クラスごと異世界召喚されましたが死体付きで。
クラスごと召喚×Jホラー。のっけから人がしにます。
「ヒィッ…やめてくれ蛭子っ…オレが…オレが悪かったよっ…」
ごぎんっ
その言葉を最後に、中年男性の首が背中を向いた。
と、同時に教室の内側が光り輝き、市立I中学校2年A組は異世界召喚された。
「おぉ…成功だ」
「神官長、しかし何やら様子が…!!」
総勢二十八人。似たような黒い服の彼らは何かを避けるように円を描いてお互いに身を寄せ合っていた。
中央にはこと切れた男。彼らよりも年が離れているようで、何やら恐怖に歪んだ顔で首をねじって死んでいた。
神官長と呼ばれた老人は、驚きのあまり長い袖で口元を覆う。
「一体これはどういうことだ…召喚の儀に死者が紛れ込むなぞ前代未聞だ」
すすり泣く少女らをなだめ、どういうことか聞き出そうとするが一様に口を閉ざす。
「それより、あなたたちは誰ですか。
ここはどこなんですか」
しっかりしていそうな、短髪の少女が神官長たちを不安そうに見る。
「ここはあなたたちが暮らしていた国とは別の場所、別の世界。
神聖エスタニアは今、魔王によって苦しめられているのです。
どうか異世界の勇者たちよ、我々をお救い下さい」
恭しく懇願され、少女はたじろいだ。だがここで安易に返事をしてはいけないと、少し理性が働いた。
「みんなと相談させてください…あと先生を、先生をどうにか…」
片付けろということなのか、それとも蘇らせろという意味か。
「残念ながら我々の神であっても死者をよみがえらせることは不可能です…
申し訳ない」
死者は神殿において穢れだ。神殿の外で弔うよう指示し、少年少女らを神殿の広間で落ち着かせることにした。アクシデントはあれど、召喚には成功した。すでに王には報告が行っているはず。
満足げな神官長に対し鑑定スキル持ちの若い補佐が、落ち着かない様子で進言する。
「神官長、おかしいです…あの死んでいた男を除けば、彼らは二十七人のはず。
なのにステータスの数は二十八あるんですよ」
「死んだすぐ後にこちらに来たからではないのか?
彼らの中に勇者の称号は?」
「えぇ、ありました。
けどやっぱりおかしいんです…」
レベル1の彼らの中で、勇者だけがレベルが分からない。
場所は神殿から王城に移り、彼らは王族に歓迎された。
威厳のある王様とその娘である美しい王女様。居並ぶ白い甲冑の騎士たちは兜を外していて、まるで海外スターのような体格の良さと顔面に子供たちは浮足立った。しかしテーマパークにいるような錯覚に陥り、未だに現実を受け止めきれない。
ふかふかのベッドにご馳走。もてなしを受けてホッとした者もいれば逆に落ち着かずに不安がる者もいた。帰りたいよ、と泣く子を短髪の少女、委員長は慰めていた。
自分だって帰りたい。なんでこんなことになったんだろう。
あまりに色々なことが起こりすぎて混乱するが、そもそもは教室に閉じ込められたことから始まった。薄暗い校庭。台風の進路がずれて、こちらに向かってきているのだと早めの下校を勧められていた。
早く帰れる、ラッキー、とそわそわしだした教室で、担任が急に悲鳴を上げたのだ。
何かが教室の後ろにいるかのように、慌てて廊下に出ようとした。その時ピシャリとドアが閉まった。前と後ろ、両方の扉が。
そして彼女の名前を口にした。
「ねぇ…先生が死んだのやっぱりさ…」
「しっ」
「ここは日本じゃないんだし、『あいつ』も追ってきてないって」
「先生のことは残念だけど…今大事なのはうちらのこれからだよ。
戦うなんてできないじゃん、なんとかなんないかなぁ」
「ていうか帰れんの?
○○くんのいない世界なんてマジ無理なんですけどー」
好きなアイドルに見たい動画、未練はあちらにいっぱいある。ファンタジーにワクワクするほど女子は夢見がちではないのだ。
「おもんねーんだよ!
ドッキリか、あぁ!?
こんなことしていいと思ってんのかぁ!?」
不良の彼にとって、たまたま学校に来ていたがために運がなかった。クラス内は程よく荒れていて過ごしやすかったが、少し前に事件が起きてそれ以来ほとぼりが冷めるまでサボっていたのだ。
あれくらいで自殺しやがって、と彼を含め自殺した少女を表立っていじっていた生徒たちはバツが悪かった。
教師が死ぬ前、その名を呼んでいたのも不安の呼び水になっていた。
「やめなよ、叫んでも意味ないって…」
優等生ぶっているこいつも積極的にはいじめを止めはしなかった。
何自分だけは善人面してやがる。面白くない。
「小便行ってくる」
乱暴に出て行った彼を見送り、隅にいた陰キャグループの男子たちが『あぁフラグ回収乙』と囁いた。
「ぎひひ…いいねいいねぇ…
死の匂いがプンプンするよぉ」
城の上空から彼らの様子をうかがう影。魔王の間諜はそこかしこにいる。
「勇者召喚なんてやらかすからちょぉ~っぴり焦っちゃったけどサぁ、なんのこたぁない弱そうなひよっこばかりじゃないかぁ」
今のうちに潰した方が、後々面倒がないのではないか?
何人か間引いて手柄に持ち帰れば、魔王様も重用してくださるはず。
ちょうど群れから出てきた一匹に目をつける。
体格のいい、金茶の頭の少年。
「おおい、誰かいねーか。便所どこだよ!!」
星明りしかない、庭に面した渡り廊下。そこかしこにどす黒い暗闇があった。
べたべたと上靴を鳴らす音。しかしそれに続く、小さな足音に気づき振り返るもだれもおらず。
『おぉい』
低いような、高いような。
『おぉい、デブスが通るぞぉ』
長い前髪で顔を隠した、ぽっちゃりした女だった。
後ろの席の彼女がプリントを回収するために机と机の間を通るたびに、ドスッドスッとはやし立てれば女子は喜んで「やめなよぉ」と笑っていた。
別なクラスに友人がいるのだろう、休み時間になればそそくさと教室を出て行った。
しかしそれも長く続かず、教室の後ろの席でつっぷしている彼女の机にわざと足をのせたり、彼女が机に入れていた漫画が描かれたノートを引っ張り出して笑いものにした。
彼女に対しては何をしてもいい。それを率先して許していたのが担任だった。
「お前なぁ、勉強ができても運動できなきゃ意味ないじゃないか。
部活に入れぇ!ちったぁやせろ!!」
彼女をいじることによって教室は笑い、まとまっていた。
その彼女が学校に来なくなった。話によれば、拒食症になっていたらしい。
よく似た太った母親が教室にやってきて、うちの子をいじめないで頂戴と泣いていた。
いじめなんかないと言い張る担任に、だんまりの教室。
そのすぐ後に、彼女は自殺した。
だからこんな、枯れ木のようなガリガリの女、知らない。
『ねぇ』
まず左足首がねじられた。いぎぃ、と痛みで妙な悲鳴が出る。
『逃げられると思った?』
少しでも遠くに逃れようと這いずるその右肩がぐりんと回った。
『逃がさない』
絶叫、したように感じたが、今度はその顎を砕かれたので声を出せず。
『だってまだ始めたばかりだったのに』
痛みで朦朧とする彼の目を、真っ黒な目が見つめ返す。
『許さない』
「いやぁ素晴らしい!!
王城にこんな強力な悪霊がいたとは!!
ぜひともわが魔王軍に」
『黙れ』
パキュッという軽い音を立て、カラスの細い首が折れた。
廊下に転がるのは恐怖に歪んだ少年と、魔物の死体。
深夜発見されたそれは、少年が勇敢に魔物と戦った証とされ、より一層彼らへの期待が高まった。
≪蛭子よりこ≫
クラス:戦士
レベル■■■
スキル:フィジカル強化から呪力による圧殺に変換
称号:勇者 復讐者 殺戮者
備考/なお彼女はすでに死者であり、その原因を作った者たちに強い恨みを抱いている。
魔王に対抗する勇者の力は持ち合わせているが、それを魔王に向ける理性はない。
趣味に走りました。ホラー好き。唯一の勇者称号持ちはすでにしんでる&悪霊化で復讐したいだけなので魔王とか知ったこっちゃない。ゲームしない人間なのでRPGのステータスとかは見様見真似です(;^ω^)