不安
DH──ダンジョンハントがチーム戦である。
そんな事実は皆の内では周知であるらしい。
「大体、最近は配信活動をする方たちの影響で一人での活動も増えてますが、もとは数人でパーティを組むのが普通でしたから」
そんなことを涼香さんは言う。
確かに、配信が盛り上がりを見せ始める前までは人数の多くいる人たちがたくさんいたような気がする。
最近はダンジョン探索者に対するサービスが充実してきて安全に入れるようになったが当時は違ったらしいし。
「でも、どうすれば……っ」
「どうすればって」
俺の嘆きに涼香さんは呆れたように反応する。
先ほどまで似たようなことを口走っている俺に対して聞き飽きているのだろう。
それでも、俺は言わずにはいられない。
「不安だ……」
知らない人たちとチームを組んで一緒に戦う。
そう言葉にしてみれば、俄然うまく行く気がしない。
配信をしながらするのだから多少は気を保つことが出来る気もするが、それだって限界がある。
それに、メンバー発表がDH本戦の当日、狂っている。
「流石に、当日はおかしいよねぇ」
「まあ、ただの大会であればそうでしょうけど。残念ながら協会主催ですしね。建前には、実際にダンジョンでの緊急時に即席パーティを組んで動けるかと言う事もありますし」
「安全性が、と抗議したいところだけど、ダンジョンに入って命のやり取りしてるだけ無駄か」
俺はため息を吐く。
「安全性でいえば、下手に実力がある人たちが集まっているので、そこらのダンジョンの低階層より安全とも言えますよ」
そんな彼女の声を俺は聞きながら、力なく笑った。
「俺が話さなくていいくらい超絶コミュ強の人が来ればいいのにな」
◆
「はぁ」
教室の机に丸まり息を吐く。
彼女、納屋シキカはいわゆるボッチであった。
意味もなくスマホをスクロールしながらこの時間に耐える。
聞こえるのは女の笑い声。
いや、話し声と言うべきか。
キンキンと耳が痛くなるような声に耳を塞ぐことも出来なく身を屈める。
大学に入ってからと言うもの、高校時代のようにボッチでいる事への辛さは軽減したもののこの時間は苦手だった。
二限が終わり、昼休みが終わる十五分前に講義室についてしまったことに後悔する。
忘れていた。
この時間にはまだ、この女子たちが居ると言う事に。
食事をしながら笑い声をあげる彼女らを今すぐ追いだしたい。
次の授業をここでするものがいるのならまだ許せるが、そうではないのだ。
そんな風にぐちぐちと心の中で考えるのは、やはり大学デビューの失敗によるところが大きかった。
シキカ自身、高校時代ボッチであったために、努力をして自分の外見に対して気を使った。
うぬぼれでなければ、相当に見た目が良くなったはずだ。
それなのに、自身のコミュニケーション能力の低さが幸いしてか、盛大にずっこけて今では一人なのだ。
大学内でボッチなのはさして不思議な話でもないために、何とか耐えているが、今現在背中から突き刺さる女学生の声には耐えかねていた。
自分が友達作りに失敗していなければ、こんなことも思わなかったのだろうか。
そこまで考えたところで、不意に通知が来る。
文字を読めば、DH本戦に関わることだと気付いた。
これは、DH予選に突破したものにだけ、送られるお知らせであった。
そして、彼女もその一人であり、『シキカ』の名前で登録していた。
お知らせを開けば、チーム戦であると書かれており、それは彼女もわかっていた。
この際に、強制的にチームを組まされることで知り合いが増えるだなどと考えてはいたものの、いざそれを前にすると不安が押し寄せる。
「私が話さなくていいくらい超絶コミュ強の人が来ればいいのにな」
つい口に出てしまった言葉に彼女は気付かず、ただただ、出場してしまった自分に後悔していた。
◆
ダンジョン・ハント本戦当日。
シキカはチームが発表され、顔を合わせることになった。
そして小柄な少女が、明らかに挙動不審な動きをしているのを見て、絶望する。
これはアレだ。
自分と同じタイプだ。
そして自分と同じように、お互いに話かけられない。
ボッチ同士が集まったところで、友達になれるなんて単純な話ではないことを身に染みて知っている。