予選開始
『ダンジョンハント』と言うイベントは大規模なイベントであり、様々な場で宣伝をしたために、注目度で言えば一般の普段ダンジョン配信を見ない層にまで知明度は及んでいた。
それ故に、参加をしようと言う人間は多く当初想定されていた人数を大幅に超える参加者が集まっていた。
ただ、そう言った可能性も考慮してすぐに対応を取ることが出来たダンジョン協会は流石と言うべきか。
そんな中で、始まったのはDH予選。
全国各地から集まった探索者は最寄りの、あるいは希望に出来るだけのっとったダンジョンにて予選の開始を待ちわびていた。
すべての会場で公式チャンネルによる配信が行われている。
司会実況は、主に協会支部から派遣された協会職員が行っていた。
「始まりましたね。神笠さん」
「ええ。音声も大丈夫そうですかね?」
『おっ始まった』
『結構この枠人いるな』
『始まった』
『音声も大丈夫そう』
「じゃあ、大丈夫そうですので、まずは自己紹介しておきましょうか。えー、わたくし、今回の第7ブロックの会場になりました亜奏楽ダンジョンの職員をしてます、沼村と申します。よろしくおねがいします。そして今回武重歌支部から来ていただいたのは……」
「神笠です。支部長してます。よろしくお願いしますね」
『どこかで見たことあると思ったら』
『よろしく』
『支部長が解説とか贅沢だな』
沼村と名乗った協会職員は司会。
そして武重歌ダンジョンの支部長を務める神笠と名乗った男は軽く頭を下げた。
続いて沼村は口を開く。
「そして、そして、今回のスペシャルゲストは、ご当地探索者の小雀さんです」
「初めまして~。ご当地探索者させてもらってます。小雀ひよこです。今日はお邪魔させていただいてます」
『お~』
『知らんけど、可愛い』
『駅前でこの子の曲流れてるわ』
『観光大使とかしてなかったっけ?』
小雀ひよこと名乗った少女にコメントが流れた。
「いやいや、お邪魔なんて……」
「そうですよ。沼村さんは、若いけど、私はおっさんですから、華はあった方がいい」
神笠は自虐を入れながら、そんなことを言う。
そして沼村に進行を進めるように促した。
「そんなところで、予選ももう間もなくですので大会実行委員から出ているルールの復習をしてまいります」
『視聴者側も確認した方が良いもんな』
『あーなんか出てたな』
『知らない人もいるだろうしね』
「ではでは、初めに今回の予選についての簡単なルール説明。『DH』予選では本戦と少しルールが違いますので、注意してください。まずですが、今回のイベントも主なルールとしては、ダンジョン内に湧く魔物を倒し、その魔物に対応したptを集め、競ってもらいます。そしてそのptが多い人から順位が付くと言うような形になります」
DHにおける基本ルールは単純明快。
どれだけ魔物を狩ることが出来るか。
それを競うのだ。
「ちなみにですが、協力して魔物を倒した場合には、ptが分配されます。例えば10ptの魔物を倒した場合には、貢献度の高い方には6pt、低い方には4ptが振り分けられて、1ptの魔物、または3人以上の協力によって倒された場合には、最後にとどめを刺した人にずべてのptが入ります」
『協力はそこまで推奨されてないのか』
『むしろ、ソロの方が有利』
『鉢合わせたら取り合いになるのはきついけど、タイミングを見計らっての獲物を奪うっていう選択肢もあるのか』
「そして、イベント中の探索者の皆様には、配信の許可は出ていますが、コメントを読むことはできません。ですが、視聴者の皆さんには、今から画面に出します注意事項を確認した上でコメントをしていただきたいと思います」
◆
「はい、ありがとうございました。7ブロック三回戦を制した角谷さんでした!では、インタビューも終えたところで、早速四回戦目に移りたいと思います」
『結構あっというまだったな』
『いや~凄かった』
『今までで一番倒してたんじゃないか?』
コメントはその盛り上がりを衰えさせることなく流れていく。
それを確認しながら沼村は口を開いた。
「続いては、四回戦。わたくしたちからしてみても、大分イベントの雰囲気がつかめてきましたが、どうですか二人とも」
「本当に皆さん凄いです!先ほどのラストスパートも熱くて」
「そうですね。普段から多くの探索者を見る私の立場からでも、感心するような試合でした」
小雀、神笠の順番で返答した。
時間が経つごとに小雀の調子も上がっており、神笠はフォローに徹していた。
そんな神笠を気にしたのか沼村は深く聞く。
「次は、四回戦ですけど、注目の探索者なんかいたりしますか?神笠さん」
「そうですねぇ……。ああ、一人居ますよ」
手元の端末で顔写真を眺めなら彼は言った。
それに沼村は食らいつく。
「その方とは?」
「少し前までうちのダンジョンを使ってくれていた方なんですが。最近は配信もしてらっしゃる『花火』さんですよ」
「ああ!私も配信見てますよ!花火ちゃんの」
『花火って?』
『最近ウラウとコラボしてたな』
『花火ちゃんは支部長から見ても凄いんか』
神笠の言葉に対して、スタッフが表示されていたカメラを切り替えた。
そうすれば一人の少女の視点に切り替わった。
中学生とも小学生とも言える小柄な身長、黒髪を揺らしてそこに立っていた。
そんな様子を沼村も確認しつつ、カウントを見た。
「おっと、あと10秒ですね。7.6.5.4.3.2.1、スタートです!」
そう呟いた、瞬間だった。
配信者花火を移す画面を何かが隠した。
いや、半透明のそれはしっかりと姿を捉えている。
スキルにより現れた球体。
それが、開始と同時に現れて光を発した。
「え」
小雀の声だった。
彼女がそう漏らした時には、初期地点に湧く魔物のことごとくが一掃されていた。