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44/59

平均は5


 『鍵の破片』を手に入れた時、Bチームの、面々が一番にしたことは入手した『鍵の破片』を誰が持つか。

 そして、探知に優れたテケが接近してくる気配を感知したためにどのようにしてやり過ごすかと言う事だった。


 そこで応急的な処置として考えたのが、各々がスロットを手で覆い隠すと言う事だった。

 想像以上に一直線に向かってきたAチームへの対策として出来るのは精々この程度だった。

 覆い隠す関係上、スロットの位置は腕に限定される。

 さらに、片腕に抑えられて動きを制限されるとは言え、動かせる方の腕は利き手に設定。

 つまり、全員が右利きであるBチームの三人は、左手で右の二の腕を抑えたような形になっていた。


 そしてそのおかげか、結果的に奇襲の効果を軽減させることには成功した。

 だが。


「別に、右手を使わざるを得ない状況にすればいいだけの事ですよ」


 襲撃者その人である輝葉はそう言った。

 その手には、剣が握られていた。

 

「それに誰が『鍵の破片』を持っているかくらいは想像が付きますしね」


 その瞬間、地面が蹴られる。

 そして輝葉が、いや、他二名も同時にそちらに向かう。

 狙ったのは、小柄な少女テケであった。


 それを見てジチョウは、内心占めたと感じた。


『あそこまで堂々と宣言したから、充てられたかと思ったけど違ったな』

『持ってるのはジチョウなんだよなぁ』

『なんかてるはくん?から凄い中二の波動を感じるんだが』


 『鍵』を持つのはジチョウ。

 そして、三人がテケに向かったと言うことはこの一瞬の賭けに勝ったと言う事。

 正直テケが狙われたのは心配だが、ヒカゲがフォローすることは分かっている。

 ならば、ジチョウはこの隙にこの場を全力で離脱するに限る。


 スキル『溜発』を使用し、足の裏で張れるさせる。

 それは、一歩目の飛距離を格段と上げて、一気に加速する。

 基本一度使用した後、再度使えるようになるのは数秒後。

 最初の一歩で、出来るだけこの場を離れるために使ったスキルであった。


 一度反対側にジチョウが逃げれば彼らも感づき、逃げるのは困難となるだろう。

 それ故の判断だった。


 しかし。


「ぬぐぁ!?」


 スキルによって無理やり弾かれんとした身体が、引き戻される。

 上と下から重力を掛けられたような感覚にめまいを起こしそうになりながらも、状況の把握に努める。

 一瞬視界を下に傾ければ、脚には地面から伸びた蔦のような何かが絡みついていた。


 即座にスキルだと仮定するも、なぜここで発動しているのかと言う事には答えが出ない。

 恐らく使用されたスキルは『植物魔法:蔦』だろう。

 だが、スキル使用に対しては指向性を持たせるために、必ず手で翳すなどと言った対応が必要だ。

 しかし、彼らは三人すべてテケを狙いこちらに背を向けた状態である。

 スキルの使用は不可能だ。


『何でスキルが?』

『スキルでその辺なんとかできないん?』

『いや、現実的じゃないが、方法はあるっちゃあるけど』


『マジモンの天才にしか許されないぞ』


 配信を見ている数人が可能性の模索によって、一つの可能性を得る。

 だが、それは普通に考えて現実的ではない。


 しかし、ジチョウも同時に同じ考えに至った。


「『感圧起動』か……」

「正解」


 その時、輝葉の声が聞こえた。

 一瞬でこの場まで戻ってきていたのだ。

 いや、これくらいのことは探索者には難しい話ではない。

 そもそも、ジチョウは移動するための一歩目を封じられている。

 大した距離ではないのだ。


 出遅れるとするのならば、テケの防衛へと動いたヒカゲくらい。

 しかも彼女は、他の二人が足止めに動いていた。


 輝葉の狙いは剣を使い、防御に手をつかわせること。

 故に振るわれた剣は左手をどかさんと右腕を掴む手の甲へと向かった。


 ただ。

 瞬間、空間に黒い何かが湧き。

 円形を象り、剣を止めた。


 輝葉はヒカゲを睨む。

 スキル『影操作』。

 それは配信者のヒカゲの代名詞とも言うべきもの。

 当然、輝葉も知っていた。


 そして、自分の攻撃が見破られていたと言う事も。


 『影操作』はそう使い勝手の良いスキルでもない。

 動かせるのは基本的に自分の影だけであって、他人の影は操れない。

 さらに、物質化させるとなれば二秒が限界であり十センチ四方程度の板を作るのが精々だ。

 そのうえでジチョウに自分の影を潜ませていたのだ。

 影を切り離して使えるのは精々十三秒。

 始めの会話の切り上げのタイミング、そしてこちらが動くタイミングまでも予想して影を動かしていた。

 それに当然こちらが警戒しているわけだから、切り離した影の大きさによって自分の影が不自然に小さくならないように見せながらだ。


 そして輝葉が、何よりも苛立たしいのはその少ない切り離した影であらかじめ攻撃する場所を見切り、設置されていたこと。

 右腕から左手をどかしたい。

 そう言った考えを持っていたために、左手の甲を無意識に狙ってくるのを読まれた。

 それ故に、あの僅かな薄い影の板一枚で自身の攻撃が阻まれた。


 無念に表情を変えるが、ここまでやっておいて何をとジチョウは思う。


「態々、自分たちが方向に俺を向かわせて閉じ込めることに成功したくせにそんな顔すんなよ」


『それな』

『自分たちの来た道は最初にスキルで塞いでおく徹底ぶりで一個くらい作戦が決まらなかったからって」


 ジチョウが、逃げようとした先。

 そこには、三人のうちの誰かだろうスキル、恐らくは『土魔法』によって壁がふさがれていた。


「それに、『感圧起動』。流石にアレは予想外だった」


 ジチョウがそう言うとコメント欄は賛同の意を表した。


『それはそう』

『なんか凄いん?』

『便利だし皆使いそうではあるけど』

『スキル保有枠三つも潰すスキルだから普通は取らないしとれない』

『しかも、特定の魔物が落とすスキルオーブからしか取得できないしな』


 『感圧起動』。

 その詳細は、他のスキルと合わせて罠として発動できるスキルである。

 起動条件は圧力の感知である。

 

 しかし、圧力と言ってもただ踏めばいいだけではない。

 先ほどジチョウが使用したようなスキルを使った爆発的な力が必要であるし。

 さらに、『感圧起動』にしよう出来るスキルは自分のスキルだけであり、設置中はもちろんのこと設置後は的中不発に関わらず三十分ほど再度そのスキルの使用はできない。

 そのうえ、要求スキル保有枠は驚異の三つ。

 この場にはいないが、玉屋葦がこのスキルを覚えても保有枠すべてを埋めてしまい使い物にならないほどの代物だ。


「つーか、そもそも、この一瞬の戦闘でスキルいくつ使った?保有枠いくつあんだよ?」


 異常なスキルの連発。

 さらに、その多くが他二人ではなく輝葉本人が発動していることを考えると介入不可能の才能であるスキル保有枠が平均の五を大きく上回っているだろうことが予想できた。

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