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連携


 トミイタの居たFグループとの協力のために罠を張っている途中。

 幸か不幸か『鍵の破片』を手に入れた俺は単独でその場を脱出していた。


 いくら協力関係にあっても相手は敵。

 これから奪える可能性の限られる不確定な要素よりも確実に手に入れたそれの死守に動いたのだった。

 本来なら波風を立てずに離れたいところではあったが出口が一つしかない相互監視が行われるような空間ではあの方法しかなかった。


『これで一歩リードって感じか』

『逃げ切れたっぽいしあとは、他の二人と合流出来れば安心かな』

『バトルじゃないから攻撃はされてなさそうだけど、足止めくらいはされてそうではあるよね』


 シキカさんとミルノさんには悪いことをしたとは思いながらも、合流をさっさとしたい。

 正直、今の俺は他のチームの人間に遭遇したらなす術もなく『鍵の破片』を奪われるだろう。

 最低限スロットを隠す必要があるわけだから、十分な戦闘は不可能。

 『暗幕』スキルだってあの場限定。それに、恐らくだが時間制限やクールタイムは存在する。

 この状況で採れるのは息を殺して下の階層に進むことくらいだ。


 正直この場に居ても良いが、トミイタの言葉を信じるのならば何らかの探知スキルを持っているのは確定である。

 上の階から降りて来る俺たちを捉えるくらいの精度がある以上、無策にこの場にはとどまってはいられない。

 それに、集合場所など決まっていないが他の二人も目指すのは下層であるのは確かだ。

 何にしたって『鍵』が意味を成すのは三十層であるのだから。


「後は、他の『鍵の破片』がどうなるかだな」





 ◆


 現在、Cグループの配信者『花火』が『鍵の破片』獲得、及び補佐に成功。

 そして時を同じくして、DH本選に大きな動きを見ることが出来た。


「花火ちゃんが、『鍵の破片』持って無事に脱出したね」


 公式チャンネルではフーカが映像を見てそう言った。

 それに対して蝶羽も頷き、視聴者もDHの状況が動いてきたことを感じていた。


『しかし、二つも攻撃してこない常駐魔物から出て来るっていいのか?』

『まあ、見つからないで膠着するよりは』

『ランダムに移動するにしたって調整は必要だった気はしなくもないが』


 ただ、外野からしてみれば手ごたえのない『鍵の破片』の入手に不満が漏れた。

 探索者であれば、多少の駆け引き程度行われていたことくらいは分かるが、一般人からしてみればBグループとAグループの『鍵の破片』の取り合いも、Cグループで花火が死守したことも一瞬の出来事でそこまでの面白みはなかった。

 端的に言えば彼らが求めているのは、分かりやすく強敵との戦い。

 強く屈強な魔物を倒して『鍵の破片』を入手するものを望んでいた。


 そして、そんな思いに応えるように状況は変化していた。

 それは誰よりも盛り上がりを見せたフーカによって察せられた。

 すなわち。


「となうちゃんが『鍵の破片』を発見したーー!!」


 Eグループに所属するとなうがスキャンの末に『鍵の破片』を持つ魔物を割り出した様子が配信上に表示される。

 そしてその魔物は紛れもなく常駐魔物と比べれば強力なモノであった。






 ◆


「……水忍鬼」


 公式配信でフーカが盛り上がる中、その画面の向こうではとなうが息を吐いた。

 目の前に陣取るのはまさしく鬼であった。

 しかし、その肌は真っ青でぜい肉が付いたように腹は出張っている。

 だが、それ故にか恰幅がよく、巨体に見えた。


「となうさん!」

「っ!?」


 ただ、観察している暇などないとばかりに鬼の脅威はとなうを襲う。

 同じチームのダックの声に寸でところで後退をする。

 内心感謝しながら、水忍鬼からは目を話さない。

 こちらが知覚できないほどのスピードで鋼鉄の棍棒で地面にヒビを入れる存在は紛れもなく格上であった。


 場所は二十九層。

 一か八かの賭けに出たとなうたちEグループが速攻で降りたのがここであり、30層を除くイベント中のダンジョン内では最強の刺客だろう。

 それ故に、となうたちはメタ的に『鍵の破片』を持っていると睨んだのだが。


「でも、勝てなきゃ意味ないよね」


 そんな声が口からこぼれる。

 だが、それは弱音ではなく自分を奮い立たせるために、発した言葉。

 目的を分かりやすくして、気を引き締める。


 そして、目の前の青い鬼が動く前に。


「ヘキさん」

「あいよ」


 となうは指示を出す。

 もう一人のメンバーヘキに声を掛ければすぐに彼は動いた。

 ここまで降りて来るのにすでに連携は完成形へと近づいており、これだけで意思の疎通は可能だ。


 ヘキはすでにスキルを発動させて鬼の足元を蔦で縛る。

 彼のそれは通常の魔法よりも強力で、そう簡単には解くことはできない。

 それでも、水忍鬼には振りほどかれてしまうが、隙は作れる。

 なにより。


「蔦は絡んでなんぼでしょ」


 鬼が動けば動くだけ、蔦は絡みつくように成長した。


『ヘキさんのすげーな』

『動けば動くだけ絡みつくのは反則級』


 何度見ても、となうの視聴者はそのスキルに驚く。

 ユニークではない。

 だが、それでも、ダンジョンボスから入手可能なスキルオーブから手に入れることが出来るそれは強力だった。


 しかし、それに対して感動などしている暇はない。

 となうが「ダックさん」と言う前に、もう一つの人影は大斧を振り下ろしていた。

 その一撃はスキルの応用なのだろう。空気を震わせ、次の瞬間水忍鬼の足元を割った。

 数センチほど足を沈ませる。

 だが、それでも、魔物には些細なことだ。

 鬼は何も持っていない方の手でダックに攻撃を放つ。

 生成されるのは水晶のように光り透き通る球体であり、水魔法の系譜に連なるもの。

 それがダックに向けて放たれる。


「ぐぅ」


 たまらず、離脱を図るももろにそれを受けたダックは苦悶の表情を浮かべる。

 しかし、それには気を留めることなくとなうも地面を蹴っていた。


 振り回すのは鉈のような武器。

 短剣ほどの大きさのそれを振るう。


 しかし、それが鬼の首を取ったと思ったとき、鬼が背筋を正してまるで印を結ぶように二本の指を立てたのが見えた。

 それに疑問を持つ前に、刃は鬼の首を進み横に一閃した。

 そしてあまりにも軽い手ごたえにとなうは奥歯を噛む。


 鬼が何をしたのかはわからない。

 だが、となうが見たのは鬼首の表面は無色透明な水がはられており、となうが一閃するときにはまるで体が崩れるようにして水へと変わった。

 そして。


 探知スキルが警報を鳴らす。


「──ッ!?」

「ぐぅ!」


 一瞬で背後に現れた鬼の棍棒はとなうの首をはねるように動き、それを紙一重でヘキが剣で弾いた。

 いや、逸らすのがやっとだ。

 火花を飛び散らしながら飛ばされそうになる腕を必死にその場にとどめる。

 だがそれでも、真っ向からの力勝負では勝てない。


 だが。

 スキルがあれば話が違う。


 ミシミシと音を立てて、水忍鬼の身体とヘキの剣を結ぶのはスキルによって生成された蔦だった。

 そしてそこに加勢がやってくる。

 攻撃を受けていたダックが復帰してきたのだった。

 その巨大な戦斧を木こりのように青い肌に打ち付ける。


 肉に食い込むも両断は出来なく、それでも押し込もうとした時鬼は離すもう一度印を結んだ。

 攻撃だと結論付け、それでも離すかとダックが考えた時、体が蒸発するかのように水蒸気に包まれた。

 遅れて気付くのは、それが熱風であり、飛ばされそうになるほどの風速があることと、水忍鬼の身体がまたも消え去ったこと。


 しかし、追撃が来ると考えて……


「ダックさん!」


 となうの声が聞こえて、その場を飛びのいた。

 瞬間、地面が割れるように水が噴き出した。

 まるで温泉でも掘り当てたような、いや、噴火でもするようなその光景に目をむいた。

 噴き出したのが溶岩か水であるかの違いと言いたいほどに、その勢いはすごくその場から対比していなかったららだではすまなかったと感じていた。


 打ちあがった大量の水が雨のように降る中、三人はあたりを見渡す。

 水忍鬼の姿は見えない。

 だが逃げるとは考えられなかった。


 そして。


「くぞがぁ!!」


 先ほどの同じように地面から水が噴き出した。

 しかも三人を囲うようにいくつもの柱が出来上がる。

 そして寸でのところでよけきれなかったダックは斧を持っていかれる。

 腕も多少の負傷をして、研磨剤でも入っているのかと疑いそうになるほど。

 だが、それはスキルだ。

 ただの水と思う方がおかしな話。


 そしてついに、鬼の影を捉える。


「どこに隠れていたかと思えば」


 鬼の影は水の柱にあり。

 そして斧がなくなった所をねらわれた。

 だが、ナイフ程度なら持っている。

 すぐさまそれを抜いて振ろうとして。


「うしろ!」


 となうの声に背後を見た。

 霧状の雨が視界を悪くして、視野を狭めていたことが原因だったのだろう。

 それとも真にそれがスキルの効果であると認識していなかったのか。

 水の柱の中にいたと思ったのは、鏡のように映った鬼の姿で……


「はぁああ!!!」


 本体は背後を取っていた。

 地面は水浸しで足は滑る。

 それでも、反転して攻撃の間にナイフを挟む。

 

「ぐ」


 倒れこむ視界で、蔦を鬼に絡ませて剣で攻撃を仕掛けるヘキを見る。

 鬼はそちらに対応するために反転する。

 水に慣れているのか、脚を取られることはない。

 だが、蔦で足を引いて、体制をわずかに崩す。


「これで」


 終わりだと言おうとして、鬼は棍棒を振るいヘキを飛ばす。

 文字通り飛ばした。

 宙を舞うヘキにたいして、バッタのように腕を振り切った懐はがら空きだ。

 そこにとなうが突っ込んでいた。


 ただ、その時となうは見た。

 棍棒を持つのとは反対の手に水が集まっていくのを。

 この攻撃は知っていた。

 始めにダックを襲った攻撃だ。


 だが。


「こっちにも!」


 鏡合わせのようにとなうは手を翳した。

 そして光を内包した水球は白い光を、赤色に変えた。


 となうが、翳した手を握った瞬間、水の球は爆ぜて、水煙が視界を覆い隠した。

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