砕ける
「これは……」
「『流塊剣』。金属のような体を持つ大型の魔物」
横に立つウラウさんはそう解説する。
だが、大型の魔物なんていう大きさではない。
『建物にしか見えん』
『ビルかな?』
『大きさは戦闘に応じて変わるけど、大体15mくらい』
『ガ〇ダムかよ』
『どっちかって言うとF91』
『それはガ〇ダムじぇねえだろ』
まるでビルだ。
金属で出来た体はうごめき、内部から突き刺すようにして生えるそれはまるで剣。
針山のように突き出す剣は怪しく光った。
そして、
「来るよ!」
ウラウさんが警告すれば、俺たちが先ほどいた場所には柄のない剣が突き刺さる。
だが、それに振り向くことなく俺は接近した。
「──ッ!」
先ほどと同じように射出されるのは、体中から生える剣。
それをナイフでいなして、進行方向をわずかに逸らす。
後方で剣が地面に突き刺さるも、二撃目が来る。
それをスライディングでもするかのようにしてくぐり避ける。
そうすれば、本体は目の前。
液体金属に固形の金属を埋めたような奇怪な身体を見上げた。
だが、そこで何もせずに接近させてもらえるほど、甘くはない。
案の定剣が俺を狙って飛んできた。
だが、今回はそれを活用させてもらう。
飛んできた剣の数は即座に数えられるほどではない。
だが、俺と流塊剣との直線状には五本だけ。
俺は、跳躍して一番近くにあった剣にナイフを叩きつけた。
そしてその勢いをそのままに次の剣へと跳躍する。
『とんだぁ!』
『は?』
『あのナイフ強度高いなぁ』
『いや、打ち付けた反動だけじゃ説明つかないだろ』
先ほど一瞬確認した時、剣の向きが縦ではなく横であったのは確認している。
故に、俺は剣の腹へと足を延ばした。
更に身体強化によって増幅された蹴りによって、慣性をそのままに次へと向かう。
これを数度繰り返す。
高速戦闘故に、この間数秒。
そのわずかな時間で、相手の懐へと忍び込む。
とは言っても、随分と広い懐だ。
防御をするために腕などあれば、相応の大きさになるだろう。
流動系のそれは重力を無視した滝でも作るかのように、侵入したばい菌を押し流そうと金属の液体で押し流さんとした。
真横からの物量攻撃に俺はなす術がない。
だが、俺だってソロで来ているわけではないのだ。
当然対処できると踏んでいた。
「ウラウさん!」
「はいは~い。いますよっと!」
なんとも虫でも払いのけるように、金属の濁流を彼女は斬る。
そしてそのまま俺は何に阻まれることなく刃を突き付けた。
ビルのような巨体、そして俺のナイフの攻撃力を考えれば、当然その手段は限られる。
故に使用するのは『ばくだん!』による攻撃。
投擲スキルを使用し、生成した爆弾を俺は投げた。
それは寸分たがわず流動的に流れる身体に溶け込むようにして入っていった。
そしてそれを排徐しようとする液体金属はもごもごと動いた。
だが、それより早く起爆する。
「─────!?」
ドボっと音を立てて金属が破裂する。
埋まるように流れていた固形のそれらの一部が地面に落ちた。
そしてむき出しになるのは、赤く光る宝石のような大きな球体。
それが弱点とでもいうかのようにそれを隠さんと再生を始めた。
「させない」
俺はそれを阻止すべくもう一度接近した。
それに追随するようにしてウラウさんも地面を蹴る。
そして先ほどの要領でもう一度接近した。
だが、
『青くなった』
『不味くね?』
『レアか』
俺の視界に映るその赤い球体は、青へと色を変える。
それが何を表すか俺は知らなかった。
だが、それがただの喜怒哀楽を表す何かだとか、残りの体力に応じて色が変わるだとか、そんな物には思えなかった。
だから、その瞬間、俺は『ばくだん!』を生成してその爆風で身体を吹っ飛ばした。
自身にダメージを与えないように極力力を抑えるように念じて起爆した。
だが、自身を吹っ飛ばすと言うのであれば、全くのダメージを受けずしてそれが行えるわけがない。
爆弾による直接的な威力ではなく、あくまで爆風ではあったが、確実にそれを体へ受けて俺はその場を脱した。
そして次の瞬間には、その判断は間違ってないのだと確信した。
自身のスキルで多少の痛みを負うくらいは何でもない。
そう言えるほどの光景がそこにはあった。
もしかしたら『身体強化』の中に視力の向上が含まれていなければ理解できるほど捉えることは出来なかったかもしれない。
だが、それでも俺の目には散々流塊剣がばら撒いた柄のない剣があの青く光る球体に吸い込まれるようにして戻っていくのが見えた。
つまり、あのままあそこに居れば、俺はあの無数の帰省する剣によって八つ裂きになっていただろう。
「ぐ」
想像するだけで声を洩らしながらも、俺は次の行動を考えた。
ただ、そんな余裕はなかった。
今度は球体が黄色に光った。
そして一秒も明けることなく、むき出しになったその球体が脈動し、金属の身体が光ると無数の剣が全方向へ飛び出した。
地面に立とうが、今の俺のように空中に居ようが避けられない。
この空間には逃げ場などなく、何もしなければ同じ運命をたどるだろう。
だが、そうはならない。
対抗するためのナイフはあって、ウラウさんは無論防げるだろう。
そして俺はナイフを振るった。
◆
結果から言えば、30階層攻略は途中で中断されることになった。
理由は武器の欠損。
俺のナイフが砕けた時点で早々にウラウさんは撤退を決めて俺を転移陣へ送った。
「いや、しっかり聞いとけばよかった。ナイフが良くないって言っても少なくとも戦闘用のだと思ってたから……」
「ごめんなさい」
『普通によくない』
『危ないしなぁ』
『盾みたいな使い方だったから見逃されてただけで、それが壊れるとなれば流石にって感じ』
俺が頑なに夜鍵堂のナイフだとごり押してたから黙っていてくれたけど、壊れれば流石によくない。
命をかけているのだと怒られた。
まあ、確かにお金がないと言っても、同じものの予備くらいは備えておけばよかった。
と言う事で翌日、反省した俺は20階層で得た羊毛を換金したお金で武器を揃えることにした。
「す、すごい。大金だ」
スマホで通帳を開き、振り込まれた額面に驚く。
30万の防具は買えないけど、ナイフくらいいいものを見繕えるだろう。
そんなことを思いつつ俺は『夜鍵堂』の建物を目指した。