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19階層


 状況が理解できない。

 いや、何が起こっているかくらいわかる。

 配信をしていたら人が増えた。

 

 それくらいわかるが、その事実を受容できない。

 数秒間固まった末に、俺は何とか口を開いた。


「え、えと、こんにちは」


『こんにちは』

『こんにちは』

『こんにちわ』

『挨拶で草』

『初手は挨拶だよね』

『花火ちゃんこんにちは!』

『そういや声初めて聴いたかも』

『花火ちゃん美声!』

『声震えてて可愛い』


 なんかコメントが凄い。

 早い。読めん。

 つーか、花火ちゃんって何?

 あだ名?

 そう言えば、活動名決め手ないからこれでいいかな。

 本名はあんま使いたくないし。


「えっと、花火です。初めての配信だけど、よ、よろしくお願いします」


 緊張する。

 人がいないと思ってたからなおさらに。


『よろしく』

『配信者名も花火なんだ』

『よろしく』

『かわいい』


「次は、19層まで行きます。まだ、20からの入場許可は出てないので、そこまでで今日は終わります」


 どういうわけか集まって貰えたが、それでもあまり一般的に強いと言われるような階層ではない。

 だが、それでも楽しんでもらえればうれしいと思いながら俺は足を進めた。

 

「そ、そう言えば、何を話せばいいんだろ?」


 不意に出た疑問を紡ぐ。

 本当なら少しこういった話題の準備をしていただろうけど、こんなに人が集まるとも思っていなかった。

 俺にしては珍しく思い立ったら即実行を形にしたような、昨日の今日での配信活動のスタート、当然ながらペラペラと話すことも出来なかった。

 だが、これは配信である。

 当然人がいれば、俺以外の知恵も借りることが出来る。


『自己紹介とか?』

『何で配信しようと思ったかとか』

『普通に装備とスキルが気になる』

『確かにスキル編成は気になるな』

『今のところ有識者によると使用したのは三つらしいけど』


 コメント欄の流れから何とか読んで拾う。


「えっと、じゃあ、自己紹介。さっきも言ったけど、花火です。好きな食べ物は焼きそばとたこ焼き……あっ、それと焼とうもろこし!」


『学校初日かな』

『好きな食べ物のレパートリーがお祭りで草』

『花火大会に食いたいもの的な』

『準備放り投げ状態だけど、設定は統一してんのか?花火関連縛りとかで』


「い、いや、設定とかじゃなくてホントに好きなんです。と言うか、去年一人で行った花火大会くらいしか外食したことなくて……」


『一人……』

『俺も去年一人でいったわ』

『外食、まあ、外だけど』

『もしかして外食が難しいような家庭で過ごしたの?』

『超お金持ちか超貧乏の二択だな』

『さっきの好きなものは花火大会を思い出しながら言ってたのか』


 俺が喋れば質問が増える。

 だが、不意に気配を感知する。

 当たり前のことながらここはダンジョン当然魔物が生息している。

 それも現在入場限界である19階層である。

 油断出来るはずもなかった。


「───!」

「っ!」


 俺は咄嗟に身体を翻してナイフを突き刺す。

 返り血はない。

 俺はそのままナイフを引き抜いて、またしゃがみ込んで反対側から狙ってきた魔物を躱す。


 その大きく開かれた口は動物で例えるなら犬、あるいは狼のようなものに他ならない。

 魔物名は「軍猟精霊」。

 犬型のいわば精霊である。

 

 そして、俺の頭上を通り過ぎた軍猟精霊が足で踏みとどまりこちらにもう一度攻撃を仕掛けようと足を蹴った時、俺は『ばくだん!』を爆発させた。

 爆散まで行かなくとも、口から煙を吐いてそれは光となった。


「危ない」


『え?』

『は?』

『何した?いま』

『一匹目は分かるけど、二匹目いきなり口から煙吐いたんだけど』

『多分、しゃがんで避けた時に口の中に爆破系のスキルを入れた』

『これは探索者じゃないと見えんわ』

『一般人も来るとわかってたら見えたかもだけど』

『いや、見えても信じられん』

『そんなこと出来る?』

『腕食いちぎられるのを覚悟してならまぁ』

『普通はできねぇ』


 コメントを見ながら首を傾げる。

 別に今の戦闘に関して「俺なにかやっちゃいました?」と言うつもりはない。

 俺だって、努力の末にここまでの戦闘が出来るようになったのだ。

 それに、未だ俺の実力は中堅にも及ばない。

 そこまで自信過剰にもなれない。

 ただ。


「そうか。こういうのも説明しなきゃですよね」


 よく考えてみれば、他人にスキルは分からない。

 素の力でここまでのことをしているとは思わないだろうが、何処までスキルを使っているかって話もあるし。


「えっと、じゃあ、さっきも上がってたけど。スキルの話をします」


『気になってた』

『枠いくつなん?』

『あ』

『ちょ、後ろ』

『避けた』

『爆発した』


「あ、それと、一応警戒してるので大丈夫です。戦闘に集中するとコメント見れなくなっちゃうかもだけど」


 心配してくれているようなので一応言っておく。

 流石に俺だって戦闘中の余裕もなしに配信画面なんて見ることはない。

 それなりの安全を取ってやっている。


「えっと、まずはスキル保有枠ですけど、三つです」


『少ないん?』

『平均が確か五とか』

『多くはないね』

『それだけで此処まで来たの?』

『スキルが強ければできなくもないけど、実例はまああるし』

『案外強い人でも枠少ない人多いよね』

『と言うか、枠多い奴は何も考えずに埋めて後悔してるイメージ』


「あ!そうなんです。ユニークスキル持ってるんですよ!」


 俺はコメントの中から目に留まったものを返す。

 そう、俺がここまで来れているのはユニークスキルがあるからに他ならない。


『露骨にテンション上がった』

『ユニーク凄いじゃん』

『当たりか、いいな。俺もだけどピンキリだからな』

『強くても本人のスタイルに合わないと難しいし』

『ユニークってさっきの爆発するやつ?』


「やっぱ、凄いですか?ユニーク。まあ、でもスキル名は間抜けなんですけどね」


 人に話したことがない。

 と言うか、話す人もいないので褒められるのは初めてかもしれない。

 なんだか嬉しい。

 とは言え、俺が言ったように名前はバカみたいだけど。


『あー確かに』

『ユニークって、命名が保有者に依存するからな』

『趣味となんだっけ』

『基本的に趣味嗜好知識、それと知能に依存する』


「知能?え、じゃあ、俺のスキルの『ばくだん!』って……」


 俺は自信満々に見せようとごそごそとポケットを漁って取り出したダンジョンカードをピクリと止めてそのコメントを見た。

 それじゃあ、まるで。


『あ』

『あ』

『ば……いやなんでも』

『い、いや、ユニーク持ってるだけで凄いから』

『そうそう、実際強力なスキルなわけだし』

『別にあほの子でも可愛いから大丈夫だよ!』

『おま』

『あ』

『草』


「あ、あほ?いや、でも、地頭と学力は関係ないし……ちょっと成績悪かったけど」


 確かに高校の成績もよくなかったし、大学にも落ちたけど。

 でも、本気出せば俺多分結構取れるし。

 と言うか、俺結構頭いいし。

 やったことないけどIQとか高いし。


『おい、目に見えて落ち込んでるぞ』

『ちょっと男子~』

『何とかしろよ』

『ほ、ほら趣味も関係するみたいだから、なんか可愛い感じするよね。ひらがなって』

『!ってついてるのが特にいい』


「そ、そうですよね。知能だけじゃないですもんね。よ、よし、気を取り直して、えっと次は……」


『魔物の倒し方とか説明すればいいんじゃね?』

『確かに、スキルの説明とかもそこで挟めるし』

『装備もいけるな』


 そんな提案を見て俺もそれが良いと納得する。


「じゃ、じゃあ、まずは、スキル構成ですけど、『身体強化』、『投擲』、それとさっき言った『ばくだん!』の三つです」


 俺は簡単に説明する。

 『ばくだん!』は最初に付与されたスキルだが、他はここ一年で取得したスキルになっている。

 まあ、地味ではある。

 本人である俺がそう思うほどなので、ユニークを明かしたあとの盛り上がりはそうはない。


『まあ、最初に取得したスキルは自分で変えられないし、まあ、順当って感じではある』

『これでダンジョン潜るってすげーな』

『有識者の予想当たってたな』

『ドンピシャはすげぇ』

『悪手ではないけど、なんで投擲?ばくだんとの併用ってのは分かるんだが』

『まあ、確かに俺だったら危機感知系を取りそうとは思う』

『最悪手で投げれるしな』


 そしてコメントにはスキル構成についての疑問が流れ俺はこれに答えようと口を開く。


「えっと、『投擲』を取ったのは、単に俺……私がノーコンなのが理由で」


『あー、まあ、投げるの苦手な人はとことん苦手だからな』

『俺も苦手だからわかる。つーかそもそも飛ばん』

『ん?俺……俺っ娘!』

『一人称直したな』

『俺でもいいんじゃない?配信者なんだし』


 何故か途中から俺の一人称に関しての話題に切り替わったのを見ながら「じゃあ、『俺』で」と言う。

 正直、プライベートでは俺で通すつもりだったと言うか、そもそもおばさんくらいとしか話さないから変えるつもりもなかったのはあるが、配信上に関しては特にこだわりはなかったんだが。


「まあ、とにかくそんな理由です。あ、次が来たので今度は戦い方の解説?をします」


 進んでいると深紅の毛並みを持つ軍猟精霊の群れを発見する。

 それに対して俺は構えを取った。


「───ッ!!」

「ふっ!」


 その名の通り群れを、いや、軍を成して接近してくる軍猟精霊を迎え撃つ。


「まずは、こうやってっ……接近してきたらナイフでいなしたり避けたりして口の中に爆弾を放り込みます」


『ふむふむ』

『なるほどなぁ』

『って、出来るか!?』

『えぐいな、マジで力全部地面に流してる』

『感覚でやってんのか?』


 戦闘中、それも群れを成している状態では残念ながらコメントを見ることはできない。

 魔物から目を離すことなく俺は口を動かした。


「で、大抵二手にわかれて襲ってきたりするので、その時は後ろを警戒しつつ、大口を開いてとびかかってきたら『投擲』で爆弾を放り込みます」


 当たり前だが一方向から順番に並んで魔物が襲ってくることなどない。

 ダンジョンにおける開けたフィールドならば、最低でも二手に分かれて襲ってくる。

 今回はそのパターンだったようだ。

 俺は前方の攻撃を促しつつ、開いた手で爆弾を手に生成して後ろに弾き、魔物の口へと入れた。


『は?』

『ノールックで、空中にいる犬の口に爆弾入れるって』

『これ投擲スキル持ってるから出来るって話じゃねえぞ』

『スキルで無理な体勢と姿勢から指先だけであの速さの球うてるのはまあわかるけども』


「で、あとは全部入れたなって感じたら、離れて爆破」


 そう俺が言い切ると爆発音がなり、軍猟精霊は口から息を吐いた。

 うわ、目玉飛び出てる。

 こんな戦い方をしているとは言え、別にグロイの得意なわけじゃないんだよな。

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