話
16階層に現れた46階層で猛威を振るう魔物【遺骨拾い】。
再度それに立ち向かおうとした時、聞きなれた声と共に現れたのは一人の少女だった。
配信者フーカ。
画面越しにしか見たことがなかった彼女を始めて俺は見た。
「緊急信号を受け取り、代理として来たフーカです……って、あれ?もしかして花火ちゃんじゃない?」
「ぅえっ。知ってくれてるんですか」
状況が状況であったために、ほぼ聞き流すような形であった俺ではあったが、続いた言葉を聞き流すことは出来なかった。
その口ぶりはどうやら俺を知ってくれている様子。
その事実に少しうれしくなった。
「うん。知ってるよ。ほら、初配信もバズっていたし」
そんな風に軽く答える彼女は相手を見据えた。
「話は聞いてたけど、本当にいるとは……。ここで潰せるといいんだけど」
言葉を吐きながら彼女は構える。
そして──
◆
「たすかりました」
「いいよいいよ。気にしないで」
結果から言えば、俺は無事に地上へと帰還した。
ただ、【遺骨拾い】をフーカさんは倒しきることが出来なく、逃げられる結果となった。
まあ、俺がいたために深追い出来ないと言うこともあった。
そもそもの彼女の目的は救助のようだったから。
と、そこで何故彼女が救助と言う仕事を請け負っているのだろうかと言う話にはなるのだが。
簡単に言えば、今日は一日救助をすると言う配信をしていたらしい。
どうにも最近はダンジョン内の救助の人数が足りていないとかで、そちらに興味をもってもらうために彼女を使って実際にどんなことをするのかと言うのを配信で行っていたらしい。
とは言え、配信者をつかうということもあって、実際の物とは趣が違うようであったが。
まあ、つまり案件配信の途中で俺を助けたと言う事だった。
と、そんなこんなで俺は彼女に礼を言って別れたあと、今度はお礼を言われる立場になった。
「玉屋さん。ありがとうございました」
「あ、さっきの。いえ、別にって……たまや?」
玉屋と言えば、長年付き添ってきた俺の苗字だ。
それに対して疑問を覚えることはない。
だが、何故この人が知っている?
てっきり俺は配信で知ってくれているのだと思っていた。
しかし、そうであれば、花火と呼んでくるのが普通だろう。
そう思っていると、彼女は口を開く。
「えっと、分からないですよね。ちょっと前まで武重歌支部で働いていた千装って言うんですけど」
「ちぎら……あっ」
そこで思い出した。
そう、千装と言えば支部長が行っていた人物だ。
それに、俺が切り忘れた配信を教えてくれた人でもある。
「えっと、千装涼香さんですか」
そう訊けば彼女は頷いた。
そして俺は何と切り出そうかと考える。
一つ考えていたことがあったのだ。
彼女と一度会えたなら言おうと思っていたことが。
「えっと、配信の相談とか、機材の使い方とか、千装さんに聞きたいと思っていて」
「それくらいならいいですよ」
「お礼を兼ねて」と彼女は言う。
だが、そうではない。
俺が言いたいのはもっとこう。
「それで、えっと……」
「つまり、二人三脚で配信活動しようぜって、ことだよね」
不意に背後からした声に俺は驚きつつも後ろを見る。
そこにいたのは先ほど別れたはずのフーカさんだった。
未だ驚いている俺ではあったが、先ほどフーカさんと千装さんは出会っていることもあってか、特に気にした様子もなく口を開く。
「一緒にってことですか」
「そ。花火ちゃんどうやら、設定とか苦手見たいたし。……それに、色々考えたんだろうね。さっき私が帰ってくるまでにした話のこと」
的確に俺の考えを突いた彼女はそう言った。
そう、そして俺が千装さんを誘うに至ったのは、フーカさんの話があっての事だった。