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新商品を仕掛けよう④

「取り敢えずはこんなところかな。ロミーは売れると思うアイテムはあったか?」


「ありました。どの商品も可能性の塊だと思いますが、必ず売れる商品があります」


「それじゃあ、せーので声を合わせて言ってみようか。せーの」


「「サプリメント」」


 やっぱり同じ答えに辿り着いたか。


「やっぱりシトルリンは売れるかな?」


「売れると思います。学校で勉強した知識で恐縮なのですが、勃起不全は治療法が見付かっていないと言われています。高齢の方にはお悩みの方も多いかと思いますし、血行促進など冷え性で悩まれているご婦人方も多いです。私も冷え性が解消出来るのなら飲みたいです」


「よし、早速注文してみよう」


 FAZNAでシトルリン配合サプリメントを注文。所謂アメリカナイズされたデザインのボトルはサプリ後進国の日本製サプリよりも効きそうな印象はある。印象があるだけでメイドインジャパンなんだけどな。まあ、地球産のサプリメントが異世界の人々にどれだけ効くかは試してみないとわからない。ならば初めは日本産サプリメントから試してみるのも間違いでは無いだろう。


「ついでにこっちも注文してみるか」


 追加で注文したのはエナジードリンク。FAZNAで扱っているやつなので十本幾らで買える廉価版じゃなくて夜のお供にってアレだ。TANGAと違って在庫が少ないから在庫がある物は全て購入。まとめ買いをすればFAZNAも追加発注をしやすいだろう。エナドリだったら冒険者需要が普通にありそうだから在庫を抱えても問題無い。


「問題は効果の有無と値段が高い事なんだよな。特にサプリメントの方は」


 エナドリは一本で銀貨一枚強だから銀貨二枚程度に抑えてもいいんだが、サプリメントは銀貨七枚近くもするんだよ。売るとしたら小金貨一枚以上だろうが、平民が買い物で小金貨を出すのって服とかだからな。得体の知れないサプリメントにそんな金額を払うとは考え辛い。


「でしたら中身を小分けして売るのは如何ですか?それでしたら安く販売出来ますよ」


「それだ!…と言いたいところなんだけどな。サプリメントって継続的に利用して効果を発揮するモノだから一回使いきりだと効果が無いんだよ。三ヶ月から半年使って漸く効果が現れるなんてのがザラだからな。バイアグラぐらい即効性があれば良いんだけれども…」


 薬局やネットで普通に買えるサプリメントと違って、処方薬のバイアグラは飲んで三十分から一時間もあればバッキバキに効果を発揮すると聞いている。アレぐらいの効果があるならば小分けして売るのも全然アリなんだが、流石に一回では効果の無い商品を小分けで売るのは詐欺みたいで憚られる。


「試しに兄に飲ませてみましょう。何を飲ませたかは言わずに効果が出れば、小分けして売り出しましょう」


「え?肉親を使って人体実験みたいな真似して良いのか?」


「私はデリカシーの無い兄に怒っているのですよ。飲んで体に悪い物でもないですし、ここは黙って飲んで貰いましょう」


「お、おう。わかった」


 夕食後。


「ジーク。これ店に並べる新商品だから試しに飲んでみてくれ。筋トレの効果を高める薬だ」


「本当かよボス!そんな良い物があるなら、もっと早く言ってくれよ!」


「すまんすまん。あ、言い忘れてたけどFAZNA商店の従業員はTANGA EGG無料お試し期間中だから必要だったら声を掛けてくれ」


「ん?俺には必要無いが、一応わかったよ。それじゃあ俺は部屋に戻って早速トレーニングするぜ!」


「さて、どうなるかな?」


「効くと良いですね」


 三十分後。上の階でトレーニングをしていたジークが股間を押さえながら階段を駆け下りて来た。


「ボスー!TANGA EGGを一つ貰うぞ!」


「おう。勝手に取って部屋に持っていけ」


「感謝する!うおぉぉ!」


「効いたみたいだな」


「兄のああいう姿を目にするのは何とも言えない気分です…」


「すまん」


「いえ…」


 翌日。昨日から異常なテンションが続いているジークベルトが店の外でスクワットをしながら客の呼び込みをする声が聞こえる。


「夜の!」


「元気を!」


「取り戻す!」


「奇跡の!」


「秘薬!」


「販売中!」


「自分も!」


「愛飲!」


「しています!」


 外うるせぇ…。今日のジークベルトは上半身裸なのも相まって物凄い注目を集めてるんだよな。特に旦那とご無沙汰っぽい奥様方が艶っぽい視線を送ってるんだよ。宣伝効果としてはかなりでかい。宣伝の良し悪しは正直わからん。因みにサプリメントじゃなくて秘薬って言ってるのは、この世界の住人にも理解出来るようにしたからだ。一般的じゃないサプリメントって言葉で宣伝しても何も伝わらないからな。


「いらっしゃいませ」


 FAZNA商店にしては珍しく女性客が来店した。年齢は三十代前半ぐらいだろうか。女性客はローズマリーの前まで来て勢いよく質問を浴びせた。


「外で言ってる内容って本当なの!?」


「はい。こちらのシトルリンボンバーは夜の生活をサポートする秘薬です。昨日兄が服用して効果は実証済みですので、是非お試し下さい」


「そう…なのね。だけれど、夫に効果があるかは分からないわよね。どうしましょう。悩むわ」


 女性が悩むのも理解出来る。小分けして買いやすい価格になっているとはいえ、たった三粒で銀貨一枚は勇気のいる買い物だろう。しかし彼女は男の客しかいなかったFAZNA商店に勇気を出して足を踏み入れた。その勇気に報いてやらなくてはFAZNAの名を背負う者として失格の烙印を押されるだろう。


 勝手に背負ってるから無認可FAZNAなんだけれども。


「お客様。こちらを購入するかお悩みでしたら良い方法がございます。こちらのシトルリンボンバーをお試し頂いて、後日感想を頂きたいのです。これは体験モニターと言いまして、後日のご来店をお約束頂けるのでしたら、こちら銀貨一枚分。合計三粒のシトルリンボンバーを無償で差し上げます。如何ですか?」


 日本でも頻繁に行われている体験モニターは、簡単に言えば企業が消費者に商品を試させて使用感を調査する方法だ。企業ではこれによって商品の問題点を洗い出して改善をする事で商品をブラッシュアップするのだろう。今回の場合は改善しようのない完成品を試させるので体験モニターが適切な言葉か微妙だが、この世界には無い戦略なのでゴリ押しさせて貰う。


 昨日ジークベルトに試させたシトルリンボンバーだが、女性の言う通り全員に効果が出るのかは定かではない。俺も試しに飲んでみたが、ジークベルトの様な効果は一切感じなかった。何故だかローズマリーがガックリしていたのは置いておくとして。


 今回お試しで注文した六十粒入りのシトルリンボンバーはモニター用と宣伝用として全て無償で配ってしまっても問題無いと考えている。今のFAZNA商店は主力商品のTANGAが絶好調ではっきり言ってしまうとボロ儲け状態だ。他に競合がいないのもあるが、日本人の性に対する貪欲さが生み出したモンスターオナホは異世界で広がりを見せ続けていて留まるところを知らない。そんな状況なので銀貨七枚程度の損失を被っても少しも痛くはないのだ。

 日本でも大型展開する予定の新商品を発売する時なんかは大量のサンプル品をばら撒いて宣伝する手法がある。その手法にアンケートを付けて、尚且つ効果が出れば口コミで広めてくれればラッキーって感覚である。


 これは貴女に訪れた千載一遇のチャンス。さぁ奥さん。FAZNAの手を取りこちら側の世界へ足を踏み入れるのだ。


「わかりました。私はザーラと言います。後日必ず感想を伝えに伺います」


 ザーラと名乗った奥さんはそう言い残してローズマリーから受け取ったシトルリンボンバーを大事そうに抱えて帰って行った。

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