番外編 超能力者の戦
※これは本編の安須川未来がいる世界とはあくまで別の世界線でのお話です。ただ、パラレルワールドみたいなものなので大体の設定は同じです。
私の名前は安須川未来。十七歳。華のJKである。
それもただのJKではない。「超能力が使えるJK」である。
世界でたった一人 (たぶん)の超能力JKだ。すごいだろう。すごいと言うがいい。ふふん。
え、なんで超能力が使えるのかって?それは分からない。
親も従兄弟も祖父母もその他親類縁者の中にも超能力が使える人はいない。一族で私だけなのである。
おそらくは神からの贈り物なのだろう。
別に欲しいと願った訳ではないのだが、もらってしまったからには有効活用しなければならない。
何せ、私はその超能力の代償で運動が全くできない身体になっているのである。比喩ではない。文字通りに運動が全くできないのである。
私の本来の体力であれば、百メートルを歩き切ることすら出来ないだろう。無論登校などできないし授業も受けられないし体育の授業なんてもってのほかである。
しかし私は普通に高校まで通っているし体育の授業もずっと最高評価の五である。
なぜそんなことができるのか。無論、超能力を使っているからである。超能力で身体を動かしているので体力を使わないのだ。身体を一ミリだけ浮かせて、あたかも運動をしているような動きをしているだけであって、私は運動していない。これまで生きてきて運動というものをしたことが無い。
無いのだが。
私は現在、当代最強の剣士と言われている。
……ほとんどの人には意味が分からないだろう。
なので剣士になった経緯から話そうと思う。
そもそものところから言うと、私は日本史が好きだ。特に日本の伝統文化に関わるところがお気に入りだったりする。
そういう背景があるという前提で聞いてほしい。いや、読んでほしい。
私は超能力者であること自体は誰にも隠していない。使えることは言ってもなんのマイナスにもならない。「超能力でなにができるのか」さえバレなければ、私が超能力を使えるということはただの話のタネでしかない。タネになるなら存分に蒔いてやろうという魂胆である。
そんなわけで様々なところでそのタネを蒔いていたわけなのだが、とある日のこと。私のもとに一人の客が現れた。
静石、と名乗るその客は私に身辺警護の依頼をしてきた。なんでも、とある組織に追われているとかなんとか。
んな漫画みたいな話があるか、と思いつつ依頼を受けた。当日、依頼を受けた場所に行ってみた。住所だけ聞かされてたので着くまでそこがどのような場所かわからなかったのだが、そこはかなり前に廃れたと見られる、山の中腹あたりの古い神社跡だった。鳥居はかろうじて原型をとどめていたものの手水舎や拝殿は柱が折れて半壊しており、奥にある本殿も屋根の半分ほどが腐り落ちてるようだった。こんな廃墟同然の場所に本当に依頼人がいるものかどうか疑問を抱いたが、本殿の屋根の様子を見るために飛んだとき、屋根に開いた穴から寝袋に入って眠る依頼人の姿がチラリと見えた。
とりあえず近くの木の影に身を潜めて立っていることにした。
しばらく夜の闇の中で星を眺めながら待っていると、微かだが木の葉を踏む音が聞こえてきた気がした。音のした方向に注意を向けてみると鳥居から百メートルほど離れたところを歩く人間がいることがわかった。この神社跡の方を目指して一歩ずつ登ってくる。
目を凝らしてみると姿を確認することができた。向かってくるのは一人の男。身長は一七九センチちょうど、体重は九ニ・三キロ。がっしりとしたその体躯をこの森の中には似合わぬ黒いスーツに包み、これまた夜に相応しいとは思えない黒いサングラスをかけている。
しばらく静かに待ってみると黒スーツはそのまま登って鳥居を潜り、境内に入ってきた。何をしに来たのだろうか。まさか、本当に依頼主はどこかの組織とやらに追われているのだろうか。
何かを探していそうな黒スーツの雰囲気に違和感を覚えたので雷を落としてみた。閃光が空気を切り裂き、割れんばかりの轟音が山中に鳴り響く。
雷が落ちた後、黒スーツは地面に倒れていた。刺客っぽい雰囲気だったのにたったの一撃で伸されてしまうとはあまりにもしょぼい。死なないように威力は調整していたのだが……。
近づいて脈を測ってみると、弱々しいもののまだ脈はあった。追われていると言うからどんなものかと思っていたが、こいつはただの雑魚のようだ。たぶん末端の構成員なのだろう。
スーツのポケットを探ってみるとドラマとかでよく見る警察手帳のような黒革の二つ折り手帳のようなものが出てきた。開いてみるとそこには「International Criminal Police Organization」という表記の下に「Kisuke Nara」と書かれていた。前半の長いやつは組織名称だろう。だろう、と言うかそうである。結構有名なやつだ。International Criminal Police Organization、略してインターポール、あるいはICPO、日本語名称は国際刑事警察機構。れっきとした国際組織である。
……もしかして私はヤバいやつを護衛しているのだろうか。ICPOがくるということは国際手配されている犯罪者なのではないか。そう思い、眠りこけている依頼主の顔を元にICPOのデータに侵入して探ってみたのだが、特にそれらしき人物は手配されていないようであった。データになっていないだけで何かしらやらかして国際手配されているのかもしれないがひとまずは安心である。
いや、そんな事は置いておいてその戦闘(?)時、私はジャージにパーカーという途轍もなくラフな格好であった。夜だったからよかったものの、そして他にこれといって着る服がなかったとはいえ、お世辞にも良い格好とは言えない服で依頼にあたっていたのが個人的に何となく嫌だった。それに、護衛しているというのに手ぶらで待つというのもあまり私の好みではなかった。手ぶらでも余裕で戦えるのだが、やはり何か武器を持っていた方がそれっぽくなるだろう。
というわけで用意してみた。
服装は着物がよかったのだが、普通の振袖のようなものを身につけてしまうと戦いの最中に裾が捲れあがってしまわないか心配で思い切った攻撃ができなくなってしまいかねない。そこで目をつけたのが巫女装束である。あれなら私好みの着物である上、下が袴なので裾が捲れるのを気にせずに思う存分戦うことができる。
そして得物は刀である。日本の武器と言われて一番に思いつくものといえばやはり刀であろう。
それもそこら辺に転がっているような無銘の刀ではつまらない。どうせなら銘のある良い刀がいい。しかし、そんなものが簡単に手に入るわけが無い。現存している名刀なら大方博物館などで保管されたり展示されたりしているだろう。
だが、だからどうしたという話だ。無いなら作ればいい。刀匠の意識をトレースして実際に存在する刀と全く同じものを作ってしまえば何の問題もない。
一番の問題はどの刀を作るのか、である。名刀と一口に言っても様々な刀が存在する。そのうち佩用できる刀は大刀と脇差の二振りのみ。何十何百と候補があるうちのたった二つを選ぶというのはなかなか厳しい話である。
しかし、戦う度に刀を変えるというのは私の性にあわない。さて、どうしたものか。
悩みに悩んだ末、私が作った大刀は銘を安綱、号を童子切。そう、すなわち天下五剣最古にして筆頭、酒呑童子の首をも断ち斬る童子切安綱である。
そして脇差はかの土方歳三も帯びたとされている大脇差・堀川国広。
どちらもよく名の知られた名刀である。童子切安綱の方で試し斬りしてみたところ直径四十センチほどある木の幹が普通に切れた。自分で作った刀ではあるのだが、あまりの切れ味の良さにちょっと怖くなった。
というわけで、巫女装束に天下無双の名刀二振りという剣士が完成したわけである。
例の護衛依頼が完了した後、どこから聞きつけてくるのか私に仕事を依頼する人が徐々に増え始めた。
そして仕事の度にこの格好で行くうちに、段々と『当代最強の巫女剣士』という評判で名前が知られるようになっていき、今では私に依頼をしにくる人が次々とやってくる状況になっているのだ。
今思えば最初の静石という依頼主、あの人はなぜ私に身辺警護を頼んだのだろうか。超能力者だから戦闘もできると踏んだのだろうか。
しかし、私は前述した通り超能力で何ができるのかということは誰にも伝えていない。ならば当然静石とやらも私の能力の詳細など知らないわけで。であれば結局なぜ凄まじい雑魚の可能性もあった私に依頼をしてきたのかよくわからない。
頭の中を覗けば全部わかるのだがいちいち知らない人の頭の中など覗きたくもない。頭の中を覗くということはその人の思っていること考えていることこれまでの記憶その他諸々を全て見るということだ。興味もない人の全てを知りたいとは思わない。知ったところで何にもならない。ただ気まずいだけである。ならば別になぜ私に依頼したかを知る為だけに頭蓋をかっ開く必要などないのだ。
まぁ、そんなことはどうでもよく、とにかく私はかくして剣士になった。
一度このような世界に踏み入れると、この世界は案外広いのだということがわかった。依頼してきた人は数知れず。依頼主の国籍も多種多様。扱う言葉も千差万別。なんでここまで剣士の需要があるのか甚だ謎である。仕事を多くやれば理解できるのかとも思ったが、何百という依頼をこなしてきた今でもよくわからない。
今日も今日とて仕事である。今日はいつもの護衛の依頼とはひと味違う。今回は護りではなく攻めである。何の組織かは知らないがそこを殲滅してほしいとの依頼だ。攻略でも陥落でも壊滅でもない。殲滅である。この言葉選びに依頼主の強い意志を感じる。
長襦袢、白衣、緋袴と順番に身につけていき、お腹の後ろと前でそれぞれ緋袴の帯をちょうちょに結ぶ。そして足袋に足を入れて最後に草履を履けば巫女装束の完成である。
簡単に言ってるがやってみるとこれが案外難しい。巫女装束も着物だから仕方ないといえば仕方ないことではあるのだが、もうちょい着やすく作れなかったものかと毎度思ってしまう。
あとは腰帯のところに大刀と脇差を差せば巫女剣士の出来上がりだ。
下弦の月が東の空に姿を見せる少し前に静かに家を出る。玄関を出た私の身体を秋らしい少し冷えた夜気が包み込む。見上げれば澄んだ夜空に電灯の光にも負けない星々が少しばかり瞬いている。
近所の公園に着いたところで空を飛んで移動する。スカートを穿いている時は空を飛ぶということは何がなんでもやらないのだが、今は袴を身につけているのでそんなことは気にせずに飛んで向かうことが出来る。
今回の仕事場所は家から五百キロほど離れた森林の中にある廃村らしい。この村自体はもう二十年ほど前に住人がいなくなって荒れ果てているそうなのだが、そこに目をつけた連中がそこを根城として何やら良からぬ企みをしているらしい。その廃村にいる連中の殲滅ということなのでおそらくそれなりの人数がいるのだろう。ただの寄せ集めではなく組織的なものであるならば何がしかの武器を所持している可能性も否めない。
…………まぁ、どんな武器も兵器も私の超能力の前には何の意味も無いのだが。銃弾ごときはいくらでも弾くことが出来るし、大砲の弾もミサイルも私の結界の前には石ころほどの攻撃力も無い。
何、やっぱり刀を持つ必要ないだろって?いや、それはあれだ、前にも言ったが刀を差していると少しばかりは格好がつくだろう。それだけだ。
下弦の月が東の空に昇り始めた頃に目的地の上空に到着した。眼下にはとても人が住んでいるとは思えないような廃屋が数十件建ち並んでいる。しかし、その中に最近建てられたと思われる建物も数件あり、ここ最近誰かがこの地に足を踏み入れていることがわかった。
気配からしてこの廃村には今数十もの人間が蠢いている。モノを運んだり何かを組み立てていたり何やら忙しそうである。この中で最も大きい建物の中には拳銃やライフル銃も数十挺隠してあるようだ。なんともいえない怪しい組織らしさが滲み出ている。いや、隠してもいないのか。
何の組織なのかは相変わらずわからないがこの程度の人数と装備なら結構簡単に終わりそうである。
とりあえず廃村から少し離れた場所に着地する。地上から見るとその廃村に人がいる様子はほとんどわからない。廃屋の陰になる場所に行動範囲を上手く纏めているようだ。実に巧妙なやり方だと言える。気がする。
とはいえそんな事は関係なく。ただ斬り伏せるのみである。
村の中へ歩いていく。何度か曲がり角を通って人が動いている範囲に足を踏み入れる。すると案の定、筋肉だけはあるような雰囲気のある柄の悪そうな男から声をかけられた。
「あ、お前誰だ?新入りか?」
舐めるように私の全身を見る男に嫌悪が走るがぐっと堪える。
「新選組副長・土方歳三」
これが言いたかった。新選組を名乗りたかった。なぜって?かっこいいから。ただそれだけの為にキモい視線に堪えた。だが、もう堪える必要はない。
「……は?」
「参る」
刀の柄に手をかける。身体を低くして前傾する。
「侵入者だ!!」
「殺せ!!」
抜刀。
刀は鋭い剣閃を描いて鞘から走り出し、襲いかかる連中の肉を疾風の如く斬り裂いた。
その瞬きをするほど僅かな時間の後、私の周囲に蔓延っていた十人ほどが音もなく斃れた。脚と胴が真っ二つに分かれて散らばっている。
「…………え?」
後からやってきた連中が口をあんぐりと開けて、刀を握る私と倒れている仲間を何度も見比べる。
「お前ら何ボサっとしてんだよオイ!!さっさと侵入者を殺せよ!!」
幹部と思わしき人物の怒号で我に返った手下っぽい風格の奴らが各々手に棒やナイフ、拳銃などを握りしめて襲いかかってくる。
「……遅い」
つい口にしてしまった。それくらい、あまりにも遅い相手の攻撃に辟易する。まぁ相手はただの人間だから仕方ないといえば仕方ないのだが、これだけ遅いと戦闘中であっても欠伸が出てしまう。
離れた場所にある電灯らしき光が刃に反射して煌めく。
次の瞬間にはその光は刃ではなく飛び散る鮮血を照らし、空中に大輪の血の華を咲かせる。
刀を振るう度に私に襲いかかってくる連中が二人、三人とバタバタ音を立てるように地に伏していく。
敵を倒しつつ少しずつ本部の建物がありそうな方へ近づいていく。
組織の下っ端達を全て倒しきった頃には他よりも一際大きな新築の建物の前に立っていた。おそらくはここがこの組織(?)の本部なのだろう。ちょっとだけ荘厳な装飾が施されているということは、ここは詐欺宗教か何かの拠点なのだろうか。
よく分からないのでとりあえず玄関から中に入る。観音開きの無駄に重い扉を開けて入った瞬間、銃弾の雨が降ってきた。無論、全てを刀で斬り落とす。状況的には「鬼滅〇刃」の水の呼吸 拾壱ノ型 凪を想像してもらえればわかりやすいだろう。あれは途轍もないスピードで刀を振り回しているらしいのだが、今の私もちょうど凄まじい速度で刀をぶん回しているところである。
しばらく振り回していると鉛弾の雨は呆気なく止んでしまった。もう弾切れなのだろうか。これで終わりではあまりにも骨が無さすぎるのだが。
そう思いつつ先程銃弾が降ってきた天井の穴に向かって跳ぶ。幅三センチほどの細長い穴に刀を持っていない方の手を差し入れる。穴にぶら下がった状態で穴の周囲の天井に刀を突き刺すと簡単に崩れた。拡がった穴から身体を上階に滑り込ませると目の前には小刻みに震える銃口があった。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!」
銃を構えたスキンヘッドの男が金属が擦れるような甲高い悲鳴をあげながら銃を乱射する。しかし至近距離で撃ち出されるその弾は私に当たることはない。
弾が全く当たらないことに更なる恐怖を覚えたのか、男は弾切れした銃を捨ててこちらに背を向け、一目散に建物の奥へと逃げていった。
袴についた埃を払って刀を握り直し、奥へと進んでいく。
廊下を歩いている途中何度か銃撃にあったが、すれ違いざまに斬り捨てながら止まることなく歩き続ける。弾幕を張ろうとするわけでもなく、一人ひとり個別で銃を構えているだけのでなんとも倒しやすい。まあ、言い換えればただ単に芸が無いというだけの話でしかないのだが。
この廊下に私以外に人間の気配がしなくなったので一旦刀を鞘に収める。一応巫女っぽくなるように形代や護符を持ってきているので懐から取り出してみる。そして形代と私の視界を同期させて形代を滑らせるように飛ばす。こうすることで形代から見える景色が私の脳内にも伝わり、形代のいる辺りに何があるのか見ることが可能になるのだ。
形代を何度か角で曲げたり昇り降りをさせていると一際広い広間にたどり着いた。その大広間のど真ん中に組織のトップらしき人物が拳銃を持って仁王立ちしている。そして、大広間の壁際にはライフル銃を構えた手下どもが数え切れないほど隠れて息を潜めていた。
なるほど、ここが最終決戦の場所という訳だ。……だが、あの真ん中の男、馬鹿か?自分の真後ろに銃持った人間を配置したらアイツ自身が撃たれるが大丈夫か?というか、私があの真ん中の男を人質にとってしまえば周りの銃撃隊は無力化できてしまうのだが。
まあいいか。敵の心配などしても仕方がない。どうであれ斬り伏せるのみだ。
形代を呼び戻し例の大広間へ向かう。
大広間の入口はまたもや無駄に重そうな観音開きの扉だった。いちいち開けるのも面倒なのでとりあえず斬る。斬った扉は激しい音をたてて崩れた。何も無くなった枠から見える教祖っぽい男は怯えきった表情で扉のあった場所を凝視していた。
扉の残骸を踏み越えて大広間に入ってみると、真ん中の男の顔に浮かぶ恐怖の色が一段と濃くなった。
「お、おま、お前は、ななななな何者だ!!」
物の見事に噛み噛みの悪役台詞が彼奴の口から出てきたので思わず笑みがこぼれてしまった。
まぁ、動揺しまくっている中でも何とか声を出すことができたことに免じて名乗ってやろうではないか。ただし、さっきと同じ名乗りでは面白くない。
「新選組一番隊組長・沖田総司」
これも言いたかった。幕末最強の剣客集団である新選組において、最強と謳われる程の剣士である。いかにも強そうに聞こえるだろう。まぁ、沖田総司のことを相手が知っていればの話なのだが。
「…………?」
案の定真ん中の男は疑問符を頭の上に浮かべているかのような顔をしていた。日本史全体を眺めてみてもそれなりに有名な部類に入る存在だと思うのだが、やはり知らないのだろう。
知らなくても構わない。ともかく私は名乗ったのでもうだいぶ満足している。
「参る」
刀は平星眼に構える。
息を吸う。
足に力を込め、駆け出す。
刀を握りしめる。
刀は平らに寝かせ、刃は外側。
走り寄り刀を突き出す。一撃目は首。
すぐに刀を引き、また突く。次は心臓。
また刀を引き、三度目は腹に一突き。
最後に刀を引くと、例の男は血まみれで床に崩れ落ちた。脈を取るまでもない。既に絶命している。
これぞ沖田総司の「三段突き」である。
足拍子三つが続けて一つのように聞こえ、三本の突きは絶え間なく一つのように見えると言われたほどの剣捌きであった。それを、沖田総司の意識をトレースして再現してみた。やっている私自身でも思うが、途轍もなく早い突きである。常人がこれをできた、それも身体が弱く病がちであった沖田総司がこの技を使っていたということが驚きである。普通の人間が普通に練習を積んだところでできるようになる代物でもない。いかに沖田総司という人物が剣の才能に溢れていたのかということが身を持って体感できた。全くもって末恐ろしい。もし時代が違えば、そして身体が強靭であれば……。いや、止そう。
なにはともあれこれでこの組織を束ねるものはいなくなったはずだ。であれば、もういいだろう。壁際で未だに銃を構えて固まっている彼らにこれ以上戦う理由はないはずだ。
「…………戦いは英雄的であってはならない。戦いは爽快なものであってはならない。戦いとは絶望に満ち、暗く、怖ろしく、陰惨なものでなくてはならない。それでこそ人は戦いを恐れ、戦いを避ける道を選択する。故に、私は二つの道をここに提示する。すなわち、ここで私と戦って死ぬか、武器を放棄して自由になるか。どうするかは貴方たちに委ねる。好きにするがいい。ただし、立ち向かってきた者には容赦はしない。その首を貰い受けてやろう」
(前半はそっくりそのままBLE◯CHからの引用である)私の言葉を聞いたあと、一人、二人と銃を捨てて部屋から出ていき始めた。それを見た他の者も後に続いて銃を捨て置き、列をなして部屋の外へと出ていく。
最後の一人が部屋から出ていくのを見届けた後、この村全体に火を放っておくことにした。今回の依頼内容は組織の「殲滅」である。しかし、私は一部の人間を逃がした。であればここにあった組織のことも、彼らがここにいたことも隠蔽しなければならない。燃やしておけば大方の証拠は消えるし、依頼主からしても戦いの中で火があがって構成員諸共焼け陥ちたという認識になり、逃げた者がいるという情報は耳に入らなくなるだろう。
超能力で火をかけた部屋は瞬く間に炎に包まれ、その火は何分もしないうちに村全体を飲み込んだ。それでも一応保険で偽装の術式は掛けて村を去った。
「仕事は上手くやってくださったようですな」
後日、依頼主に依頼完了の報告をしに行った。私が伝える前から既にあの村の様子は知っているようだった。
「はい。不備等はありませんか?」
「いやいや、十分過ぎるくらいよくやってくれましたよ。私が思っていた以上だ。ああそう、こちら、今回の報酬です。どうかお納めを」
テーブルの上に分厚い茶封筒が置かれる。もう慣れた光景だ。手に取って中身を確認すれば帯付きが二束。毎度思うがこんなことにこんな大金を突っ込める依頼人たちはどういう仕事をしているのだろうか。表立って活躍出来ない仕事をしているからこそわざわざ裏ルートで私に接触してくるのだろうが。そうでは無いかもしれないけれども。
「ありがとうございます。確かに受け取りました」
「いえいえ。それにしても貴方、本当に高校生なんですな」
「……と言いますと?」
「いや何、何か裏があるとかそういう訳では無いんですがね。最初伺った時はこんな世界に高校生などいるわけないと思っていたのですよ。でもまさか本当に高校生がこの世界にいて、これほど的確に仕事をこなしてくれるとは。世の中まだまだ知らないことも多いものですなぁと思ったわけでございますよ」
控え目にホホホ、と作ったような笑い声をあげる依頼人を見つつ、手元のコーヒーを一口含む。
「はぁ……確かに普通の高校生はこんなことしないでしょうね。出来ないでしょうし」
「ええまあ、端的に言ってしまえばそうなんですがね。なんとも驚きに満ちた出会いでしたよ。良い報告と面白い時間をどうもありがとう」
そう言って話を切り上げると依頼人は「これでお支払いください」と二人分のコーヒー代をテーブルに置いて店を出ていった。
それを見送りながらまたコーヒーを飲む。
「…………ふぅ」
さて用事も終わったわけだし、せっかく他人の金でコーヒー飲んでるので来週のテストの勉強でもするか。こういうメニューがなかなかに高くて趣味のいい喫茶店に来ることなどそうそうないので少しは満喫してから帰ろう。
……テスト範囲どこだっけ。たぶん佑奈なら知っているはずだ。LINEを送ってみるか――。
というわけで番外編でした。一応本編は日常系のほほん超能力コメディー(?)でやっているので普通に戦ってるこの話は本編外のお話となりました。私が書きたいものを詰め込んだだけなので支離滅裂だったかもしれませんが未来の強さに免じて大目に見てください……。
読んでいただきありがとうございます!この作品では誤字・脱字報告、感想、レビュー等を募集しております。何かしら書いていただけると作者としてはかなり励みになります。お忙しいこととは思いますが、ぜひぜひお願い致します。




