ルール
遅ればせました。
『あれ?待機画面になった』
『Tさんが流石に切ったか』
『まあ、気付いてなかったみたいだし』
「はぁ」
カメラと音声を切り待機画面に戻したところで涼香は息を吐いた。
手違いによってか配信枠に映ってしまった映像を切るのが遅くなってしまったことに反省する。
今回は予選と違って直接的な補助をしない為か気が抜けていた。
そのことに反省しながらも不備がないかもう一度確認をする。
ルール上、開始前の準備段階での配信は許可されているものの、当のアシ本人が気づいていないことと、更に他二人もいることを考えて涼香はすぐに映像を切ることを判断した。
本来こういったときにはすぐに対応できるように画面に張り付いていたのに、肝心な時に飲み物を取るために離席してしまっていた。
アクシデントとは言え、気を引き締めた。
そして、今度は二つあるモニターの内の片方へ視線を移した。
《そろそろ開始が近いですね》
そんなことを洩らすのは画面の向こうにいる配信者フーカであった。
公式配信の様子を見つつ、花火の配信設定に目を走らせた。
◆
「さてさて~総勢30名、全10組の出場者の皆さんが開始地点についたようですね」
『そろそろか』
『まだちょっとあるけど』
公式チャンネルにてフーカが仕切りなおすように声を出した。
配信開始から少々時間が経っているために、フーカの話がそれにそれて雑談気味になっていたところにインカムからの音声をもらったのか話が切り替わった。
そして、分かりやすくタブレット端末にて用意された台本を、ここでもないと左右にスライドした末に彼女は口を開いた。
「改めまして今回の大会では、入場限界30層から40層の実力者の皆さんが、魔物を倒し獲得するptを競って争ってもらいます!」
『めっちゃ台本の場所見つけた時、よし!みたいな顔してんな』
『入場限界だから到達階層ではないのか』
『つっても、本戦に出てる人ならほぼ実力は入場限界とイコールじゃね?』
コメントで交わされるのはフーカの様子と入場限界について。
入場限界と到達階層の違いは当事者である探索者でなければそこまで詳しく知らないものも多い。
『ダンジョンドミノ』を利用した集客と普段配信を見ない層が入り乱れるために、それに対する説明をするコメントであふれていた。
それに対して予選時に30階層の魔物に勝つことが出来ないものがいたことに納得を示すような様子も見られた。
30までの入場が許可されていても、そこをクリアできるとは限らないと言う話であった。
「では開始前に、各チームの紹介です!」
彼女がそう言えば、配信画面は移り変わりチームごとに割り振られたアルファベットと顔写真がずらりと並んだ。
チームは全部でAからJまで。
その中のCチームには配信者『花火』の名前があった。
そして、各々の簡単な紹介の後、彼女は宣言をした。
「では、只今より、DH開始です!」
◆
「お、始まったみたいだねぇ」
手元の端末にて何かを確認したミルノさんがそう言った。
それにつられて確認すれば、本戦開始の文字がでかでかと表示されていた。
きっとコメントも盛り上がっているだろうと予測して、俺は顔を上げた。
ドローンさえ起動させてしまえば、あとは涼香さんがしてくれているはずだから開始の少し前には配信が始まっているはずだ。
ミルノさんも配信の開始はしているようでドローンが飛んでいる。
シキカさんはそう言ったことは必要がなく準備はよさそうだ。
俺がそうやって状況の確認を終わらせるうちに他二人も周りの確認を終わらせてたようで、ミルノさんは口を開いた。
「じゃあ、取りあえず『鍵』を探そうか」
そう、今回の第一の目標は『鍵』だ。
◆
「皆さん、順当に移動を始めたようですね。では、ここでルールのおさらいをもう一度!」
『来た、三回目の説明』
『途中で来る人もいるしな』
『注意事項の方が重要だから、始まる前だとどうしてもそっちが優先だしな』
公式チャンネルにて喋るフーカは、指を立ててカメラを目を合わす。
そんな彼女の動きを最後に、配信画面が切り替わる。
「今回の本戦、大まかなルールとしてはptを一番多くとった人が優勝なのですが。それ以外の細かな部分が違います」
『そうね』
『毎年予選と本線は別物』
「勝つために必要なptを集める方法として一番効率的で、ねらい目とされているのは皆さんご存じ30階層の強力な魔物を倒すことです」
確認するように彼女が話せば、配信画面には簡易的な図と共にpt配分が表示された。
例を挙げるとするのならば『一層常駐魔物……1pt(確率)』、『30層出現魔物……750pt』と言った具合だ。
それだけで、30層の重みがどれほどであるのかを簡易的に表していた。
「ですが、今回は予選と違ってチーム戦。30階層の魔物に挑むのには『鍵』が必要とされます」
『実力者が揃ってるからしゃーない』
『枷が無かったらそのまま終わっちゃうもんな』
更に表示が変わり『鍵』のテキストに移り変わる。
「『鍵』は、全部で五つの『鍵の破片』を入手することで一つの『鍵』として完成します。鍵は特定の魔物を倒すことで入手が可能になりますが、一定の手順を踏む必要があります」
フーカはそう言い、セットの机に立てかけられていた端末を持ち上げた。
「『鍵』を入手する際の手段として、まずはこの端末を使って魔物をスキャンする必要があります。そのスキャン結果によってその魔物が『鍵』を持っているかがわかります。『鍵』は物理的なものではなくスキャンと言う手順を踏んだうえで、その魔物を倒すと入手できます」
「こんな感じです!」と彼女は実践して様子を見せるなか、画面が切り替わり分かりやすくまとめられたテキストが表示される。
画像には鍵入手後の様子も映っており、入手すれば端末にて確認できることが見て取れた。
「お、コメントでも『スキャンせずに倒したらどうなるの』って来てますね。スキャンせずに倒してしまった場合、『鍵』は別の魔物に映ります。また、『鍵』を持っていない魔物でもスキャンすれば、『鍵』へのヒントが得られる場合もあるので重要ですよ~!」
『まあ、ヒントなしじゃあキツイか』
『電子的なアイテムだから、簡単に移譲は出来るのか』
『無差別に56しまくって、ゲットは無理か』
本戦開始から様子を見に来た者も概ねルールを理解できたようでコメント欄では、各々の解釈が流れていた。
「他にも色々と細かいところはありますが、追々説明していきますね~」
彼女がそう言うと、不意に耳に手を充てて表情を変えた。
「おっと、只今もう一人の実行委員が到着したようです」
『マジか』
『忙しい中、ここにも顔出して凄いわ』
『ほぼ間に合ったようなものだな』
フーカが説明するように言うとコメント欄は加速した。