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「次に花火さんのスキルですが、これは制限が多いため局面によっては突破しやすいです」
情報共有。
そんな言葉をトミイタは口にして手短に説明をした。
この時点では彼自身花火が合成要員となり、足止めをしてくるとは考えていなかった。
しかし、三十層はゴールではない。
彼らが『鍵』を手に入れた彼らが先にボスを倒してしまう前に追いつくのが目的であるが、そもそも、追い付いた後にすべきことはボスのいち早くの討伐なのだ。
pt割り振りの特性を考えても複数人での分配はされない。
故にボス討伐のptは一人が総取りすることになる。
ならば、出し抜くための情報の共有は必要だった。
故に、花火のスキルに対しての情報もトミイタは話していた。
「彼女のスキルは『ばくだん!』と言うユニークスキルです。半透明の球体上の、まあいわゆる中世ヨーロッパやゲームなんかで見られる丸くて導火線のついたような見た目の擲弾ですね。威力はその場に応じて設定でき、通常の爆裂弾、攻撃性を極限まで無くした風圧だけの弾、そもそも攻撃性を喪失させたスキル光だけを発生させるものがあります」
それらは配信で公開されている情報。
しかし、トミイタの言及はそれで終わらない。
「そしてこれは本人は言及していないですが、恐らく彼女の『ばくだん!』の起爆信号はすべて一律同じものであると考えられます。つまるところ、爆弾を二つ生成した時「起爆」の命令を出せば、どちらか片方を設定しての爆発の発生を起こすことはできません。彼女が起爆するときは生成した爆弾すべてが爆発します」
これまでの戦闘をすべて見ていたトミイタは知っていた。
花火のスキルの欠点を。
これまでの戦闘で一度も彼女は複数の爆弾を生成した際にその中の一つを設定して起爆したことはなかった。
起爆タイミングをずらしたいときは、起爆させてすべてを無くした後に改に態々生成していた。
つまり。
「彼女の『ばくだん!』での攻撃を無効化する方法は、彼女のばら撒いた爆弾を一つでも起爆できない場所へ抛り込めば十分です」
◆
ナイフにくくりつけた爆弾は出口に刺っている。
アレを起爆すればただでは済まない。
殺傷能力を抑えるにしても足止め程度の力は手加減なしに出すことくらいできる。
それなのにトミイタはそんなことは関係ないとばかりに一歩を踏み出す。
しかし、それでも起爆しようとして眼前に見慣れたそれが映っていた。
『ばくだん!』により生成された半透明のそれは俺の眼前でとどまっていた。
そこで、バラまいたフェイクとしての一つが掴まれてトミイタに投げ返されていたことに気付いた。
一瞬の出来事だ。
引き延ばされた時間で半透明の球体はゆっくりと眼前で回り、そして俺の「起爆」と言う選択肢が縛られた。
いつバレた!?
『なんで起動しないん?』
『どうした花火ちゃん?』
俺の「起爆」の命令は爆弾すべてに一律で行われる。
生成した爆弾は導火線を共有しているようなものでありどれかに狙いを定めて起爆は出来ない。
だから、俺が起爆をしようとしたタイミングで爆弾を投げ返されてしまえば起爆の一手は防がれる。
ここで起爆すれば俺が顔面も吹き飛ぶことになるだろう。
ここで詰みだ。
そんな風に奴は思っただろう。
だが、この場にいるのは俺だけではない。
俺がいの一番に動いたとはいえ二番目に動いたものとの時間差は一秒に満たない。
そしてそれが同じグループであるミルノさんであれば……。
万が一の保険が機能することになる。
俺は開始前に、火は使えるかと聞いた。
魔法でもなんでもいいが火は使えるかと。
そこでシキカさんはライターを出して驚くような一幕があったが、ミルノさんも同様にライターを持っていた。
彼女は喫煙者であり、煙草も吸うのだと言う。
そんな彼女は今この時身動きが取れない俺の後方で、煙草の吸殻を人差し指で弾いた。
俺たちを気遣って知っていなかったそれを彼女はこの戦闘が始まる前に態々つけた。
その理由がこの瞬間にあった。
彼女もスキル『投擲』を持っており、銃のようなポーズを取った彼女の指は吸殻を銃弾のように押し出した。
それは、瞬く間に俺たちを追い越して標的へと狙いを定めた。
ナイフについた爆弾の導火線。
その先端に吸殻は火をくべた。
始めてのスキルの発動は外的要因であった。
スキルだろう火の粉が俺の持っていた爆弾へと影響を及ぼした。
その時と同じだ。
俺の力では任意の爆弾の起爆は出来ない。
ならば、外部からの力で強引に成せばいい。
俺のスキルの弱点を見抜かれているとは思わなかった。
だが、万が一を考えての保険は今最大の効果をもたらすに至った。
回転しながら進む吸殻は導火線に火をつけ──
──起爆した。
「よし……うげ!?」
満足し声を洩らした俺は眼前の爆弾の存在を忘れて顔面に受ける。
だが、気を抜いている暇はないのだと状況が告げていた。
「遅いですよ」
今の着火はあまりにも時間があり過ぎた。
スキルの恩恵により打ち出されたと言ってもわずかに吸殻が届くまでの時間、尚且つ導火線を進む火が着火するまでの時間。
探索者と言う人種に対してはあまりに悠長。
そうであると言うことを体現するかのように、爆風はトミイタをとらえきれない。
彼は寸前にその場を脱した。
『惜しい』
『逃した』
◆
三十階層手前。
この場に残るのは五人の参加者。
合成要員として選ばれたシキカ。
そしてその他のグループから選出された安常輝葉、となう、西岡、正宗。
最終的にこの場に訪れたのはHグループの正宗であったが、すでに花火が合成要員として指名されて、その彼女が同グループであるシキカへその役割を譲ったことでそれに文句は出なかった。
そして合成に必要な五分が間もなく経過しようとしていた。
それぞれが先手を取ることを考えて、作戦をイメージする。
このダンジョンの三十階層の魔物は『網猟鳥』と言う。
見上げるほどの鳥のような見た目をしていて、その身体は血のように赤い。
そして、電気系統のスキルを操り網目のような形状のそれを使い戦闘をする。
そんな魔物を狩らんと待ち構える面々のもとに、関門を突破した者たちの足音が聞えた。