『夜鍵堂』武重歌店
波湯ダンジョンにてナイフが砕けた俺は羊毛を換金したお金を握りしめて『夜鍵堂』の建物へと出向いていた。
まあ、正確な話をするのなら『D-NET』と連携した銀行口座からのお金を利用するので、現金を持ってきているわけではないのだが。
更に『D-NET』の電子決済は結構優秀なことや、『夜鍵堂』においては提携していると言うこともあって、お得に買い物が出来るようなので態々大金を持ち歩くなどと言った危険な行為はしなくてよかった。
そんなこんなで入店したのは『夜鍵堂』武重歌店。
色々と準備をした後、そこで俺は口を開いた。
「と言う事で、今回は『夜鍵堂』に来ました!」
『お、始まった』
『店内初めて見たわ』
『ちゃんと買いに来て安心した』
そして当然配信をしている。
こんなことでもなければ、店内で話すことなど出来ない。
鉄の心臓など持たないどころか、硝子かどうかも怪しい俺では無理だろう。
まあ、人の迷惑を考えれば配信などしていなければ、普段から大声を出す必要などないんだけど。
「で、今回は配信の許可をもらってやってます。『夜鍵堂』では、配信者用のスペースと予約すれば貸し切りのような状態でお買い物が出来るらしいので今回はそれを使ってみました」
『そんなんあるんか』
『他の配信者の人が貸し切りでやってたのはこういう理屈だったんだ』
『ちゃんと予約入れれたんだ』
『花火ちゃんが忘れずに予約を……』
俺を何だと思ってるんだ。
俺だって予約ぐらい取れる。
いや、正直忘れてたけど結果的に取れたし。
当日予約で行けたし。
と言うか、今回に限っては忘れるなんてことは出来なかった。
何故ならば、こういう専門店みたいなところ怖いから今回みたいに配信じゃないと来れない。
楽器屋とかそう言う専門的なお店ってなんだかしり込みしてしまうし。
とかいう理由があって、そして二つ目の理由。
俺がここで配信しようと思ったのは、一つのある存在があるからだ。
それは。
[いらっしゃいませ]
こいつだ。
タブレットを頭上につけて地面を滑ってくるロボットを俺は見た。
『あー、そう言えば店員いないんだっけか』
『配信の予約と申請をしとけば、店員外せる』
『配信ってこと考えると合理的か』
「そうです。配信なので」
と言うか、普通に店員と話したくないし。
なんて思いながら俺はタブレットを見た。
『商品案内モード』なる項目を何気なくタップする。
[商品案内ですね。お探しの商品の特徴を教えてください]
「お~」
『こうやって案内も出来るのか』
『凄いけど、これ系は稀に見るからとくに新鮮味も』
『まあ、ファミレスとかにあるのの凄いバージョンにしか見えんし』
「え、ファミレスってロボットいるんですか?」
凄い。
俺の知らぬ間に世はロボットと共存するまでになっていたのか。
いやまあ、ファミレスなんて言ったことないから俺の知っていた時期などないのだが。
まあ、いいや。
それより商品の特徴とやらを俺がロボットに教えてあげよう。
「えっと、ナイフとか短剣とかそこら辺を見たいです」
[かしこまりました。検索いたします。…………検索結果103件。更に絞りこみますか?]
「えっとじゃあ」
そんな感じで俺は最終的に、予算内で買うことが出来ると言う条件を筆頭に戦闘スタイルまでロボットに教えた。
[…………検索結果7件。案内を開始いたしますか?]
「はい」
[では、ご案内いたします]
『おー実際に見せてくれるのか』
『まあ、命が掛かってるし試しに使わせてもらうことくらい出来ないとね』
『やけにスムーズだと思ったけどダンジョン産のパーツ入れてんのか』
ロボットに俺は続くようにして移動した。
[一つ目はこちらです。『夜鍵堂』のライト層向けのシリーズ「Air」から「Air-6」。最大の特徴は軽量化されたボディにあります]
「なるほど」
『ああ、無難な感じ』
『低層ならいいかも』
『花火ちゃんの戦い方を考えると攻撃を受け止めなきゃだし』
コメント欄も見ながら吟味する。
軽いナイフと言うのは魅力的ではあるが、魔物の攻撃をいなすなら耐久力も必要になる。
そう思いつつ口を開く。
「うーん。次」
[続いて「アビスG」です。対魔物を想定し、攻撃を受け止めることに特化した短剣になります]
今度は短剣。
剣と言うより鈍器と表現できるだろう角のあるフォルム。
説明されたように魔物の攻撃を受け止めるのには適しているだろう。
『頑丈そうではある』
『花火ちゃんとはあわなそう』
『多分直剣と二刀で使う方が適してそう』
「次」
[玄人向けブランド「鳴ru」から「コンバッドナイフカスタム」──]
◆
そんなこんなで悩むこと少し。
最後の武器を紹介された。
[最後になります。『夜鍵堂』最新モデル「牛規」です]
目の前に出されたのはナイフと比べれば少し長い直刀。
試しに持ってみれば手に馴染んだ。
『おお、カッコいい』
『スタイルに合うのかって話ではあるけど……花火ちゃんは気に行ってるっぽい』
『牛規って書くのか』
「これが第一候補な気がする」
俺は牛規を見てそう呟いた。