教習ダンジョン
「えっと、取りあえず19階層の奥まで来たので終わりたいと思います」
『お疲れ』
『おつ』
『おつ』
『ああ、教習ダンジョンだからこんなに強くても、上の方の階層なのか』
『次も楽しみにしてる』
俺はそう言って流れているコメントを見る。
そこに書かれた教習ダンジョンの文字に首を傾げる。
だが、先に終わらせようと思って言葉を紡いだ。
「じゃあ、さようなら」
一言そう言って俺はカメラを切った。
当初の予定とは大分違かった感じだけど、これはとてもいい踏み出しではないだろうか。
最悪ネットの海に埋もれてしまうような配信と言う過酷な世界でこんな結果に至ったのは幸運を通り越している。
何せ告知どころか、カウンターでしてもらった最低限の設定しかしてないしな。
「ふぃ」
まあ、どんだけ嬉しい事態に恵まれたとしても、疲労というのはたまるもので俺はそんな声を洩らしたのだった。
◆
さて、配信の最後で俺が目についた「教習ダンジョン」と言う言葉。
それにたいして疑問をもった俺はダンジョンから帰還した後カウンターでそのことを口に出した。
「以上を買い取りでよろしいですね」
「はい」
「でしたら、2453円になります」
俺はドロップアイテムを換金したお金を財布に入れる。
数時間潜って稼いだ額だ。
確かによく考えてみれば、おばさんが言ったように自給換算すれば最低賃金にも及んでいない。
そんなことを思いつつ、話を振った。
「あ、えっと教習ダンジョンってのは何ですか?」
ここ一年通ってはいたが、必要以上に話しかけたことはなかった。
だが、配信をして気が大きくなっていたからかそんな言葉が口から出た。
「?…………えっと、どういったご質問の意図ですか?」
「え、いや、単純にさっきの配信で見て……」
ただ、やはりと言うか失敗した。
こんな会話もうまくできないからボッチだったと言うのにその事実を浮かれて失念していた。
「えっと、教習ダンジョンと言うのは、教習を行うのに特化したダンジョンで、ここのように全国にありますが」
何とかひねり出して回答してもらったが、俺はその事実に驚愕した。
「そ、そうなんですね」
「はい。……ああ、それと再度通知になりますが学科を終わらせてくださいね」
「がっか?」
またしても俺の頭に?が浮かぶ。
学科。
そう聞けば勉強的な奴だとは分かるけど。
「えっと……」
そんな俺を見てか何だか困った様子で受付の人は話し出した。
そこから数分受付の人の話を聞いた結果分かったことがあった。
いや、知らないことが多すぎた。
まず、ダンジョンに入るのには探索者資格を取る必要がある。
で、まず教習がおこなわれるという。
最低一日、どれだけ長引いても三日。
内容は、実習と学科。
前者は実際にダンジョンに潜って指定されたドロップアイテムを取得してくること。
後者は対面ではなく『D-NET』に配信されるダンジョンについて学ぶことが出来る動画を視聴することだと言う。
ダンジョンに潜って取ってくるドロップアイテムは二層にいる魔物である「藁結蛇」が落とす藁。
そして学科は三本の動画を見るだけらしい。
で、俺は学科をせずに教習をすることを極めている教習ダンジョンで攻略をしていたらしい。
「そんなこと一度も……」
「最低でも月に一度は言いましたし。『D-NET』には毎日通知が行っているはずです」
そんははずはと俺はスマホを開いて通知が来ていないかを確かめる。
だが、何処にもそれは見つからずやっぱりなと思いながら、迷惑メール設定を何気なく解除した。
「あ」
大量に現れたそれらの痕跡に俺は声を洩らした。
そう言えば、最初の方に毎日メールが来てて迷惑設定したような。
と、そんな時、奥からもう一人のスタッフの人が出て来た。
「あ、あの!」
何だが慌てた様子。
どうしたんだろう。
そんなことを思っているとその言葉が紡がれた。
「配信、終わってないです」
◆
「おわったぁ」
午後八時五十二分俺は一人伸びをした。
退屈からの解放を身体で体現したような伸びは、縮んでしまった身長など物ともしないかのように天井に突き出された。
凝ってしまった肩をほぐしながら俺は計三時間ほど凝視していたスマホのアプリを落とした。
アプリ、つまるところ『D-NET』であるが何をしていたかと言えば先ほどの会話にあったように学科である。
大体50分くらいある動画を連続で三本見た俺の体力はゼロに近かった。
顔を映し十数分に一回起動するカメラのせいで立ち上がることも出来ない。
AIに監視されながらの三時間は実に堪えた。
まあ、それがなかったら俺はきっとゲームでもしながら流し見していたことだろう。
でも、途中で止めると最初からと言う仕様はきつすぎる。
命をかける探索者と言う事を考えたら、別に反対意見などないのだが、危うく始めからになりそうになっただけに好む様なものではなかった。
「とにかく終わったし、そのことは忘れよう」
そう自分に言い聞かせて俺は忘れることにした。
別に無事終わったわけだし。
それに、俺にはもっと気にすべきことがあった。
そう、配信のきり忘れである。
俺が受付で教習ダンジョンについて聞いているとき奥から出て来た人が教えてくれたが、どうやらカメラだけ切っており音声は入ってしまっていたらしい。
つまり、どういうことかと言えば、俺が話を全く聞かない奴だと言うことを全世界に発信してしまったわけだ。
なんとも恥ずかしいばかりだが、TSした俺は美少女であるので、それに免じてそれも愛嬌と言うことで受け止めてほしい。
そう願っておいた。
それともう一つ気になることもあった。
いや、気になる、というより、今回の学科を終わらせた末に訪れる探索者資格を取ってからのことだった。
資格を取ること自体には問題はない。
だが。
「次はどのダンジョンに潜るかってことだよな」