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名持ち

感想で魔物の描写が少ないと頂いたので、今話の冒頭に入れました。

ご指摘ありがとうございました。


 兎虎は虎の頭を生やし、耳は兎特有の長いもの。

 故に、索敵能力も高い。

 二体倒す間に他の個体が寄ってくる。


 そして後ろ脚は兎の特徴が色濃く出ている。

 跳躍力もさることながら、瞬発力もずば抜けてた。


「───っ!?」


 こちらにも索敵スキルは存在する。

 だから、攻撃自体は何とか避けることは可能。

 だが、それでもギリギリの戦いだ。


 思わず出そうになる舌打ちを我慢して相手を見据える。

 明らかにこの階層で出て良いような魔物ではない。

 通常、どのダンジョンでも階層の数が同じであれば、強さにそこまで変わりがない。

 いや、ダンジョン的にはそこまで違いはないのだろう。


 なんたって、これは魔物が持つスキル的な力ではないからだ。

 既存の体に付属した器官による、聴力と脚力。

 それは結果を生み出すスキルではない。


 ふざけるなと思うほどのガバガバな設定に憤りを感じる間もなく、涼香は自身のスキルを発動する。

 使ったのは『低級魔法:土』。

 これは涼香が登録した際に最初に覚えることとなったスキルだ。

 威力は高くない。

 攻撃力には期待出来ない。


 故に、使うのは攻撃ではなく、妨害。

 足元へ小さな土を盛り上げる。

 この程度しか出来ないが、それで十分だ。

 そして、盛り上げた土に気付いた兎虎がそれを難なく飛び越えようとした時、地面を軟化させた。

 柔らかくなった地面に脚は取られる。

 そして、高低差から小さな土の壁の高さも実質二倍にまで延びる。


 これが、結果を生み出すスキルと言うものであれば、防ぐことは難しかった。

 単純な身体能力による跳躍、あるいは加速と違い、基本的にスキルはその結果をもたらすことで初速と言う概念はない。

 慣性により威力が増す前に、こうやって止めようとも、加速した結果を出されてしまえば、いともたやすく土の壁は粉砕されてしまっただろう。


 ただ、この一瞬、そんなことを考える暇はない。

 いや、相手に暇を与えることなく、こちらが仕留めなければならない。

 手を翳して氷を形成する。

 その過程を最小限にして魔物に打ち込んだ。


「───ッ!」


 射出された氷の矢は兎虎の眉間に突き刺さる。

 そうすれば光となった。


「……はぁ」


 霧散していく光の粒子を見ながら涼香は息を吐く。

 実力があれば、こんな階層であの手この手で魔物を倒さなくても良いだろう。

 だが、自分にはその力がない。

 地道に足止めをして倒していくしかないのだ。


 こうしてこんなことをすることになったのはやはり仕事を辞めたことが原因だった。

 バイトなどすぐに見つからず、日雇いのバイトも登録に時間が掛かる。

 手っ取り早く当分の金を稼ぐならこれくらいしかないだろう。

 そう思ってダンジョンに潜ったのだ。


 母からすればなんとも皮肉なものだろう。

 ダンジョンから引き離そうとした結果、ダンジョンに潜ることになるとは。


「…………っ」


 そんなことを考えていた時気付く。

 いい加減子離れしてほしいと内心思っていても、自身の頭にあったのは母が何を思うのかだった。

 こんな年にもなって母の気を引くために自身を危険にさらしてるみたいではないか。

 そう思うとなんだか馬鹿らしくなる。

 まるで親離れ出来てないのはこっちみたいに。


 いいや、この考えはやめよう。

 どちらにしたってこの現状じゃダンジョンに潜るほかないのだ。

 自身のスキルを見た時、才能がないことは分かっていた。

 だから、今の今まで自発的にダンジョンに入ったことなどなかったのだ。


 ただ、それでもほんの少しの間働いただけだけど、自分だってダンジョン協会に居た身だ。

 ダンジョンの効率的な潜り方を知っている。

 力がなくともある程度まで行けるだろう。


「よし」


 そう声に出して気合いを入れた後、足を進めた。






 ◆


 13階層突破。

 14階層突破。

 15階層突破。


 そして16階層。

 ダンジョンに潜り始めてすぐにここまで来た。

 ある意味才能。

 だが、本人からしてみれば、少しズルをしただけ。


 そんな認識を持ったまま、更に涼香は進んでいく。


 16階層における主な出現魔物は『次元掬い』。

 小型の人型魔物であり、ドジョウ掬いでもするかのような籠のような左腕を持っている。

 最大の特徴はその左腕におけるスキルの効果。

 左腕を介した空間系のスキル『低級魔法:空間』。

 その内容は、指定した他の『次元掬い』の籠の中身の配置入れ替え。

 

 簡単に言うのならば次元掬いAと次元掬いBの二体がいた場合。

 Bが遠くで籠に石を入れていたのなら、Aは戦闘時に自身の左腕にそれを取り出して投擲することも可能なのだ。


 ただ、スキルには条件があり、ある一定程度離れていればそれは使われることはない。

 そして対象と出来るのは一体だけである。

 例え次元掬いCがその場に現れたとしてもそれを警戒する必要はない。

 そして、対象変更も不可能だ。


「いた」


 涼香は物陰から二体の次元掬いを発見して様子を伺う。

 右にいるのはやや赤みがかった身体を持ち、左にいるのは青みがかっている。

 赤い方が引き出すことの可能な個体で青い方は収集しかできない。

 そして対応する二体は体についたまだら模様が一致する。


 涼香はスキルを発動する。

 未だ気付かれていない。

 狙うなら最大限まで威力を高めてからだろう。


「よし」


 自身のスキルの発動具合を確認して赤い方に腕を向けた。

 スキルの真価を発揮できるのは赤い個体だけ。

 ならそちらを狙うのは当然だろう。


 氷は射出されて、赤い個体に突き刺さる。

 消滅には至らないが、痛手は負わせた。

 すぐに涼香は接近する。


 地面を蹴ると同時に相手を見据える。

 彼方も、攻撃を仕掛けて来た。

 青が転送した石を赤が投擲。

 それを涼香が防ぐ隙に、青が回り込んでくる。


 スキルで氷を作り、攻撃を躱して青と距離を取って赤にもう一度スキルを打ち込んだ。


「───ッ!?」


 スキルは命中し、赤は驚いたような顔のまま光と化す。

 そして残るは青だけ。

 収集機能しか有していなければ、只の魔物だ。

 すぐに狙いを定めた。


 だが。


 後方から迫る足音に涼香は飛びのいた。

 探知系のスキルである『気配察知』は目を瞑る必要がある。

 故に、本来の察知能力だけで何とか身を転がした。


 そしてその判断を正解だと言うかのように先ほどまでいた場所には炎弾が撃ち込まれた。


「あっつ」


 肌を焼くような熱風を受けてそう漏らす。

 だが、それに対して不服の感情を表情に出そうとして、表情は驚愕に染まった。


「なん、で」


 思わず漏れる言葉も、途切れてしまう。

 これを知っていたのは偶々だ。

 先日までダンジョン支部にて職員をしていたから。

 そしてその時、資料で見かけたから。

 そんなことに過ぎなかった。


 そう確か、これを見たのは先輩たちが4()6()()()()()()()()()()()の話をしていた時だった。

 その時に話題に上がっていた魔物こそ、今目の前に立ちはだかる赤い狼。

 類似した狼と言う特徴を持つ魔物なら自身が勤めていた教習ダンジョンにも出現する。

 軍猟精霊という魔物だ。

 だが、それとは趣が違う。


 形容するなら赤い狼で間違ってはいない。

 だが、おおよそ自然界にいるような形はしていなかった。

 発達した筋肉を毛皮で隠して、更にその身体に纏うように骨をつけていた。

 何かの頭蓋を被り、何かの骨で鎧のように体に纏う。


 不気味な存在。

 特殊変異的な個体と言うわけではない。

 だが、魔物の中でも抜きんでた力を持つ賞金首(ネームド)と呼ばれる存在。

 異様に強く、被害をもたらす魔物であり、協会が賞金を出してでも討伐対象に指定するもの。


 目の前の骨を纏う赤い狼はそんな魔物の一体だった。


 魔物名『赤牙』。

 そして名付けられた固有名は【遺骨拾い】。

 倒した魔物の骨をその身にまとう姿から名付けられた。


 そして46階層にて猛威を振るう魔物であり、どう考えても涼香が倒せる相手ではない。

 46に脚を伸ばす探索者でも対処が出来ない魔物である。


 だが、ここは16階層だ。

 なぜこんなものがここにいる。

 そんな疑問を解消すべくあたりを見渡し、一つの答えを見つけるにまで至る。

 そして、見つけた。

 次元掬いと類似した特徴を持つ魔物だ。

 その名を『超次元掬い』。

 左腕ではなく右腕が発達したソレは、魔物を転移させる。

 故に、この結果を生み出すに至ったのだろう。


 涼香はそんなことを考えながらも、骨を纏う狼からは目を離さない。

 動けば殺される。

 だが、逃げなければどちらにしても殺されるだろう。

 今できるのは、相手から目を離さないことくらいだった。

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