?朝顔の花・・・枯れていないわ・・」
庭には二週間前と変わらず、青色、紫色、白色、ピンク色の様々な朝顔の花が咲いていました。
カラフルで可愛いらしい風景です。
みみちゃん「わぁ!朝顔綺麗に咲いてる〜!正直、もうダメかと思った!」
ママがチラッと庭を見ました。
配置の変わっている汚れたジョウロ、庭にできた水たまり、綺麗に咲いている朝顔の花。
ママ「ひょっとしてあなた達が?」
風ちゃん「勝手に庭に入ってごめんなさい」
チロル「庭、水たまりできちゃったの、ごめんなさい」
しょんもりしている二人をママはしゃがんで頭をいい子いい子する。
ママ「いいのよ、それよりも朝顔を守ってくれてありがとう」
みみちゃん「ありがとう!!」
誰かの為に何かをするのが初めてだった風ちゃんは
ありがとうと言われてチロルと一緒に喜んだのでした。
それから風ちゃんはちょっぴり泣き虫じゃなくなったんだとか。