棚ぼた
「聞きたいんだけど。どうして、あそこに私たちが来るってわかったの?」
道中、トミイタにそう問いかけたのはミルノさんだった。
確かに、思い返してみれば待ち伏せをするようにあそこにいたのは不自然な話だ。
「ただの予測ですよ。まあ、近くに来たときに探知系のスキルで存在は把握してましたけど」
『予測で出来るもん?』
『いくつ階層間の入り口があると思ってんだよ』
予測なんてものが出来るのか、ふと首を傾げればトミイタは言う。
「DHのスタート地点って大体決まってるんですよ。開始時間まで待機と言う関係上、攻撃してこないタイプの常駐魔物の生息エリアが選ばれますし。そして、このダンジョンは各スタート地点から下に降りるルートは大体決まっている。現在、一つ目の『鍵の破片』が見つかってヒントが更新されてどんどん人が下に降りてくるとなれば、そのポイントで待っていればいいと言うわけです」
「じゃあ、誰かが来るってのは分かってたけど、別に私たちのチームだとは分かっていなかったわけだ」
「まあ、そういうことになりますかね」とトミイタが言う。
「でも、ラッキーでしたよ。ミルノさんや花火さんが一緒のチームだなんて」
『ん?知ってるのか』
『まあ、配信者だから情報事態はまあ』
トミイタの言葉に俺は驚く。
まさか名前を知られているとは。
「こう見えても、最近活躍している花火さんとかは結構見させてもらってるんですよ」
「そ、そうなんですね」
なんか照れるなと思いながらそう返す。
その間にシキカさんには「シキカさんも強そうですしね」とフォローを入れるように言った。
「僕結構、ダンジョン配信者さんの動画見てるんで詳しいんですよ」
なるほどななんて思う。
正直俺は、自分が活動を始めてからはそんなに他の配信者さんのコンテンツを見る機会は多くなかった。
単純に活動時間が増えたために起こった現象であった。
今まで動画や配信を見て時間を潰していた時間を活動に充てるようになったのだ。
そんな話をして少しいくつかの階層を降りたあたりで皆が脚を止めた。
「この先です」
トミイタがそう言って先行する。
そして言葉を続けた。
「ここに罠を張っておびき寄せます」
彼がそう言ったのは小さな部屋のように開けた空間だった。
一人暮らしの部屋よりかは広いが大人数が入るほどではない。
そんな印象を受ける場所で彼は説明を始めた。
「まず、この空間より少し先に件の『鍵の破片』を入手したチームが身を隠してます」
「その人たちをあらかじめ何らかの罠を仕掛けておいて嵌めると」
「ま、そんなとこですね」
ミルノさんが先んじて言えばトミイタが頷いた。
「まあ、罠はこちらでもすでに張ってますからその共有からしましょう」
そう言ったトミイタは説明を始めた。
まず、チームメイトの一人を見た。
「彼女はレネカさん。彼女の土魔法で出入り口は取りあえず塞いでます」
「今空いているのは入って来たところだけですね」と彼は言う。
恐らく作戦を実行するときに今空いているところを塞いで、『鍵の破片』持つ者たちをおびき入れる場所は後で開けるのだろう。
作業をしている最中にターゲットと出くわしてはたまらない。
「でこっちの、昆布西口さんが、まあ、氷系のスキルの持ち主と思ってもらいたいんですが。此処に入って来た人たちの脚を地面に縫い付けます」
彼の言葉からスキルに何か特異性があると思いながらもなんとなくの彼らの作戦は理解する。
例え隠したいことがあったとして、何故わかりやすく濁したのかは気になるところではあるが。
「それと僕の暗幕スキルですね。まあ、この部屋くらいの範囲内の端末すべての画面を黒く塗りつぶす程度のものですけど」
「だけっていうけど大分強力じゃない?」
ついでのようにトミイタがそう言ってそれに対してミルノさんはそう言う。
その意見には俺も同じ思いだった。
「まあ、自分で言うのもなんですけど結構有用だとは思っています。この範囲内そして特定の、今回で言えば端末くらいの大きさのものと言う条件付けをしてるので、端末以外にも条件に当てはまれば適用されてしまうんですけど。それでも、端末の画面が見れないだけでスキャンを封じるくらいは出来ますしね。画面を除かずにカメラを向けるのは難しいでしょうし」
「確かに。でも、起動の条件は?」
「この空間内での特定のモーション。今回で言えば、親指から小指まで指を折るように数える動作を設定してます」
ミルノさんが色々聞いてくれるのでなるほどなと思う。
「そんなところですね。道中でも簡単な概要の説明はしましたけれど。……じゃあ、取りあえず常駐魔物を倒しつつ罠の設置に移りましょうか」
誰がどうするなんて話はともかくとして、どういった方法で仕掛けるかなどと言った話は道中していた。
だから俺は沸いている邪魔な常駐魔物をスキャンしてヒントがないかを探りながら倒して、適当に仕掛けていく。
だが、次の瞬間だった。
一つのログが鼓膜を揺らした。
その内容は現在『鍵の破片』を手に入れたものがいると言う事。
そして次の瞬間この場にいるすべての端末の画面が闇に染まる。
それは、『鍵の破片』をこの中の誰かが手に入れたことに他ならない。
すでにここにいる者たちは皆が距離を取り、警戒するように構えていた。
それはすなわち端末の画面が暗くなった瞬間にここにいる皆が察したのだろう。
『鍵の破片』を手に入れた人物は先ほどトミイタが言ったスキルを利用したのだと。
今この場には、二つのグループが存在している。
しかし、異なる二つがここにいるのは強力関係にあるからだ。
狙いは先ほどまで唯一人の手に渡っていた『鍵の破片』だ。
しかし、それがこの中の二チームの誰かにわたってしまった。
この時に自分が持っているなんて話をするものはいない。
だが、黙ってここに居続けるものできない。
鍵を手に入れたのならば、スロットを手で覆い隠す必要がある。
ならば、ここで必要なのは皆が手をスロットにかざす必要がある状況を作ること。
仲間に口頭で伝える事や、何らかの合図を送れば不信がられる。
ならばと、取れる方法の一つが『暗幕』とか言うスキルの発動だ。
作戦の関係上故にか、発動モーションをトミイタ本人は教えた。
そこに嘘偽りがあれば、この協力関係は簡単に壊れるのは自明だ。
故に、モーションは事実である可能性は高く、実際にこの状況になっていることを考えればトミイタが発動させたわけでもなければこの中の誰にでも『鍵の破片』を手に入れた可能性があるわけだ。
では、誰が。いや、どちらのチームが持っているのか。
この場から逃げるにしても、相手を足止めして鍵を奪うにしても、どちらのチームに『鍵の破片』あるのかを知る必要があるだろう。
どちらかを見き分けなければ行動は真逆であるため、間違えれば不利に働く。
だが、『鍵の破片』を見つけてからログが流れるまでの時間には差がある。
そこから考えれば、どちらに。いや、誰が持っているかを見極める方法も見えて来る。
つまりだ。
『鍵の破片』を手に入れたものはおのずと、自身のスロットを隠す動作が速くなる。
故に誰が手に入れたのかを知ることは簡単だ。
本来ならば。
しかし、ここに絡んでくるのは『暗幕』スキルであった。
トミイタの言ったスキルの判定条件は、大体の形と大きさだった。
つまり端末の形と大きさと多少の誤差であれば、端末以外のものでも引っ掛かる可能性があると言う事。
そして実際、肩のスロットに関わらず、その全てが黒く染まっていた。
さらに、ログが流れてからこのうちのすべてのものがスロットを隠すような動作をしていなかった。
反応できなかったわけではない。
反応するのと同時に黒く染まったために動作を取る必要がなかったのだ。
しかし、一人『鍵の破片』を手に入れたものが隠す動作をしていないのはおかしな話だった。
端末とスロットの大きさは似たようなもの。
しかし、それは厚みを考えれば必ずしもスキルが条件の内と判断するか分からないはずだ。
スマホほどの端末とシールで身体に貼りつける関係上ステッカーのようなスロットの厚みを比べて同じくらいとは判断しないだろう。
だが、トミイタのチームであればその限りではない。
用意周到なトミイタが敢えて俺たちには隠した厳密なスキルの判定を仲間に教えないとも思えなかった。
だから、鍵は恐らく彼方のチームの誰かが持っており。
それを恐らくトミイタを含む三人は感づいている。
だが、動きをミスればこちらにバラすことにもなりかねない。
とかなんとか、この一瞬のうちに考えていたのだろう。
俺があらかじめ仕掛けていた爆弾を起動するのに反応が遅れた。
それと同時に俺は地面を蹴って脱出を図る。
当然、奴らも足止めを測ろうと爆発音に身体とスキルを向けるが、そちらは囮だ。
別方向に足を進めて、直接生成した爆弾で壁を割った。
彼らがあらかじめ魔法で塞いでいた通路はいくつかあった。
それに加えてフェイントを入れれば追い付くことは至難の業だ。
そして、シキカさんとミルノさんは俺の動きについてこれていないが、とにかく『鍵の破片』をこの場から持って離れる事だけが重要だ。
何とか、後で合流すればいい。
だから気にせず俺は部屋を脱出した。
「正直賭けだったけど」
上手く撒いて、それでも止まらずに走りながら俺はそう漏らした。
『暗幕スキルの条件何て花火ちゃんは知らなかっただろうしなぁ』
『まあ、正直良かったとは思う』
『下手にとられるより一か八か賭けた方が勝算あったしね』
実際のところ、俺は暗幕スキルの芽倍条件付けを知らなかった。
作戦が成功したのはひとえに、スキルがそこまで便利なはずないと言うなんとなくの感覚だった。
そこまで明確に設定できるスキルであれば強すぎると思ったのだ。
まあ、他にも制限はあるだろうけど。
「何より、トミイタがスロットを封じないわけないだろうなってのもあったけど」
ほんの少ししか一緒にいなかったが、俺でも思いつくようなことを彼がしないわけがなかった。
スロットが見えないと言うだけで、多少の隙は埋めるだろし。
とりあえずしばらくは、一人行動だと思いながら足を進めた。
VRゲームのロボットアクションものを書いてみました。
ちなみに女主人公です。
タイトル『【VRMMO】天才少女は裏ゲームモードを征く~『Pit Coffin』-Game Mode:Underground Struggle-~』
https://ncode.syosetu.com/n2512kk/