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 俺はどうなったか。

 そう問われることがあるのなら、どうにもならなかったとしか答えようがない。

 結果としてあの時俺のスキルによって誰一人外傷を負うことはなかった。


 導火線には火はついた。

 爆発的なこともした。

 だけど威力はなかった。


 結果としてそう言う事だった。


 俺はそれに驚いてショックで気絶した間抜けな奴だっただけだ。

 周りからすれば、普段ボッチでよくわからん奴がいきなり倒れただけだろう。


 だが、ここで終わればちょっとした黒歴史で済んだかもしれない。

 でも、まだ事態は続いていた。


 俺が倒れた際に近くにいた探索者の人がポーションをくれたと言う。

 もし何かあったらまずいからと。

 そして、俺は意識が曖昧な中でそれを飲まされたのだ。


 だが、それはポーションではなかった。

 ガイドをしていたその道のプロとも呼べる人間であるスタッフの人が飲ませる前に安全かどうかの確認をした。

 スタッフはポーションを備え付けていたが、通りすがりの探索者がくれたものの方が上等なものだったからこそ、そちらを使うことを判断したと言う。

 だが、善意によってもたらされたものでも、何かが混入している可能性はあった。

 だから、十分に確認した上でそれを飲ませた。


 費用はすべてダンジョン協会もちで申請するつもりだったらしい。

 命第一で救命に動いてくれたのだと言う。


 だが、結果として俺は高熱を出した。


 そして飲ませてからそのポーションを確認してみれば、偽装されたものだった。

 スキルによる偽装だ。

 それも、ユニークと推測される。

 本来の一般的なスキルであれば、偽装した際の僅かな痕跡から見破ることが可能だと言う。

 だが、ユニークスキルであれば話が変わった。


 そして更に残念なことにそのポーションをもらたした人物もそのことを知らなかった。

 どうやって手に入れたかと言ったことは未だ取り調べ中であるらしいが、その人物のスキルには該当するユニークスキルは存在していなかった。


 俺は協会支部にいた救護班に診察されるも直ぐに解決にはつながらず、病院に運ばれたと言う。

 そして、つい先ほど目覚めた。

 身体に異常はなく、いたって健康な体らしい。


「え、えと。玉屋さんのお部屋で間違ってないでしょうか」


 だが、態々お見舞いに来てくれたあの時のガイドスタッフの人は言葉を詰まらせた。

 何故かって?

 俺の姿形、いや、性別までも変わってしまったからだ。


 俺は、丁重に尋ねて来たスタッフの人を帰らせたあと考える。

 正直俺がスキルを勝手に使ったことが発端だし、相手に全くの非はない。

 俺が倒れた後の行動だって、緊急時だと言うのにしっかりと偽装の可能性も疑っていたようだし。

 むしろ俺が申し訳ないと謝ってかえってもらった。


 そして、考えると言ったが、何を考えるかと言えば、まあ、どう考えても俺の身体に起きた異変についてだ。

 端的に言えば、女体化。

 身長は縮み、まるで全くの別人へと変わってしまったかのようだ。

 ちなみにあまり語りたくはないが、縮んた分の身長は代謝として俺の体外へと出た。

 激痛と高熱と共に、体の至る所からよくわからない液体を噴き出していたらしい。

 最悪な状況ではあるが、唯一の救いは、あまりの激痛にそこまで意識がなかったことだろう。

 

 まあ、とにかくそんなこんなで女体化をしてしまった俺ではあるが、実のところ別にそこまで悪くもないのではないかと思っていたりもする。

 鏡を見れば、黒髪美少女が映る。

 社会的にどうなるかを考えればちょっと不安も多いけど、まあ、悪くない様な。


 そしてしばらく、お見舞いと言うか、退院の手続きと言うか。

 まあ、とにかく俺を迎えに来た人物が居た。


「元気、アシ君。いや、アシちゃん?」

「いいよ。今まで通りで、おばさん」


 おばさん、つまるところ、俺の母親の妹に当たる人物である。

 俺の両親はもういなく彼女が保護者替わりをしてくれている。


「昔みたいにヒナお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだけど。私まだまだ若いんだから」


 そんなことを呟くが、「まあ、それより」と続けた。


「帰ろっか」

「そだね」





 ◆


 結局のところ色々とあったが、俺は高校を卒業間近にして退学した。

 この身体での登校をして注目を集めるのは少し嫌だったのだ。

 だからと言って、高卒資格を取り逃すのかと思われるかもしれないが、頑張って高卒認定を取ろうと思う。


 そして学校を行かなくなったことによって、俺は大分時間が出来たこともあってダンジョンに行ってみることにした。

 バイトはどうしてもしたくないから、あわよくばダンジョンでお小遣いでも稼げればいいかな、なんて思った。

 普段はおばさんが家に帰ってこないこともあって、ほぼ一人暮らしに近い俺は誰に行ってきますを言うでもなく家を出た。


 おばさんは、普段海外で働いているからか年に数回しか会うことはない。

 それなのに俺が病院にいると聞きつけて迎えに来て来させてしまったのは申し訳なかった。

 一応一時帰国をしていたようだが、元々こちらに帰ってくる予定はなかったはずだから、手間を取らせてしまったことには変わりがない。


 電車を乗り継いでダンジョンへと足を進める。

 建物に入ると新規登録窓口があり、その奥に改札があった。


『カードをかざしてください』


 案内表示を見て俺はダンジョンカードを改札にかざす。

 前回大勢で来たときは、改札を一気に通ったためにカードを使って入ると言う動作がなかった。

 駅とも然程変わらないので新鮮味もないのだが。

 まあ、体の変化によっての視界の変わりようは新鮮味と言えるかもしれない。

 とは言え、体格と骨格がまるっきり変わっても何故かスムーズに体を動かせるのでその点に関しては問題は特にない。


 改札を通ると正面にカウンターが見える。

 あれが探索者が主に使う窓口なのだろう。

 俺は受付に言って手続きをする。


「そちらの機器にカードをかざしてください」


 言われた通りにダンジョンカードを取り出しタッチする。

 そうすれば彼方の方に俺の情報が開示されたのかモニターを見て受付の人が口を開く。

 

「学校登録プランを使っての登録で、今回が初回ですね」

「はい」


 プラン。

 つまるところ集団で登録した際のガイド付きのプランの話だろう。

 そんなことを思っているとまた受付の人は口を開く。


「今回は、初回と言う事で二階層までの入場券を付与いたします。実力が認められれば、更に下の階層への入場許可が下りますが、それなしに入場した場合、罰金、ダンジョン探索資格の剥奪と言う処置がとられますので承知しておいてください」


 俺は頷く。

 当たり前と言えば当たり前ではあるが、実力が伴わなければ下の階層に進むのは危険だ。

 そう言ったことによる被害を減らすための処置なのだろう。

 そして俺が考える中、「それと」と受付の人は続けた。


「装備の方をお持ちでないなら、こちらでレンタル出来ますがどういたしますか?」

「レンタル?」


 その言葉に俺は首を傾げる。

 はらりと視界に細く長い見慣れない黒髪が映って、そう言えば女体化に伴って髪も伸びていたなと思う。

 髪を耳に掛けて話を聞く。


「はい。装備自体、初心者探索者さんには高額に感じるものが多く。そうした方はレンタルしている装備をお使いになります。過度な損傷、破損をした場合には、追加料金を取られてしまいますが、この「あんしんプラン」を使っていただくとそれらが無料になります」


 カウンターに設置、と言うか、カウンター部分に埋め込まれた液晶を指さしてそう言った。

 液晶画面には先ほどの話が分かりやすく乗っており、「あんしんプラン」なるものの料金を書かれている。

 大体二万円しないくらいか。

 そして、俺がそれを眺めていると受付の人が電卓を操作する。


「もしですが、仮にレンタルした場合、「あんしんプラン」もお付けしますとこの金額になります」


 こんなハイテクカウンターの後に電卓かよと思いながらそれを見れば、まあ妥当な値段が表示されていた。

 あまり詳しくないが、ここに来る前に少し覗いてみたサイトでは、安い装備でも三十万くらい。

 それを考えれば、良心的な価格ではあるのだろう。

 そして俺は悩んだ末に頷いた。


「じゃあ、それで」

「わかりました。でしたら、こちらが請求書になりますので、本日からのお支払いが可能となります。振り込む場合はこちらの日付までに、そして現金でお持ちいただければこのカウンターでもご対応できます」

「わかりました」


 そんな会話をしてもっと細かな諸々を聞いた。

 装備のレンタルの貸し出し場所とか云々。


「では、これより探索を開始してもらって構いません。次回からの入場手続きは、こちらの窓口か、彼方の機械を使ってください」


 手で促される方を見れば、電車や新幹線の券売機のようなものがずらりと並んでいた。


「それと、買い取りに関してですが、機械でも可能ですが、それですと手続き完了が翌日からとなりますのでご注意ください。窓口であればその場で換金いたします」

「わかりました」


 思ったより長かった受付を経て俺はレンタル装備の受け取りに言った。

 お札を入れる穴かめっちゃデカくなったATMみたいな機械にダンジョンカードをかざせば、その穴からレンタル装備が出て来た。

 それをもって更衣室に行って着替えれば準備が完了である。


 ちなみに、今の身体で男の更衣室に入ることはできないが、女性更衣室に入るのもはばかられた俺であったが、性別不問の個室タイプの更衣室があったのでそこを使った。

 それと俺が性転換をして扱いがどうなっているかと言う話はあるのだが、一応ダンジョン内においては女性と言う事になっている。

 俺が女体化したのはもちろん彼方側も知っているのですぐに対応をしてもらった。


 全くと言って彼方は悪くないのだが、それでも体面上非があると考えたのか迅速に対応をしてくれた。

 だからこそ、先ほど受付で俺の情報を見られても何もなかったのだ。

 それと、俺にポーションを飲ませて助けようとした人は支部内で責められていない様なので良かった。

 むしろ、俺が他の協会支部の人の前でもお礼を言ったからか、特に何かを気にすることなく迅速な対応を褒めることが出来たと言う。

 まあ、つっても事故とは言え、厳重注意的なことはあったようだが。


 なんで、ここまで詳しいかと言えば、この対応で良いかと協会側から問われたからだ。

 一応被害者と言う立場である以上、俺の意思が一番に優先されるようだ。

 

 まあ、それは置いておいて、


「いくか」


 一人呟いて、俺はダンジョンへと足を進めた。







 ◆


 俺はレンタル装備に含まれたナイフを持って歩く。

 まだ一階層。

 だが、俺は初心者である。

 危険ではないとわかりつつも念のため警戒をして動いた。


「……いた」


 俺は声を洩らす。

 小さい声で誰かに気付かれることはない。

 まあ、そもそも、一階層はスルーが基本なのでこの場に人はいなかった。


 だが、人以外が俺の視界にはしっかりと収まっていた。

 数え蟲だ。

 見た目はメタリックな蟻。


 手のひらサイズの蟻だ。

 そう思って無意識に自分の手と見比べて、今の俺の手よりはデカいななんて思う。

 だが、蟻を観察しに来たわけではないのだ。

 俺は地面を蹴った。


 突き刺すようにナイフを振りかぶる。

 

「っ!?」


 外した。

 的が小さい上に虫特有のすばしっこさがある。

 正直やりづらい。

 だが、ここで手こずっていればこの下では通用しないだろう。


 俺は股の下を抜けて言った数え蟲を身体を翻して反転するように足を移動させる。

 そして視界に抑え次こそはとどめを刺そうと思っ───


 ───グシャっ


「え?」


 足の裏に変な感触を感じて動きを止めた。

 恐る恐る靴の裏を見れば、潰れた数え蟲が張り付いていた。


 俺が呆けている間に数え蟲は光の粒子になって霧散する。

 俺は我に返って一言呟いた。


「下行くか」






 ◆


 今更だが一つスキルについて考えていたことがある。

『ばくだん!』とかいうふざけた名前のスキルではあるものの、それなりに有用性はあるのではないだろうかと思ったのだ。

 俺は女体化直前にダンジョンにてスキルを暴発させてしまった。

 その時、威力はなかった。


 だが、本当に攻撃に使えないのだろうかと思ったのだ。

 いや、別にこれを工夫して上手く使おうなんて話ではない。

 ただ、あの時俺は威力がなくなるように念じていたのだ。


 だから、それがスキルへと伝わって外傷を負わなかったのかと考えたのだ。

 まあ、考えるよりも試した方が良いだろう。


「あれでいいか」


 俺は丁度目の前に現れた藁結蛇を見てそう言った。

 スキルで爆弾を手に出してポイっと投げる。

 コントロールが悪すぎてズレたが、幸運なことに藁結蛇がそれを敵だと認識したのか近づいた。

 その隙に俺は爆発をさせる。


 あの時は外部の炎によって導火線に火が付いた。

 だが、本来のスキルとして考えれば、そんな不自由な力である可能性は低かった。

 そして俺もなんとなく察していた。


 俺が念じれば、それにこたえるようにそれは爆発した。

 破裂音があたりに鳴り響き、俺は藁結蛇がどうなったのかを確認した。

 そこには力尽きたのか、光の粒子へと身体が変換されて空気中へと分解されていく藁結蛇がいた。


「成功か。……ん?」


 自分のスキルに攻撃能力があることを確認した俺の視界に何かが映った。


「これは、藁か?」


 ドロップアイテムとでも言えばいいのか、光の粒子と化した身体から出てきたのは藁だった。

 いらねぇとは思いつつ、一応拾っておくことにした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] こちらが『領収書』になりますので、本日からのお支払いが可能となります 契約書だと思います。あるいは請求書
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