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学校新聞


 『鍵の破片』を集めるのであれば、人々は下へと降りていく。

 それは、下に下るほど『鍵の破片』に突き当たる可能性があり、何より、下に行けば必ず各グループの持つ『鍵の破片』が一か所に集まることになるためである。


「このまま、俺は三十階層目指して、突き進みます」


『他のグループも同じだろうしな』

『他二人と合流するとしてもそこでか』


 コメントは見えないながらも俺は方針だけ口に出した。

 そこに、『鍵の破片』を『鍵』へと変えるために皆が集まる。

 そして残りの『鍵の破片』は二つ。

 恐らく、それも三十層を目指す間に発見されるだろう。

 乗り遅れないためには、今すぐにしたを目指すべきだと判断した。


 そして道中二つのログが流れることになる。

 これが表すのは『鍵の破片』のすべてが人の手に渡ったことであった。


「……」


 そしてついに俺は三十階層手前、二十九階層広間に到着した。

 洞窟型のダンジョンには様々な形が存在するが、ここは三十階層への一口に小さな空間があった。

 足を踏み入れると同時に突き刺さるのは無数の視線。


 すでにその場に座り込んでいるのは四組の探索者たち。

 すぐに、俺以外の『鍵の破片』の所持者であると察することが出来た。





 ◆


 ダンジョンハント本戦はすでに佳境、『鍵の破片』はすでに参加者の手に渡っていた。

 故に、大きく分けた時参加グループの半分は『鍵』の所有者側と未所有者に分けられることになった。

 これは、勢力図を大きく変える事になる。


 特に、『鍵の破片』を所有していない五グループは必然的に鍵の奪取に手を組むこととなる。

 皆がそれを理解し集まったのは、二十七階層。

 探知系のスキルと恐らく二十九階層に集まる『鍵の破片』所有者たちの距離を計算した時、一番最適な集合場所としての機能を持つのがそこであろうと皆が理解していた。

 故に、この場には『鍵の破片』未所有のグループのメンバーがほぼ欠けることなく集まっていた。


「皆がここに集まったと言うことは、協力関係を組み、『鍵』の奪取に動く。そう言う認識で良いんだよな」


 「皆の意思を確認しておきたい」とBグループのメンバー、ジチョウは語り掛けた。

 その声に誰かが反応を占めることはなかったが同時に、反論がないことに同意だと読み取る。

 

「なら、時間もない。早速だが作戦を組みたい」


 ジチョウが口を開く。

 そして遅れて、一つの手が集団の中から上がった。


「すみません。Fグループのトミイタと言います。少し発言いいでしょうか」

「ああ」


 トミイタの言葉にジチョウは頷く。

 そして、皆の前に立ったトミイタは口を開いた。


「まず、僕は少し皆さんについて詳しいです。今回のイベントに参加している少しでも露出のある参加者の情報は持っています。ですので、僕の情報を是非とも役立ててもらいたいと思います」


 トミイタの声に視線が集まる。

 今回のイベントでの参加者の情報は事前に知ることは出来なくないが、それでも三十人もいる全員の情報を知っていると豪語して見せたのだ。

 当然の方に驚き、そして、疑念が生まれた。

 故に一人が手を上げた。


「Jグループの内藤だけど。じゃあ、俺のこと知ってる?」


 男は手短に自己紹介を済ませて、そう訊く。

 そして、それに何でもないようにトミイタは口を開いた。


「ええ、もちろん」


 その言葉に内藤と名乗った男の口元が歪んだ。

 しかし、それに他の人物は気付かない。

 ただ、そんな表情も次のトミイタの言葉で変化した。


「まず、貴方は内藤さんではない。Jグループのメンバーは内藤修也さん、加藤敬さん、そして配信者の『来鹿』さんです。そしてあなたの左隣にいる女性が来鹿さん。そして、右隣にいるのが内藤さん。貴方は加藤さんだ。内藤さん、加藤さん共に予選では顔を隠していました。そして扱う武器は両者ともに『夜鍵堂』のメジャー武器、草月。スキルはともかく、装備の判断も難しい。しかし、加藤さんは地元紙の当時高校三年生の時に、母校の学校新聞で一つ語っていたことがあります。それは、ダンジョンに潜るときにはシルバーの指輪を左手の人差し指につけると。そして今あなたたちの中で同じ条件を満たしているのはあなただけです、加藤さん」


 トミイタはそう言い切った。

 そんな言葉に、内藤──いや、加藤は驚いたように口に手を翳せば銀の指輪が光った。


「マジか。ちょっと試そうと思っただけだったが、まさかそこまで言い当てて来るとは。……トミイタって言ったか、皆!こいつが、情報源として役立つのは確かだぜ。てっきり、上辺だけの情報を暗記しただけだと思ったが違うみたいだ。まあ、母校の一回受けた程度の学校新聞なんて俺が忘れていたもん引っ張り出されてビビってるがな」


 加藤が試したのは、トミイタがどこまで情報を把握しているのかと言う事だった。

 この作戦会議に掛けられる時間はすくない。

 故に、簡単な鎌をかけたのだが、思った以上の返答が返って来た。


 加藤自身、トミイタの返答が今のような者でなくとも、彼の言葉を軽視することはなかった。

 しかし、情報の練度と言うものは存在する。

 一般にネットを見て知ることの出来るような少ない知識だって今は役に立つ。

 しかし、何処まで深く知識を持っているかが分からなければ、情報の信頼度、作戦がどこまでその情報に依存するかが分からなかった。


 ただ、加藤本人「何年前だよ」と呟くほどのネットに転がっていないはずの情報を引き出されてはないがしろにすることは出来なかった。

 まあ、気味が悪いのは確かであったが。


「では、彼方の出方の予想から話させてもらいます」


 少ない会話の内にこの場での主導権を得たトミイタは口を再度開いた。

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