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少し前


「逃した!」


 悪態をつきながらも俺は進む。

 ここから三十層ボスまでは百メートル弱しかない。

 とまる理由もなかった。

 ここからでも扉が見えるくらいだ。


 だが、あれだけの人数の実力者が集まれば討伐は一瞬だろう。

 追いつけるか分からない。


 それでも勝機あると俺は考えていた。



 俺が足止めのメンバーに入ったのは、適任だと思ったからだがそれ以上のシキカさんが三十層の魔物に対して有効な手を打てると思ったからだ。

 彼女とは同じグループであるだけにスキルの情報を共有していた。

 配信に関係上配慮は必要だと考えたが、彼女は別に隠す必要はないと言い教えてくれた。


 そしてそんな彼女があの場にいるのならば問題はないだろう。

 足止めは突破されてはいるものの、最悪の想定は避けた。

 それだけで十分だ。





 ◆


 納屋シキカと言う少女は本来ダンジョンハントと言う目立つようなイベントに参加するに至った理由は実生活では不可能な知り合いづくりと言うのをチーム戦であることを利用して行おうと言う目論見が発端だった。

 しかし、そもそもの話だ。

 彼女にとってそこまでの行動力があれば友達など出来ている。

 大体、イベント以前に探索者なんて人種になったのだって嬉々としてなったわけではなかった。


 事の発端は、大学に進学し一人暮らしを始めてからの事だ。

 彼女にしてみれば実家通いが可能な大学を選んで態々進学していた。

 故に、一人暮らしなど考えたことはなかったのだが、ついテレビで新生活に向けて部屋探しをする番組を見た。


「一人暮らしって自由で良さそうだな」


 そんな一言を呟きつつも、内心は「まあ到底無理だろうけれど」と言うのが本音だった。

 ただ、そんな呟きは母親に届いていたようで、夕食時に食卓を囲めば何故かシキカが一人暮らしをすると言う話になっていた。


「いや、別にホントにしたいって意味じゃなかったんだけど」

「そうなの?」


 仕事から帰って来た父にも話は伝わっていたもののすぐに誤解を解いた。


「でも、シキカがしたいならすればいいと思ったのにな」


 シキカの両親は本来放任主義。

 シキカの性格上家に引きこもっていることが多いためにその片鱗を見せることは少ないが、多少の融通は効かせてくれる傾向にあった。

 余程遅くならなければ門限だってないし、やりたいことを言えば否定せずに応援してくれるだろう。

 そして今回のように一人暮らしをしたいと言う要望があると思えばすぐに動くような親だった。


「でも一人暮らしか……」


 シキカはそう声を洩らす。

 したくない、というわけではなかった。

 しかし、彼女は不安ごとが一つでもあれば避ける傾向にあった。

 途中で投げ出して逃げるような性格でないだけに、その前に避けるのだ。


 ただ、母はシキカに口を開く。


「無理にとは言わないけど、興味あればすればいいと思うけどな」

「家賃は俺が出してあげるし、もし合わないと思えばすぐ帰ってくればいいしな」


 父も加勢してそんなことを言う。

 そんな両親の言葉に背中を押されて、シキカは頷いた。


「うん。そうする」


 そんなこんなで始めた一人暮らし。

 いろいろなことに苦戦しながらもなんとか慣れたころ、新たに問題が発覚する。

 アルバイトをしなければならない。


 父親は十分に金を出してくれている。

 それこそアルバイトをしなくてもいいくらいに。

 でも、だからと言ってバイトをしないと言う選択肢もなかった。


 したくはない。

 だが、するべきであるだろう。

 周りがバイトをして金を稼ぐ中、そう言った経験をしないのは不安だった。


 ただ、やはりしたくない。


 そしてそんな彼女が行きついた先が探索者であった。

 危険はあっても失敗が他人へと及ばない。

 怒られもしないし、自分の都合で活動することが出来る。


 それでも、やるからには必死にダンジョンを攻略した。


 そしてそんな彼女は快進撃を続けて、ついに30層にまでたどり着いた。

 そこを統べる魔物を突破するに至った。


 そして、そんな魔物を倒したのは世間が「ダンジョンドミノ」と言う名称を決めたころだった。

 「ダンジョンドミノ」は、ゆくゆく統合を繰り返すことで巨大なダンジョンを形成すると言われている現象だ。

 しかし、それがいつ来るかは分からない。

 ただ、確実にその影響が及ぼされると危惧されていたために一部ダンジョンは封鎖された。

 そんな中で、シキカはその影響をまじかで見たのだった。


 それは、酷く中途半端な二種のダンジョンの融合だった。

 本来起こらないであろうお互いの特徴を残しての統合。

 それが起こり得た時、彼女の前に現れたのは未だ誰も確認をしていない魔物だった。


 二種のダンジョンがあれば、三十層には二種の魔物がいる。

 それが混ざると言う事態が起こっていたのだ。


 本来ありえない現象。

 シキカが確認しても、討伐後に同じような魔物は現れなかった。

 その場きりの奇妙な現象だった。


 そして、二種のダンジョンの魔物の特徴を持ったそれはある一つのアイテムをドロップした。


 スキルオーブだ。

 きわめて低い確率で排出されるそれをたった一度のチャンスでシキカは手にした。

 さらに言えば、二種の魔物から出るであろうスキルオーブの特徴を引きついだそれは固有の能力を秘めていた。

 再現性がないと言う意味ではユニークスキルに相当するであろうそれは多大な力をシキカに与えることとなった。





 ◆


 そんな彼女のスキル名は『闇炎』。

 本来、炎系の魔物と闇を司る魔物の特徴を秘めたスキルだった。


 そしてそれを彼女が発動すれば、発生するのは黒く燃える炎だった。

 まるで水のように溢れ出るそれは地面を覆った。


 それと同時に炎溜まりから幾匹かの犬型の何かを象った。

 それは即座に風のように駆ける。

 そして怪鳥へと牙を向ける。


 一瞬の出来事。

 その場にいた誰もがすぐには反応できない。


 そんな中、ついにシキカは駆けた。

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