新商品を仕掛けよう②
食後ジークが走りに行った後のダイニング。俺とロミーは向かい合わせでまったりと紅茶を飲んでいる。午後のまったりした時間ってどうにも心地良くて眠くなるからいけないな。会話でもして眠気を覚まそう。
「ロミーがうちに来て今日で七日だな。接客はもう慣れたか?」
「はい。毎日が楽しくて、奴隷なのにこんなに幸せで良いのかなって思ってます」
そうやって綺麗な笑顔で心底幸せそうに言うんだよな。これって青少年だったらコロッと騙されて勘違いしちゃうやつだぜ。俺はそれなりに歳も食ってるから騙されないけどな。
「それは良かった。俺は奴隷を一般的な奴隷扱いする気が無いから気にせず過ごしてくれ。ジークの方はどんな感じだ?」
「兄は毎日お腹一杯食べられて最高だって言ってます。鍛錬不足だとか運動不足だとか言ってましたけど、今はもう冒険者じゃないんだからって言ったら納得してました」
あいつは脳筋だから店の外で立ってるだけってのも体がうずうずしてくるんだろうな。従業員が快適に過ごせるように何か良い解消法を考えなきゃな。
「朝晩だけじゃなくてお昼までご飯を食べられて働く時間も長くないのに不満を言うのは烏滸がましいんですよ。兄はホクト様に対する態度も失礼過ぎます」
ロニーが漫画のキャラクターだったならプンスコってオノマトペが入る感じに怒ってるな。別に俺に対する態度は仕事中以外は気にしないで良いんだが。仕事中に馴れ馴れしくしたら普通に怒るけれども。
「なるほどな。そろそろ午前中に売れたTANGAの仕入れをやっておくか」
「金庫からお金を持って来ます」
「ありがとう。助かるよ」
FAZNA商店は今の所ターゲットとなる客層が冒険者なのでピークタイムが朝と夕方以降に偏っている。冒険者は朝ギルドで依頼を受けて昼は依頼を熟し、暗くなる前に帰って来て酒場に行くってサイクルが出来上がってるからな。店が込むのは依頼を受けた後と酒場に行く前の時間で、この時間帯はわんさか客が集まるが午後一なんかはまったりだ。そのまったり時間にTANGAのパッケージを剥がして店頭の商品を補充する時間に充てている。
「俺の課金額って日本円に直すと一体幾らになってるんだろうな?異世界の通貨で買い物してるからFAZNAの売り上げに貢献出来ているのかは不明だけれども」
一応あちらの世界でも価値がありそうな金貨を使って買い物するようにはしてるんだけどな。
「お金を置いておきます」
「ありがとう。早速仕入れするぞ。FAZNA」
俺のスキルはFAZNAと口にするか心の中で念じると目の前にFAZNAの画面が表示される。これってもうスキル名FAZNAで良いよね?FAZNAの操作はスマホやタブレットでやるのと同じ。一番多く使ってるのは当然FAZNA通販。商品を選んでカートに入れて、決済画面に飛ぶとこちらの硬貨での支払額が表示されるから、画面に硬貨を投入する。
チャリンチャリンチャリーン
この硬貨が吸い込まれる時の音の演出は何なんだろうな。硬貨が入っていくのも音の演出もロミーには感じ取れないから、何もない空間に硬貨が消えていく風に見えてるらしいぞ。FAZNAについてロミーには話をしている。ジークに何も話していないのは、あいつは言うなと言ってもポロっと口を滑らせそうだからだ。
「TANGA五十とTANGA EGG二百で注文っと」
注文を確定すると画面の裏側から注文した商品がドバドバ出てくる。初めは梱包とか無いのかよって思ったりもしたんだが、考えてみたらFAZNAの倉庫で働く人達の手を煩わせてしまうかもしれないから無くて良かった。俺はFAZNAを異世界から利用させて頂いているだけなので、俺に使う労力があるのならば良質なオンラインゲームの開発に注力して欲しい。FAZNAのゲームには都会には無い村ならではの良さってのがあるからな。
ドバドバと注文した商品が全て出尽くすと、突然FAZNAの画面に謎の文字が表示された。
『お客様の課金額が一定額を超えました。グループシェアリング機能が追加されました』
「グループシェアリング?いや、それよりも俺がお客様…?つまり俺は異世界からでもFANZAに貢献出来てたって事か…?これからもこっちの世界で事業を広げてみせるから電子通貨が流出した分の損失を少しでも補ってくれ!」
少しばかりテンションが上がってロミーに驚かれたけれども、俺は決意を新たにFAZNA商会を全世界に拡大しようと心に決めた。