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53/59

手前


 現在三十層手前の広間にて花火は二桁の人数を有する他グループと睨みあっていた。

 こちらには味方がおらず、此処でその全てを食い止めなければいけない状況。

 一見して圧倒的にこちらが不利だった。


「適当に相手をしつつ、抜けれる奴は脇を抜けていけ」


 対するジチョウは足早に指示を出した。

 背が低いこともあってか、花火に向かい動き出した十を超える人影は子供に襲い掛かる大人のようにも見えた。

 しかし、狙いは彼女ではなくその奥の扉。

 三十層ボスへと続くその道へと足を進めた。


 そんな中、一人でも多く足止めを行うかに思われていた花火は微動だにしない。

 彼女の脇を通り過ぎる面々は不思議そうな顔でその横顔を見ながらも通り過ぎていく。


 ただ、一人、花火を通り過ぎずに正面に立つ者がいた。


「僕たちを止めなくていいんですか?花火さん」


 少し前まで花火が所属するCグループとの協力にあったFグループのメンバーの一人トミイタだった。

 彼も『鍵』及び『鍵の破片』を狙う人物の一つであるはず。

 いくら協力関係にあっても、こちらの手勢の中の誰かが『鍵』を手に入れる。

 あるいは、三十階層が開かれた状態で彼のことを待つような真似はしないだろう。

 故に、彼も血眼になって先を目指す必要があるはずだった。

 それなのに。


「そっちこそ、行かなくていいんですか?」


 お互いに疑問を持って花火は質問に質問を返した。

 ただ、トミイタは笑う。


「僕はともかく、貴方は分かっているでしょう」


 どういう意図であったのか、それが彼の口から明かされる前に、別の者が答え合わせでもするように声を上げた。


「どうなってる?通路がないぞ!」


 それは扉へといち早くたどり着いた男の声だった。

 大きな扉を開けて、その先に空間などなくただ埋められた壁だけが存在する。

 そんな声を上げてもおかしな話ではなかった。


「あれは貴方たちがあらかじめ用意していた偽物。そして本来このダンジョンの扉があるのは広間に入って正面……ではなく右手側。しかし、その壁はまっさらで魔法で埋めたような痕跡もないとなると……これはこの空間自体が用意されたもの。つまり、そちらの意図通りに動けば罠に嵌る」


 彼が言うに早いか。

 瞬間、複数の方向から何かが壁を突き破り侵入者たちに向けられた。

 鎖、蔦、氷。

 それらのスキルは様々であるものの与えられた役割は一つ。


 拘束である。


「ダンジョンの壁を突き破るなんて……」


 無理だ。

 そう誰かが言おうとして、気付く。


「この空間は、本来あったはずの一間の壁よりも一回り小さく作られたフェイク。こちらに気付かれることなく背後を取り、拘束を可能にする罠」


 トミイタが説明をする。

 それは正解であった。

 花火が種明かしをするまでもなく、トミイタは見抜いていた。


「そして、壁を作っていたリソースで、今度は我々を分断と言ったところですか?」


 トミイタは更に推測を続けて、地面からせりあがって壁が彼の言葉を証明した。

 そして更に、壁は隔離された面々を押し込むように空間を減らしていった。


「あれでは、突破力を持っていても、周囲の危険があって彼らもスキルが使えない。流石ですね」


 素直な賞賛を彼は送る。

 それでも、「ただ」とも続けた。


「僕以外にも気付いた人は大勢いたようですよ」


 彼は自身の後方を見れば数人の人影があった。

 各所で生成された壁にとらわれた者はいるが、それでも逃れたものの方が多かった。


「途中でやっと気づいたがな」


 この場には率先して扉へ向かおうとしたジチョウがいた。

 しかし彼も途中で気付いたのか、この場に残っていた。

 さらに言えば、寸前で拘束を避ける事や壁にとらわれないように立ち回った者もいた。






 ◆


 俺たちの作戦は酷く簡単なものだった。

 相手の行動不能を狙った遠回しの拘束。

 不意を打ってのスキルでの足止めとGグループの西岡さんとAグループのさこなさん、そして我らがミルノさんの土魔法を合わせて作った壁による押し込みだった。

 二人以上を一か所へ押し込むことで事実上の無効化を行うと言う算段だった。


 最初に合成を行おうとした時に紛れ込んでいた敵グループの男の騒動の後、本物の鍵所有者であるHグループの人が来るまでの間にはぐれていたミルノさんと合流出来たのは幸いだった。

 ミルノさんも俺の意思を組んでくれたようでシキカさんと一緒に集まっていた広間まで降りてきてくれた。

 そして、俺は本来の合成要員という役割をシキカさんに任せてここまで来たのだ。


 正直、俺の『ばくだん!』はボスよりも俺たちを折ってくるだろう敵グループへの防衛に使うべきだろうと判断したのだ。

 それに、ダンジョンに潜っていればほぼすることのない対人戦の経験はシキカさんより俺の方が積んでいる。

 あってない様なものだがこっちが俺の適所だと判断したのだ。


 作戦は取りあえず完了された今、出来るのは敵グループを食い止める事だけだ。

 これ以上の時間稼ぎは直接止めるしか方法はない。

 故に、姿を隠していた面々は物陰から完全に姿を現すこととなる。


「そちらも丁度七人ですか」


 トミイタがそんなことを言う。

 情報御を聞いた話では、上の階層ではお互いに足止めをしあっている人間が数人いる。

 どちらの勢力にも加担させまいとせめぎあっているらしい。

 特に俺の後に『鍵の破片』を持ってきたHグループは先の作戦を成功させるために、足止めをされていたらしい。

 それでも何とか三人中二人をその場に残して『鍵の破片』を持ってきたのだとか。


 そう言った面々と、拘束に成功した数人を引いた彼方の数が七人であり、同様に三十階層手前で待機している五人を引いたこちらの数も七人だった。


『人数は丁度か』

『なんとか抑えられると良いけど』


 そして示し合わすでもなく、計十四人が一斉に動いた。

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