鳴く
《今から高ptが割り当てられている魔物の情報だけ教えます》
涼香さんの声が耳元から聞こえた。
現在16層。
普段の攻略なんかよりもマップが分かっていると言う事、そして魔物をほぼすべて無視していると言う要素が相まって相当な速度で進行を続けていた。
『走るの早くない?』
『身体強化スキルは、使えば使うほど効果は跳ね上がるからなぁ』
『にしても早えけど』
俺の現在出している速度は相当に早くなっている。
これは数々の魔物をダンジョンで倒すことによって得ることの出来る恩恵の一つである。
言い方を変えれば経験値を手に入れてレベルアップって感じだ。
別にそんな機能はないが、スキルはある程度の熟練度を高めればその能力を更に引き出すことが可能である。
故に、まるで成長するかのようにして俺の最高速度は上がっていた。
ただ、全力で走れば息が切れるように、身体能力強化だってこの速度を維持できるわけではない。
その辺は注意が必要だろう。
《16階層、『連千華』。千の花びらを持つ花のような魔物です。道中見つけたら倒してください》
「了解」
俺が狙うのは多くptを落とす魔物だけ。
その情報を涼香さんは伝えて来る。
現在の階層は彼女が言ったように16層だ。
どのダンジョンでも大体同じような強さの魔物が湧くので、結構な強さを持つものが出ると考えても良いだろう。
その中でも手ごたえがあるに違いない。
「っ!」
いた。
俺は前方にそれを発見する。
壁に沿うように生えているソレだが、明らかに大きさがデカすぎる。
どう考えてもあれが魔物だろう。
「───ッ!」
そして擬態の意味をなさない行動をそれは早速取って来た。
こちらが接近するにともなってその花弁をゾワっと動かした。
まるで羽虫の翅が動いたようで気味が悪い。
だが、それでも、そんな感想を抱くほどの時間はなく。
それはミサイルのようにして射出された。
俺に向かって花弁は舞う。
それを俺は爆弾で吹っ飛ばし、それでも残る大量の花弁を躱しつつ前へ出る。
花弁のサイズは手のひらほど。
そしてその花弁を短刀でいなした時に違和感を覚えた。
硬い。
まるで金属のような感触に眉をひそめながら俺は更に前進した。
そうすれば、本体がもうそこだ。
ここでまさかの視界外からの蔓、いや根だろうか。
植物の触手が妨害を測らんとする。
短刀はそこで押し止められるも、すでに隙間から爆弾を投げていた。
そして結果を見る前に、俺は通り過ぎた。
この間数秒もない。
ほぼ一瞬の出来事だ。
比較的ptが高いために優先的に狩ってはいるが、それでももっと下に行った方が高pt獲得は容易だ。
《pt加算はなしです。花火さんを追尾したきた花弁を躱して本体に押し付けましたが、ギリギリで倒しきれていなかったようです》
「……次はもう少しダメージを与えないと」
最初の花弁攻撃は最後まで俺を追っていたので、爆破のダメージに加えてそれを本体にぶつけることで倒しきれると踏んでいたのだが、少々見積もりが甘かったようだ。
だが次だ。
さっさと切り替えよう。
◆
17階層『相袈裟』撃破。17pt獲得。
18階層『擬乱童』未遭遇。
19階層『窃部葬』撃破。pt未獲得。
20階層『脳泥火』未撃破。
21階層『柄防士』撃破。21pt獲得。
22階層『施設壊し』未撃破。
23階層『和議針』未撃破。
24階層『蝋狼楼』撃破。24pt獲得。
25階層『日占』撃破。25pt獲得。
26階層『艇章』撃破。pt未獲得
27階層『赤埜』未撃破。
28階層『雛雷徘』未遭遇。
29階層『蒸篭兎』未遭遇。
そして、30層。
その階層における高ptが見こまれる魔物。
その名を『六面窓』
そしてその魔物の居場所へと向かう道中そこに立ちはだかるものがいた。
「よぉ、配信者。待ってたぜェ」
道を阻むように立つ男はそう言った。