灯火
灯火
自己紹介をして仲を深めたことにより、俺たちは打ち解け今ではすっかりため口で話せるようになっている…………なんてことはなく。
控室で話した会話が身を結ぶことはあまりなく、無情にも時間は過ぎ、すでに俺たちは大会の場であるダンジョン内部へと足を運んでいた。
「おお、いつもと違うとこに来るとなんだかわくわくするねぇ」
戦闘を歩くミルノさんは、きょろきょろと周りを見渡してそんなことを言う。
確かに、ダンジョンの難易度と言うのは教習ダンジョンを除けば一律にほぼ同じものである。
だが、それは何もコピーしたように同じ風景がそこに存在するわけではない。
ダンジョンごとにドロップするアイテムの違いがあるように、ダンジョン内の趣も変わってくるのだ。
「シキカちゃんは、普段の行ってるダンジョンはどんな感じ?」
不意にミルノさんは、話を振る。
俺たちが話さなすぎる故の気回しだろうか。
声を掛けられたシキカさんは、遅れて口を開く。
「あ、えと。私が普段行くのは、草原系のフィールドのとこです」
「やっぱそうだよね。なんか装備がそんな感じだもん」
ミルノさんはシキカさんを見てそう言った。
俺には洞窟系のダンジョン装備と草原系のダンジョン装備の違いなどさっぱりだが、何が違うのだろうか。
と言うか、そんな違いがあるのなら、何故この人は装備を変えてこなかったのだろう。
もしかしたら、すごく強い人で装備の有無が関係しないのだろうか。
そんなことを思いつつ、俺は配信の準備をする。
まだ開始はしないが、涼香さんに出来るだけ早くやっておけと言われたのだった。
ドローンを飛ばしてみるが何か不具合があるようには見えない。
恐らくこれで大丈夫だ。
『ん?』
『始まった~』
『あれ?でも、映像そのまま映っているだけじゃね?』
後は機を見計らって開始しよう。
『ミスってんじゃね?』
『気付いてなさそうだし』
『まだ、本戦始まってないしな。他の配信者で始めてる人は沢山いるけど』
「花火ちゃんはどう?」
「え?」
配信の準備に気を取られてその言葉の意味を把握しきれない。
すぐに、ミルノさんは補足をして言い直してくれる。
「花火ちゃんって色々なダンジョンに行ってるでしょ。どんなダンジョンにいたのかなって」
色々と言われても、片手で足りるほどしか言ったことはない。
とは言っても、本来探索者はダンジョンを変えると言う面倒な手段を取ることはないため、その基準から考えれば俺は結構な回数ダンジョンを変えていることになるだろう。
それにしても、俺がいくつかのダンジョンを渡り歩いていたのを知っているほど見てくれているとは。
なんだか、嬉しくも気恥しくもある。
「えっと、大抵はここと似たような洞窟系の場所なので、レパートリーとしてはそんなにです」
「そうなんだ。やっぱ多くが洞窟系だって聞くけど、花火ちゃんの体感でもそうか~」
なるほどなと彼女は手を叩いた。
そして、暫く間が空いた。
ほんの少しの間であったが、俺は耐えられない。
『案外喋れてて安心した』
『ウラウとの配信でも出来てたし今更だろ』
『ミルノさんだ~』
『今本人は配信してるって気付いてないからな』
『でも、これ、ミルノさんしか話題振ってねぇか?』
どどどどうしよう!?
いや、逆に考えるんだ。
ここは話題を振るチャンスではないだろうかと。
よし。
やってやる。
「「あ、あの………」」
決心して、声を出した瞬間、シキカさんと被る。
その事態に一瞬固まるも、言葉を何とか紡ぐ。
「あの、えっと、先どうぞ」
「あ、いや、何でもないです。どうでもいい事なので。それより話があるならどうぞ」
こっちに振られてしまった。
えっと、なんだっけ何言おうとしてたんだっけ。
やばい、頭が真っ白に。
とにかくなにか……
「あ、あの。どんな戦い方するんですか?ほ、ほら、火とか出したり……」
「火?」
「あ、いや」
変なことを口走り、シキカさんが首を傾げたのが見えた。
ただ、「ああ」と声を洩らして、カチッと音がして、彼女の顔の影が深くなった。
「ライターならありますよ」
ライター持ってるってことは煙草吸うのかな?
あれ、シキカさんって十八だってさっき言ってたような。
え、なに?不良なの?
超怖い。
◆
危なかった。
シキカはそう心の中で紡いだ。
勇気を出して声を出してみればそれが被り、その上困らせてしまったのか困り顔で火を出せるかと聞かれたときは死ぬかと思った。
偶々、大学で偶々喫煙所の近くを通った時、シキカが吸っているのかと思われたのか、落とし物であったライターを渡されたのが役にたった。
どうすればいいか分からなくて学生課に届ければよかったと後で後悔したが、何とか花火の話に答えることが出来てよかった。
なぜ火を欲していたのか知らないが、変に会話が途切れることがなくて安心した。
いや、ちょっと待て。
もしかして吸うのだろうか。
配信者が裏でタバコを吸っていても確かにおかしくはないが……
あの純粋無垢そうな顔をしながらも裏では怖いひとなのだろうか。
そんなことを考えて、シキカは体を震わせた。