不意を突く
「まず、今の状況を整理すると『鍵』の所有グループとなりえるのがA、C、E、G、Hになります。僕らは彼らから残り僅かな時間で『鍵』の完成の阻止、あるいは足止めして五つのグループだけで独占して、まあ、恐らく早い者勝ちと言ったあとくされのないルールを設けるでしょうね。ですので、その足止めを突破して同じスタート地点に立つことが必要になります」
『ああ、そうか。破片を手に入れたグループの中でも取り合いになると思ってたけど、争わずに倒したもの勝ちにすりゃいいのか』
『まあ、争ってこののグループに追いつかれちゃ本末転倒か』
トミイタの言葉は、視聴者の考えも同時に整理する。
あくまで視聴者にとっては単なるイベント、トミイタが整理してくれた方が情報の呑み込みが早かった。
「そして、僕たちに与えられた猶予は、『鍵』の合成時間の五分です」
◆
「ここで、おさらいです!『鍵の破片』が一人の手に渡りましたが、これを『鍵』へと変換するには五分の時間が必要になります!」
『この間に追いつかなきゃんないのか』
『すぐに合体じゃないのね』
フーカがおさらいとして再度説明すれば例のように配信画面にはテキストが写る。
「加えて、『鍵』の合成に当たっては、『鍵の破片』を一人の所有者に集める必要がありその間は、その場から動くことが出来ません」
蝶羽が補足する。
合成には五分の時間を有し尚且つ、『鍵の破片』をスロットに入れた参加者がその場を動けなくなると言う制限が付くこととなる。
それは、スキルの類も基本的に発動不可となり、他の者たちが魔物から彼らを守る必要も出て来るそして、同時に邪魔されれば時間が最初からになる。
『結構制限が多いな』
『運営的には、接戦を演じてほしいのかね』
少々『鍵』の所有者側にキツ過ぎるルールにコメントは困惑する。
事前に知っていても少し否定的な意見も目立っていた。
そこに「いやなら見るな」と言うコメントが見られて更に良くない方向にエスカレートするのは盛り上がっているからだろうか。
しかし、流石配信者と言うべきが、フーカはそんなものには目もくれず……。
いや、二十九階層の映像が映されたそのモニターにはそちらに意識を割くことさえ忘れる事態が起こっていた。
そこで起こるのは『鍵』の合成の不発。
いや、これは。
『鍵の破片所有者間でのいざこざか?』
◆
「恐らく、今現在『鍵』の合成は失敗している。そこを叩きます」
トミイタの言葉に皆が首を傾げる。
「どういうことだ?」
ジチョウの疑問はトミイタに投げかけれる。
そしてトミイタは簡潔に答えた。
「少し他のグループと協力して先手を打っておきました」
◆
「俺たちの『鍵の破片』を君に預けたい」
そう言われたのは、広場に入ってすぐ。
そして、理由を聞く前に、言葉は続けられた。
「公平を期すために事前に、最後に入って来た『鍵の破片』の所有者に合成をしてもらうと言うここにいる皆で決めていた」
なるほどなと納得する。
自分たちで決めるよりもよりランダム性の高い選出をするために揉め事を最小限に抑える処置だろう。
『おお!Cグループが合成か』
『やらせてくれるならやるべきか』
「わかりました」
俺はそう頷いた。
そして『鍵の破片』を回収していく。
ただ、三人目に差し掛かった時、嫌な感覚があった。
それは俺だけでない。
そう分かったのは他の面々が一人の男を取り押さえてからだった。
「何すんだよ!?」
「何をだと?お前、『ヒツキ』の『鍵の破片』を奪おうとしただろう?」
押さえつけられたのは『ヒツキ』と呼ばれた女性を四人目とすると五人目にあたる人物だった。
彼は俺が三人目から『鍵の破片』を渡してもらっている中、ヒツキさんに対してスキャンを行おうとした。
それはつまるところ、彼は『鍵の破片』を奪おうとしたと言う事だった。
「おい、こいつ。『鍵の破片』持ってねぇぞ」
「クソ。奪われる可能性を考慮して態々確認しなかった俺のミスだ」
皆、自分の『鍵の破片』を隠してこの場に来た。
故に、態々それを解いて確認はさせなかった。
だってこの場に素知らぬ顔をして『鍵の破片』を手に入れたと偽って別人が来るとは考えていなかったからだ。
つまり、俺たちが気付けなかったら、彼は『鍵の破片』を奪って不干渉時間を使って逃げおうせていただろう。
そんなことをされれば、『鍵』の完成は程遠くなるところであった。
本当にギリギリのところであったと言うしかない。
「クッソ、放せよ!」
「おま!?」
「放っとけ」
男が拘束から抜け出して部屋から出て言ったのを見た。
だが、そうなると最後の『鍵の破片』はどこにあるのだろうか。
◆
「彼らにこちら側の人間を紛れ込ませる。上手くいけば、『鍵の破片』を手に入れられる策です」
トミイタはそう言った。
しかし同時に「まあ、そこまでうまくいくとは思わない方が良いですが」とも続けた。
「まて、じゃあ、奴らの中にこちらの手勢を送ったってことか?」
「ええ。もちろん感づかれないように僕のチームではなくDチームの中川原さんに協力願いましたが」
トミイタはそう返した。
しかし、疑問は尽きない。
冷静であるがゆえにこの中の誰かよりも、コメントが気付く。
『でも、それって出来なくないか?』
そう、それは。
「ちょっと待て、本来『鍵の破片』を持っていた奴はこの場に居ない。なら、本人と出くわす可能性もあるんじゃないか?」
当たり前のそんな可能性だった。
しかし、トミイタはそこにも手を打ったと言う。
「ウチのグループの昆布西口さんに足止めだけしてもらいました。正直元の所有者から奪うのは戦力差的に不可能だったので本当に足止めだけですが、遅れていることは確かです。まあ、足止めしなくとも、お互いの真偽を疑い遅延させる考えもありましたが、『鍵』を短時間で合成できるメンツであればすぐに開示しあうでしょう。そこで、スキャンしてのよこどりも現実的ではないですし」
大したことはしていない。
しかし、ダンジョンハントというイベント性を考えればこんなことをしてくることはないだろうと言う先入観につけこんだのだ。
「まあ、なんにしても、五分であった猶予時間がわずかにでも伸びました。叩きますよ、我々で」
トミイタはその場の面々を見てそう言った。