突発コラボ
短めです。
現在波湯ダンジョンにて突然のコラボ依頼に取り乱す俺をなだめるようにコメントが流れた。
『おち、おちつけ』
『まあ、来るんじゃないかとは思った』
『逆に今まで他の人から声かけてもらってないことに驚いたわ』
『つーか、いいの承諾する前に話しちゃって』
流れるコメントによって心を落ち着けた俺ではあったが、承諾していないうちに暴露してしまった行為に対してまた焦る。
「え、えっと、どうしよ。いや、オッケーすれば関係ないよね」
そんなことを口走りながら俺は承諾に意を示した文面を送った。
言葉遣いがあっているかは怪しいところであるが、半ばパニックになっていた故に特に推敲することもなく送信ボタンをタップしていた。
そんな行為に後悔する前にスマホは震え、俺の返信に対してのメッセージが送られてきた。
「…………今からでもいいですか?……って、今!?」
文章を何気なく口に出して俺は驚いた。
そんなコラボって急激に始まるものではないと思っていたが。
少なくとも日を跨ぐとかも考えていただけに、頭を悩ませた。
ただ、その反応はおかしくなかったようで……
『そんな直ぐ!?』
『近くにいるんかな?』
『緊急コラボが過ぎるのでは?』
コメント欄と俺と同様に早いと感じているようだった。
そんな文字の流れを見ながら、俺はどうしようかと口を開いた。
「みんなはどう思いますか?結構すぐな感じですけど」
『うーん。日を改めたいならそう送ればいいんじゃない?』
『何処で何するかによるしなぁ』
『まあ、花火ちゃんが良いならいいとは思うけど』
「うーん。……決めた!今からで」
俺は悩んだ末にそう決めた。
スマホに送られてきた文面から察するところこのダンジョンに居るらしいし。
それにコラボを後日にしたら絶対に緊張して眠れなくなる自信がある。
そんな弱気なことも思いながらも、俺は「よし」と気合を入れた。
◆
ダンジョン配信者「ウラウちゃんねる」。
活動期間2年足らずでダンジョンにおける最高到達階層は50を越えて今では60間近となっている。
配信者であるウラウの最大の魅力はその剣技にあり、卓越したその剣さばきは探索者の中でも指折りの実力だと言う。
そしてその端正な顔立ちと実力によって多くの視聴者を獲得している。
そんな彼女が今回のコラボ相手であった。
「す、すごい」
ネットで軽く調べた俺はその情報に声を洩らした。
実力はともかくとして配信が伸びてきたのはここ一年くらい。
それ故に最近配信を見れていない俺にとっては知っている人、と言うわけではなかったのだが、それでもその経歴を見ればどれだけの大物であるかなど察することが出来た。
「ごめん。待たせちゃったね」
そしてそんな声と共に本人は俺の前へと姿を現した。
青く輝く瞳が特徴的な少女、ウラウさんである。
腰に刀をさして青を基調とした服を身にまとう姿はさながらサムライである。
まあ、和服じゃないからあくまでサムライであって侍ではないのだが。
そんな彼女に一瞬見惚れるものの俺は咄嗟に言葉を返した。
「こ、こちらこそ態々来てもらってすみません」
「そんなことないよ。転移陣には比較的近かったし」
ウラウさんがそう言って笑うと、後ろで一つにされた髪がわずかに揺れた。
「それよりも、自己紹介とかしとこっか」
気を取り直すように彼女はそう言った。
確かに、このまま謝罪合戦を繰り広げても埒があかない。
彼女のその発言に俺は頷いた。
「じゃあ、花火ちゃんのリスナーさんは知らない人もいるだろうから少し詳しく。ダンジョン配信者のウラウです。メインウェポンは刀、いつもは50階層あたりに居ます」
『本物だ』
『花火ちゃんに声をかけるとは見る目がある』
『知ってはいたけど結構優しそうな人だな』
『なんかもっとクールと言うか、そんなイメージあったわ』
ウラウさんに視聴者は湧く。
それにやっぱり知名度は高いようで、知っている人が大多数。
知らないと言っても存在自体は知っていると言う程度のように見えた。
「次は花火ちゃんね」
「は、はい。えっと、花火です。武器はナイフです。お願いします」
『ナイフ(普通の)』
『戦闘用のナイフじゃないんだよね』
『え、マジ?』
『二人が並んでると絵になるな』
「よろしくね~。じゃあ、そんな感じで、それと今回は花火ちゃんの枠でやってます。私の方では何もしてないけど、どっちの視点カメラも見れるようにはなってるからうまく活用してね」
基本的に進行してくれるのはウラウさんである。
コラボどころか配信だってまだダンジョンだけで言えば二回目。
正直大分おんぶにだっこの状態ではあるのだが、助かっていた。
そして彼女が言うように配信枠は俺の方でしかとっていない。
そのため、両方の視聴者が混在している状態になっていた。
「でも、よかったんですか?誘ってもらったのに、こっちの枠でやっちゃって」
「ん?いいよ、いいよ。こっちの我儘も聞いてもらっちゃってるし」
その言葉に一瞬俺は首を傾げる。
そんな俺を見て彼女は補足するように口を開いた。
「いきなり声をかけて答えてもらったこともそうだけど、真剣の類は使わないとは言え、決闘の誘いまで受けてもらっちゃったし」
「ふぇ?」
思わず間抜けな声が漏れた。
決闘、そんな単語が出た理由が分からない。
いや、承諾した記憶も、頼まれた覚えもない。
そう思いながらも、俺はDMの内容に再度目を通した。
「あ」
見落としていたのだ。
ものすごくわかりやすいところに、尚且つ強調して書かれているその単語を俺は見落としていた。
『まさか』
『え、なに?知らなかったん?』
『またか』
『やっぱ抜けてるな』
「もしかして、気付いてなかった?」
コメント、そして当の本人にも指摘された俺は固まる。
ウラウさんは俺を気遣うようにしてまた口を開く。
「気付いてなかったなら、仕方ないよ。嫌なら、取り消してもいいけど。他の企画でもいいし」
「い、いえ。やります。せっかく誘ってもらったんだし」
彼女の言葉に勢いあまりそう答えて、俺と彼女の決闘は決定した。