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30/59

様子


 DHによる個人配信では、配信者及び補助者がコメントを見ることは出来ない。

 だが、それでも各配信者の枠には人が集まり、コメントが流れていた。


『開始早々爆破してて草』

『魔物いたんか』

『カメラ越しだと擬態が完璧だな』


 コメントが注目したのは、配信者花火の開始早々の爆破。

 そして、それに伴って壁からべろりと剥がれ落ちた多数の隠れ見。

 それが、光となって消えていく中を歩くのは、この配信枠の主である花火だった。


 彼女はぼそりと呟く。


「確か、マップはあるんだよね」


 それは誰への問いかけか。

 この配信を機に初見としてこれを見ている者には分からないことではあったが、ここ最近の配信を見ている者ならばそれをわかっていた。

 故に、返答がなされることに対しての疑問はない。


《そうですね。そもそも地形を変えることはできませんし。亜奏楽ダンジョンの内部構造くらいなら、調べれば出てきてしまいます》


 その声は少し大人びて、いや、しっかりとした芯のある物。

 配信者花火のサポートとして、最近雇われた千装涼香の声だった。


《だから、運営側もちゃんと配布してくれてますよ》


 視聴者が見ているからか敢えて説明的に言った彼女に対して、花火はお礼を言う。

 そんな光景を見ていた視聴者はコメントを加速させる。


『流石、Tさん』

『花火ちゃん一人だと心配だけど、ここ最近はTさんが居て安心』

『花火ちゃんがTさんにため口なのいいね』

『俺たちには敬語だしなぁ』


 Tとは千装の頭文字に由来する。

 今回のイベントの関係上、支援スタッフの声は配信に乗ることになっていた。

 本来の配信では涼香の声は聞こえるようにはなっていなかったが、一度設定ミスをしてからは声を出してほしいと言う希望が多かったために今回初めて声が出たわけではなかった。

 ただ、涼香は支援に徹している。

 配信者ではないので、一線を引いて必要な情報を言うとき以外は声を出さないように気を付けていた。


「えっと、一応いまは落ち着いているんで、始めに色々と説明とかしときます」


 花火は不意に口を開いてそう言った。

 そしてその言葉の通り、時間が経てばたつほどに喋る暇はなくなるだろう。

 故に、説明を先に済ませると言う魂胆だった。


「始まる前に注意事項は説明させてもらったので、あとは各々で概要欄から見ておいてほしいです。で、一応、今回は制限時間内に多くのptを集める必要があるので、取りあえず奥に進んでいきます。強い魔物ほど、ptが高いので」


 そう言う彼女は、片手間に魔物を爆破、あるいは短刀で切り刻んでいた。

 そして足は止めずに、どんどん進んでいた。


《次が右です》

「了解」


 涼香のナビを聞き、ぐんぐん進んでいく。

 イベント中は緊急時以外の転移陣の使用は禁じられている。

 だから、強い魔物を倒すことを考えればどんどん奥へと足を進めるしかない。


 そして皆が同じように下を目指す。

 故に、他の参加者にかち合うことも珍しくない。


「っ!?」

「失礼」


 曲がり角を魔物を追って一人の探索者が出て来る。

 それとすれ違うように、華麗に跳躍した花火は一言そういう。

 そして、残された魔物が光に散るのを探索者は見る。

 今の一瞬で、行われた攻撃は見事なものだった。

 故に、ptを奪われる結果になったことを探索者は理解した。


『はえぇ』

『短刀入れるの美味いな』

『魔物を奪うのはルール的にもオーケーだったな』

『むしろ運営が推奨している節がある』


 人の獲物を奪う行為。

 本来であれば少々の咎めを受けるそれは今回に限り合法だ。

 された側も怒ることなく獲物を奪われてしまった自身の実力に反省する。


 だが、それは花火には関係がない。

 彼女はまたも階層を降りる。


《さっきのじゃ2ptでした》

「今の順位は?」

《初撃で1位を取ることが出来ましたが、現在合計23ptで7位です》


『ランキングの変動えぐいな』

『もっと下りれば安定しそうではあるけど』

『花火ちゃんで7位か』


 随分と下降した順位に各々が感想を漏らす。

 序盤の層ほど、運が左右する故か思うように順位は上がらなかった。

 そしてそれを察した花火は完全に大物狙いに目標を定めた。


「今から雑魚は無視します」


 その宣言は敬語であり、配信を見ている者への配慮だった。

 配信において配信者が自身の行動について説明しないと少々面倒になる。

 それゆえの発言だった。

 今までしていた雑魚狩りをしなくなれば、『やらないの?』なんて言うコメントであふれかえる。

 花火はコメントを読むことはないが、それでも見ている側が不快思っては意味がない。


 そして、地面を更に深く蹴った。

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