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多忙によりスタッフ補充③

「168+321は?」


「489です」


「533+299は?」


「832です」


「832-489は?」


「…343です」


「彼女を売って下さい」


 一瞬間は開いたが、予想外だったであろう引き算にも対応したのは地頭が良い証拠だ。見た目も良いから看板娘としても機能してくれるだろう。間違いなく彼女は我がFAZNA商店に必要な人材だ。


「ええ、ええ。ありがとうございますぅ。後の二人を下げてしまいなさい」


 ウサンクの指示で姿を表したメカクレ店員が二人を連れて店の裏に下がっていった。選ばれなかったのが不服だったのか二人目のコリンナが小さく舌打ちしたんだが、その一瞬だけウサンクの糸目が僅かに開た。これはあれだな。後で教育的指導が入るやつだな。やり手の商人ってのは好々爺でも胡散臭くても締める所は必ず締めるんだよ。弛むのは一瞬で弛むのに一度弛んだ空気を締めるのは時間が掛かるってヤロップからも口酸っぱく言われたからな。


「それでは商談に参りましょう。わたくしも席に失礼致しますぅ。君も座りなさい」


 向かいのソファーにウサンクが腰を下ろして、その隣にローズマリーが座った。センターテーブルの引き出しから奴隷契約書を取り出して、契約が始まるのかと思ったところでウサンクが口を開く。


「彼女の購入に際しまして一つだけ提案をしてもよろしいでしょうか」


 ウサンクの雰囲気が変わった。今のウサンクが軽薄で胡散臭い感じではなく、真に迫った気持ちを感じる。なるほど。何かあるんだな?


「それが私にとって有益になると考えているのでしたら是非伺いましょう。提案を聞いた上で内容を吟味します」


 こちらも足下を見られて婆を引きたくはないから予防線は張らせて貰う。俺みたいな青二才では熟練の商人と対等にやり合うのは不可能だってのは理解しているが、簡単に転がされるのはFAZNAの名を背負う者として相応しくない。許可取り出来ないから非公式だけれども。


「ええ、ええ。ありがとうございます。実を言いますとローズマリーにはジークベルトという名の兄がおりまして、こちらも当店で奴隷として扱っております」


 なるほどな。話は読めたが、まずは最後まで聞こう。


「まずはローズマリーが奴隷となった経緯についてお話させて頂きます。彼女は冒険者だった兄が大きな依頼の失敗で多額の借金を背負い、鉱山奴隷となる寸前に自分を売って借金の一部を返済する事で鉱山送りを回避しました。自分自身を売ってでも守った兄がここにはいるのです。それほどに強い心の繋がりがある兄も一緒に買って頂けましたら、彼女のモチベーションは確実に上昇して感謝を示し、仕事の効率が上がるかと存じますが如何でしょうか?」


 やはり内容は予想通りだったな。予想外だったのはお涙頂戴的な話の方だが、そんなものは一年間クレント商会で商人について学んだ俺には全く効かない。ほんのちょびっとしか効かない。僅かばかりしか効かない。多分効いてない。効いてないったら効いてない。この目頭の熱さは目に産業廃棄物が入っちゃっただけなんだからね。


「一緒に買いますぅ」


 何やら余計な買い物をしちゃった気がしなくもないけれど、二人で金貨50枚なら悪い買い物じゃないよね。謀られた気がしないでもないけれど、俺はきっと負けてない。ただただウサンクが優秀な商人だったってだけだ。


「ありがとうございますぅ。巷で話題のファズナ商会には荒事が得意な者も必要でしょう。その点ジークベルトがいれば安心出来ると思いますよ。カガ様」


 あ、こりゃ勝てんわ。


 俺の素性を知った上で完璧な組み合わせの兄妹を勧めてたんだろうな。後の二人は俺の商才を見極めるのに用意したってところか?いや、コリンナは荒事が得意そうだったし、カミラの方も何か秘密があるんだろう。この男なら二重三重に誰を選んでも及第点以上が取れるようにしてそうだ。


 契約は契約書に俺とローズマリーの署名をして血判を押すだけで成立した。後から連れて来られた長身で迫力のあるジークベルトとも同じ手続きを行って奴隷契約は完了。奴隷は左手の甲に紋様が浮かび上がるので一目でわかるし目立つ。あからさまに奴隷紋を隠す行為は禁止されているし、これが俺的には無しなんだよな。


 奴隷紋をどうするかは追々考えるとして、優秀な商会長殿に挨拶をしておくか。


「改めましてホクト・カガです。店が忙しくなったら、また利用すると思います。今後ともよろしくお願いします。ウサンク商会長」


 人との繋がりは大切だ。特にパソコンやスマホなんて通信機器が無いこの世界では優秀な人との繋がりが何よりの宝になるのは間違いない。俺とは比べ物にならない程に優秀なウサンクの知己を得られれば、必ずや将来FAZNA帝国を築くのに役立つだろう。


 流石に国を興す気は無いから帝国は冗談だけれども。


「ええ、ええ。よろしくお願い致しますぅ。わたくしは商会長の息子でウサンク・サイデル二世と申しますぅ」


 え!?あんた息子だったん!?父親の商会長と瓜二つ過ぎませんかね!?

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