知らせ
「話……ですか?」
何の事だろうかと言うかのように千装さんは首を傾げる。
そんな彼女を見てフーカさんは笑みを浮かべて言う。
「千装さんは、元協会職員だよね。なら、知ってるはず」
補足するようにフーカさんの言葉に「支部ではありましたけど」なんて本人は補足をして、それでも考えるそぶりをした。
ただ、授業のように生徒が答えるなんて話ではないのだ。
すぐにフーカさんは答えを告げた。
「あるでしょ。まだ少し先だけど、ダンジョン協会主催の大型イベント『ダンジョンハント』が」
ダンジョン協会の主催と聞けば、どれだけ大きな催しであるかは想像に難くない。
先ほど帰り道でその話を聞いたときは驚いた。
「確かに、協会の催しとしては私も知っています。支部の人間も関りのあるイベントなので」
やはり知っているのか、そんな反応を示す千装さん。
そして彼女は言葉を続ける。
「ああ、だから一緒に配信を支えてくれる人間が必要だと。そういう事ですか」
「そ、そうです!イベント事態には興味があるんですけど、一人での参加となると色々と難しそうですし」
俺はそう言う。
このイベントは様々な人たちを対象にしているようではあるが、俺が参加するとなれば配信をすることは確実だろう。
そんな中で、自分で色々と調整しながらの参加は難しいと考えていた。
そしてその考えに賛同するようにフーカさんは言った。
「そうそう。配信をするとなると、参加者はあんまりいじれないから。と言うか、多分一人でってのは不可能だろうね」
不可能とまで彼女は言った。
そして、俺は改めて言う。
「だ、だから、俺と一緒にやってくれませんか?」
頭を下げる。
そうすれば、対面する彼女の靴が見えた。
そして頭上から答えが降って来た。
「……条件があります」
◆
ダンジョン協会主催大型イベント『ダンジョンハント』
その概要はダンジョンに挑み、魔物をどれだけ狩ることが出来たかを競うと言うものだ。
魔物にはそれぞれポイントが降られており、そのポイントを多く獲得することで順位が決定すると言うわけだ。
そして順位の高い者には、賞金、あるいは賞品があるとかないとか。
とにかく、そんな催しに参加をするために動いていた。
「えっと、ここがリビングで……」
そして現在その一環で、千装さんに家の間取りを案内していた。
どういうことかと言うと……
彼女が俺の提案に対して頷く条件としていくつかのものがあった。
代表的なもので言うと、給料を出すと言う事。
もちろん、生活できる程度。
いや、確実に今までの生活よりも余裕を持てるだけのお金だ。
そして、俺は頷いた。
実のところ、現在の俺の残高は結構ある。
それは、もう相当に。
何があったのかと言えば、その要因として挙げられるのは波湯ダンジョン30階層に住まう『流塊剣』によるドロップアイテムの恩恵を受けたと言う話だ。
ダンジョンにおけるドロップアイテムの最高値と言えば、実のところ『スキルオーブ』と言うものがそれにあたる。
『スキルオーブ』と言うのは、使いきりのアイテムで、その効果はスキルの取得が出来ると言うもの。
とは言っても、『スキルオーブ』すべてが高値で取引されるわけではない。
例えばだが、俺自身『スキルオーブ』と言うものを購入したことはある。
何を隠そう『身体強化』と『投擲』はスキルオーブ由来である。
人によっては、自然と探索するうち新たに覚えると言う事も珍しくはないが、スキル保有枠が少ないとそれが外れスキルで埋まれば、絶体絶命。
探索者としての活動も難しくなる。
よって、スキル保有枠が少ない場合は、先に汎用スキルで固めると言うのが常なのだ。
そして、この話からも分かる通り、スキルオーブは俺でも手の出せる値段の物も多い。
確か、俺が購入した時は『身体強化』が10万、『投擲』が3万だったはずだ。
ダンジョン関連の商品にしては相当安いだろう。
で、だが、そんな比較的安価なスキルオーブもあるのだが、ものによっては100万を超えることも珍しくない。
上で上げたスキルは汎用スキルと呼ばれるレア度の低いもの。
だが、魔物を倒した際に低確率で出るスキルオーブなどは高値で取引された。
そして、有用性があるとなれば更に買値は上がる。
で、今回俺が手に入れたスキル『流塊ノ剣』はそのレア度もさることながら、性能も高いらしい。
そして、通常買い取りが行われるところ、オークションを進められてそこに出品した結果、これが大当たりだったと言うわけだ。
なんと、3000万だ。
考えられない。
今まで俺が稼いだのは精々100万程度。
200万にも届かないのだ。
しかも、一度の買い取りでこの額と言うのはそれはもう驚くしかなかった。
だが、とにかくそんなこんなで一時の金が入ったために、俺は千装さんの条件を飲むことが出来たのだった。