問題は態度だけ
「簡単な話だ。今回のDH予選。本選に出場できるのは、一位だけ。つまり、一人だ」
ルールを確認するように男は言う。
『そう考えると厳しいな』
『まあ、全国規模だし』
『全体の人数からして妥当だよな。本選は同じとこで一斉にやるわけだし』
「そして、例えば今俺とアンタが、同率一位になったとする。その場合、この場で試合時間が終われば……」
「二人とも本選に出れる。でも、今のランキング上では俺が一位で、貴方が二位でしょう。センテンさん」
俺はそう言う。
例えと言っても、前提条件からあっていない。
「まあ、ランキングで俺が二位なのはわかるか」
ランキングシステムには、登録名が表示されている。
それ故に、彼がここにいると言う事実と獲得ポイントの取得状況を考えれば、二位の人物であり、名前も同時に特定は可能になる。
「わかってんならいい。でだ、さっき言ったように、俺も一位になった場合」
「それは……」
「焦んな。こうすりゃいいんだろ」
先ほどから頑なに、見せなかった左手でつかむそれを前に突き出して、自身の武器を引き抜き、貫いた。
一瞬攻撃の可能性も考慮して構えを取るが、彼の意図はそうではなかった。
すでに達せられたのか、笑みを浮かべた。
「ヒヤヒヤしたぜ。これで、俺の賭けは勝ち。そろったぜェ、条件」
は?と声に出す前に、涼香さんの声が耳に届く。
《現在、ランキング更新されました。二位と一位の差はわずか3ptでしたが、たった今、その差は埋まり、同率一位となりました》
「魔物を隠し持っていた?」
「そう。いい感じに痛めつけて、ここまで来た。それに、そちらさんのptを確実に同じになるように調整してな」
「大変だったぜ」と彼は言う。
『大変とは言うレベルじゃないだろ」
『調整をするのもほぼ不可能に近いうえで、pt獲得も付与確率は絶対じゃない』
『くるってんなぁ』
驚く俺を置き去りにするようにして、男は続けた。
「さ、スタートラインに立ったぜ。まあ、でもなんとなくわかっただろ。両方が一位で、ここの魔物が1000ptとかいうバカみたいな点を落とす。協力すれば、仲良く山分け。二人とも上に行けるわけだ」
男はそう力説する。
『まあ、言いたいことは』
『無理あるだろこの理論』
『この男馬鹿だろ』
だが、そもそもの話、これは成立しない。
「そもそも、貴方は30階層の魔物を一人で倒せないのに対して、俺は一人で倒せます。俺がここを無視して行けば」
「気付かねぇのか?」
「え?」
「上昇志向も良いが、ちょっとは下も見た方が良いだろって話だ。現在3位、つまり俺たちの真下のやつが、今どこにいるかわかるか?」
何の話だと考える。
《現在、ptの変動具合を考えると、27階層です。そして、大物狙いの切り替えたのか進行スピードは速くなっているようです》
「もうすぐ、ここにもう一人来る。その意味わかるか?」
「……!ptの分配がなくなる」
「そうだ。二人まではptは分配される。だが、三人に増えたとたん、分配はされなくなり、最後に攻撃を入れた奴の総取りだ。そうなった場合、あんたは実力で勝っていながらも、一位を逃す可能性は出て来る。そして、アンタがいくら一人で動こうとも、奴が到着するまでの間に魔物を倒すことは不可能。そして、ついでに俺も邪魔をするから、絶望的」
これで俺は彼に協力をせざるを得なくなる。
一人で、この人をひり切って戦うことが出来た場合でも、下の人が追い付く可能性は高い。
更に、彼は邪魔をしてくるだろう。
そして、三人に増えてしまえば、貢献度に関わらず最後に攻撃を入れたものが上に上がることになるだろう。
ならば、共闘するしかない。
この人と協力すれば、討伐時間を短縮できて、更に邪魔もされない。
「配信者様は大変だなぁ、律儀に俺みたいなのの対応をしなきゃなんてな。とっとと、無視して行ってればよかったかもだが、もうアンタに選択肢はないぜ」
「わかりました」
『うぜぇけど、しゃあねぇ』
『まあ、ルール的にはアリだしな』
『どうせ燃えそうだけど、ズルはしてねぇし』
頷いた俺は早速攻略を開始した。
◆
「何度見てもでけぇな」
男はそれを見て呟いた。
30層の魔物と言えば、ある種の壁としての役割ももつほどの魔物である。
そのうちの一体。
その名を『六面窓』
まるで一本の高い木のような本体に、枝のように伸びる六本の腕には四角い大きな板のようなモノが付いていた。
「詳細は分かるか?」
「はい」
実際は知らないものの、涼香さんを頼るので俺は頷く。
そうすれば男は口を開いた。
「来るぞ」