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最高の体験を貴方に② ※エッグハルト視点

 俺はエッグハルト。冒険者パーティー黒海の剣でリーダーをしている28歳だ。

 今日は不思議なアイテムを売っている店で珍しい物を仕入れてから護衛依頼に出て、今は野営の準備をしている。


「お前らな。さっきからソワソワしてて見苦しいぞ」


 同じパーティーの盗賊カイと魔術師ケビンは今日の依頼中、明らかに意識が散漫になっていて集中出来ていない。仕事に影響が出る範囲では無いし、いつも指名依頼を出してくれる商人に気付かれていないから見逃していたが、時間が進むにつれてあからさまになっているから注意した。二人が集中出来ていない理由は分かっている。


 あの異国の言葉で書かれた看板が掛けられた店で買ったタンガエッグなる物が気になって仕方がないのだ。


 気持ちはわかる。俺だって表には出していないが、内心はソワソワしてしまって仕方がないのだ。何故なら店主の言った極上の体験を早く味わってみたいから。そのチャンスが訪れるのは夜が更けて皆が寝静まる時間。不寝番の間にするのは流石に出来ないから、テントで睡眠を摂る前が理想的なタイミングだろう。


「皆さん、今日は如何なさいましたか?何やらソワソワしている様子ですが」


 拙い。俺も含めてソワソワが依頼人にバレていたらしい。だがしかし、仕事の手を抜くのだけは絶対にしないので、今日だけは許して欲しい。


 野営地の近くで狩ったツノウサギの串焼きと野草のスープで腹を満たして、いよいよ眠る時間となった。不寝番はいつもなら俺が最後なので、さっさとテントで眠ってしまおう。眠る前にやる事があるけれども、やる事やって眠ってしまおう。


「エッグハルト。お前はいつも最後に不寝番をしてるよな。今日は順番を入れ替えて最初にするのはどうだ?いつも同じだと不公平だからな」


 何ぃ!?カイの奴が仕掛けてきやがった!確かに黒海の剣はカイ、ケビン、俺の順番で不寝番をするのがいつもの流れだ。だがしかし不公平と言うならまとめて寝られる最初と最後が有利であって、不利なのは真ん中のケビンだろう。よし、その手で躱すとしようか。


「それならケビンが良いんじゃないか?いつも途中で起きるのは大変だろう。俺が代わってやるから最初に頼む。カイは最後でも問題ないだろう?」


「ああ。それなら俺も問題ない」


 よし!不寝番の真ん中は寝て起きて寝てとまとまった睡眠を摂れないから一番体力のある若手がやるのが暗黙のルールだ。それを代わってやると言うのだから、ケビンには何の文句も無いはずだ。これで決まったな。


「ちょっと待った。僕はいつも辛い思いを我慢していたのは事実だよ。だけれど今日ばかりは真ん中を譲る気は無いよ。いつも割を食ってきた僕が譲らないと言ってるんだから、少しばかり年長だからって二人が僕を動かす事は出来ないよね?だって僕はこれまで不寝番で一番苦労をして来たんだから。僕の代えなくて良いって意志は尊重されるべきだよ」


 くっ…。こんな時に正論を言いやがって…。ケビンは魔術師だけあって普段から頭が回るんだよ。近距離からの暴力だったら勝てるが、遠距離戦と口喧嘩では勝てないって典型的なタイプだ。カイはどう出る?どうしたって俺とカイの一騎打ちになったぞ。


「なるほどな。ケビンの言う事はもっともだ。だったら一つ提案したい。不寝番の順番は俺が最初で良い。その代わり少しだけテントで休ませてくれ。さっきツノウサギに体当たりされた傷を癒したいんだ」


 この野郎、いきなり何を言ってやがるんだ。流石にそれは看過できないぞ。


「嘘を吐くな!ツノウサギは投げナイフで倒しただろうが!一体どこに体当たりされるタイミングがあったって言うんだ!」


「お前が見てないタイミングだよ!死んだと思ったツノウサギがアンデッドになって復活したんだよ!俺は確かに体当たりされた!アーイタイイタイ。コレハホネガオレテルカモナー」


「棒読みじゃないか!ツノウサギがアンデッド化?それじゃあ俺達はアンデッドの肉を食ったのか?それこそ大問題だろう!」


「時間が勿体ないんで僕はさっさと寝るよ。良いって言うまでテントには入って来ないでね」


「「ちょっと待てい!」」


 結局拳を交えた話し合いの結果、不寝番は俺からスタートする事になった。俺もツノウサギに腹を貫かれて怪我をしたと言ったのに休む時間すらも貰えなかった。あいつら、テントから「うっ!」って声が聞こえたと思ったら随分とスッキリした顔で出て来やがって。俺は思わず殺意を覚えたぞ。


「そろそろだな。おい、交代の時間だぞ…くさっ!」


 テントを開くと男なら誰もが嗅ぎ慣れているツンとした匂いに不快感を覚えた。さっきはあんなにスッキリした顔だったカイとケビンは、今はもう生気を抜かれた廃人の様に干乾びているんだが。サキュバスでも現れたのか?


「おい。おいケビン。時間だ」


「あ…ああ…。気を付けて…。例のアレは想像を何段も超えてくる…」


 ケビンはそう言い残してフラフラとテントを出て行った。そんな事を言われたら…最高に楽しみになるじゃないか!これは急いでヤラねばならないぞ!


 カパッ


 タラー


 クチョクチョクチョ


「うっ!」


 俺は生きていながら天国を見た。


 俺達冒険者は酒と女と賭け事には目が無い。俺も依頼が終われば入った金で娼館に行って後腐れなく女を抱く。行く先々で娼館に行くから、いい女も気持ち良い女も知り尽くしている。そう自負している。


 だが、これは一体なんだ?好きな力加減で、好きな速さで動かせる。卵自体の感触も柔らかくて理想的で、少し粘り気がある水が滑りを良くしてくれるから最高に気持ち良い感触を与えてくれる。


 これはあの店主が言っていた通り、極上の体験と言って少しも大袈裟ではないじゃないか!


 クチョクチョクチョ


「うっ!」


 クチョクチョクチョ


「うっ!」


 …


 ……


 ………


「…きろ。起きろ。朝だぞ」


「う…ああ。もう朝か…」


 いつの間にか寝てしまったみたいだ。護衛依頼をおざなりにする訳にはいかないから、さっさと起きて朝食の準備をするかな。


「おはようございます皆さん。本日もよろしくお願い…どうしたのですか!?揃ってゲッソリした顔をされて!しかも何だか…ツンとする嗅ぎ慣れた匂いがするような…」


「「「気のせいです!」」」


 俺達冒険者は信用商売だから依頼は全力で確実に遂行する。そして街に帰ったら、またあの店に言って穴が開いてしまった俺達の嫁を買いに行こう。


 素晴らしい出会いをくれた神に感謝を!

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