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最高の体験を貴方に①

「客が来ないなぁ」


 FAZNA商店開店から3日。未だ来店客はいない。

 日本男児ならば名を知らぬ者などいない天下のFAZNAだって異世界に来れば不思議な記号でしかないのだ。男三十、FAZNAだったら異世界でも一瞬で男達にエロのムーブメントを起こせると思ったが考えが甘かったらしい。


「まあ、FAZNAで電子書籍かエロ同人読んでれば時間はいくらでも潰せちゃうけどね」


 これは強がりでも何でもなく、実際に暇潰しには少しも困らない。どんな仕組みかはわからないが、更新もされるから数多発売される新作をこちらの通貨で購入するのも可能だからな。画面と音声は自分だけしか認識出来ないんだが、来店客に備えてエロ動画やエロアニメを鑑賞するのは控えている。


「やっぱり売り込みから始めないと厳しいかな?どれだけ商品が素晴らしくても手に取って貰えなきゃ良さがわからないもんな」


 売り込むなら冒険者ギルドか商業ギルドかどちらにしようか。一旦店を閉めて散歩がてら外に出てみるとしようか。


「いらっしゃいませ。どうぞお手に取ってご覧下さい」


 出掛けようとした時に限って客は来るものなんだな。


 FAZNA商店初めての客は3人組の男臭い冒険者パーティーだった。装備を見るに剣士、盗賊、魔術師だろう。3人は店の中を一通り見て回ってから俺に声を掛けた。


「失礼。この店は見た事のない珍しい物ばかり置かれているんだな。この卵みたいなアイテムが気になったんだが、これは一体何に使うんだ?」


 FAZNAで卵と言えば日本男児なら誰もがアレを思い浮かべるだろうが、ここは異世界。アレを見てそんな使い方をするなんて知らなかったら想像すら出来ないんだから説明は必須だ。


「お客様はお目が高い。そちらはTANGA EGGと言います。こちらに見本がございますが、卵型のケースを開けますと中に柔らかい卵型クッションが入っています。クッションには穴が開いていまして、この中にあるモノを入れると極上の体験が出来るのですが、お客様方はナニを入れるのだと思いますか?もし正解しましたら、一つ無料で差し上げます」


 この世界には日本と違って娯楽が少ないから、こういうクイズ形式のちょっとした遊びは必ずノッて来るはずだ。どうせ当たらないだろうが、当たってしまっても宣伝になるのだから俺にとって損は無い。何なら極上の体験にハマって常連客になる可能性が高いから、損して得取れってやつだな。


「本当か?因みに触ってみても?」


「触ってしまうと簡単にわかってしまいますので、触らずにお願いします。穴はこんな具合に開いています。これがヒントですね」


「それもそうだな。わかった。それぞれ考えて当ててみるか」


「誰が当たるか勝負するか?当たった奴にエール一杯ずつ奢るって事で」


「謎を解くのは楽しいから賛成だよ。賭けも良いね」


 やっぱりノッて来たな。この辺は1年間の下積み中に色々と試して接客していたから予想通りだ。娯楽、賭け事、酒には目が無いんだよな。特に冒険者って生き物は。女にも目が無いが。

 3人は暇なのかタップリと時間を掛けてから答えを出した。


「俺は指だと思うな。卵の大きさを見ても指を入れるにはちょうど良さそうだ」


 赤髪剣士の答えは指。


「指は俺が言おうと思ったのに!同じじゃ面白くないからな…。それじゃあナイフかな。あの卵は柔らかそうだし、柄に付けて握りやすくするとかどうだ」


 青髪盗賊の答えはナイフ。


「君達は本当に浅いな。店主は極上の体験と言ったんだから、そこに何かが隠されているのは簡単に想像出来るじゃないか。答えは食べ物だよ。卵の形なんだからスープを入れると美味しくなるんだ。間違いないね」


 緑髪魔術師の答えはスープ。


 俺からすれば浅いのは全員だよ。寧ろ深読みし過ぎて訳分からない回答を用意した魔術師が逆に浅いよ。長々と解説して掠りもしないってクイズ番組に必ず必要な知ったかインテリ芸能人じゃん。盛り上げてくれてありがとうな。


「正解を発表します。こちらは指を入れるモノ…ではありません」


「あー外したか!一瞬正解したのかと思ったぞ!」


 正解と見せかけて不正解って演出は異世界でも十分通用するんだよな。但しバラエティの型を知らないから間を開け過ぎると正解だと思い込んで不正解と告げると怒り出す人もいる。この辺は良い塩梅でやらないと危険なんだ。


「こちらはナイフを入れるモノ…でもありません」


「やっぱりかー!俺も無理矢理かなって思ってたんだよ!」


 確かに用意した回答を潰されてその場で考えたんだから無理矢理になるのも仕方がない。アドリブで回答を考えるなんてシチュエーションは異世界では滅多に無いだろうからな。


「最後ですが、こちらはスープを入れるモノ………でもありません!」


「長いから当たったと思ったのにな!全員ハズレは残念だね!」


 スープに関してはどうして?ってクエスチョンマークしか浮かばない。口には出さないが論外と吐き捨てて良いレベルの愚答だよな。


「3人とも外してしまった訳だが、正解は一体何なんだ?」


「それはですね、ちょっとお耳を」


 …


 ……


 ………


「なっ!?まさかアレを入れるのか!?」


「コレがアレの代わり!?そんなモノが存在したのか!?」


「それは予想外だったよ。極上の体験って言ってたけれど、それは本当の本当なのかい?」


「私も愛用していますが、極上の体験は約束しますよ。今でしたらオープン記念としてお一人様一点まで銀貨一枚で販売しましょう」


「「「買った!」」」


 FAZNA商店は開店3日目にして初めて売り上げを記録した。銀貨3枚は日本円にすると3000円でしかないのだが、この売上実績が呼び水となって店はきっと忙しくなるだろう。俺はそう確信している。

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