ボス
感想でご指摘いただいたので二話の「領収書」の部分を請求書に修正しました。ご指摘ありがとうございました。
僕の社会経験のなさが露見しましたが、このようなミス等ありましたら遠慮なくご報告いただけると嬉しいです。
それと短いです。
ナイフを振るい攻撃をいなす。
対面する金属のような体をもつ巨体は進行方向をわずかに逸らされて俺を通り過ぎる。
すれ違い様に『ばくだん!』で生成した爆弾を放りこんで爆破をした。
ただ、相手は一体ではない。
「───!!」
金属の塊は唸り、俺の背面から攻撃を仕掛けて来た。
その対処に一瞬遅れた。
気付いていても、分かっていても、体が追い付かなければ意味がない。
そして何に阻まれることなく、その質量でそれは俺を押しつぶさんとして──
青の少女が持つ、銀の一太刀に阻まれた。
「っと、させないよ」
その細い金属の棒はいともたやすく魔物をはじいた。
そして相手が怯んだのを少女は見逃さなかった。
目つきを変えて、姿勢を変えて、雰囲気が変わる。
腰を落とし、剣は鞘へ。
その構えはまさしく抜刀。
溜められた一撃は金属の魔物へと放たれた。
「───っ!?」
まるでコンクリートに囲まれたトンネルで音が反響して響いたような独特の断末魔を上げてそれは両断される。
そして光に変わるのを見届けたあと、青の少女──ウラウさんはこちらに振り向いた。
「あ、ごめん。倒しちゃった。今日は花火ちゃんの補助に回るつもりだったんだけど」
やってしまったとばかりに呟く少女はやはり、先ほどまでと同一人物であるかを疑うほどである。
戦闘時と素の状態のギャップにも慣れて来たものの、未だにその変わり様には驚くばかりだ。
「いや、良いですよ。助けられたようなものですし。防いでもらわなかったら、結構ギリギリで回避することになったでしょうし」
『そそ』
『むしろ助けてくれたんだしな』
『いや、ギリギリで避けれんのかよ』
『花火ちゃんも大概だな』
現在俺とウラウさんの即席パーティは、29階層にまで到達していた。
大進撃と言えるほどの進みの速さは、やはりウラウさん有っての事だろう。
ウラウさんとそんな風に話しながら俺たちは先に進んだ。
「でも、やっぱり私は早くナイフを買い替えた方が良いと思うけどなぁ」
そして先輩探索者であるウラウさんはこうやって道中アドバイスをしてくれる。
『やっぱ、そうだよね』
『言ってくれた』
『未だに普通のナイフでここまで潜ってるのが信じられん』
ただ、今回は戦闘方法と言うよりは、装備について。
いや、これに関しては戦闘が行われるたびに言われている。
「わかってはいるんですけどね。まあ、お金も入ったので買えればいいなとは思っています」
「今すぐに上に行って買ってくるべきだけど、花火ちゃんは通用しているだけになぁ」
「他の人なら引きずってでも買わせるんだけど」と彼女は言う。
それになんだか俺ならと言われているようで酷いと言えば、そもそも『ばくだん!』の設置方法から本当なら止めたいところだと言われた。
確かに結構ギリギリを攻めたそのスタイルは安全とは言い難い。
とは言え、俺だって一年間研鑽を積んだうえでの今のスタイルだ。
変えろと言われても変える気はない。
「って、ついたね。三十階層」
歩いて次の階層へと足を進めた時、ウラウさんは言った。
そしてここで彼女が態々口に出したのには理由があったらしくその意味を教えてくれた。
ここ波湯ダンジョンの一番の特徴はお金を稼ぎやすいと言うものだ。
そしてニ十階層では実入りのいい羊が多く湧いていた。
なら、同じく節目であるここも何かあってもおかしくはない。
とは言っても、俺としては十階層は特に変わった層ではなかったために、そのようなことがあるのならニ十階層刻みで、次は四十層あたりだと思っていたのだが。
まあ、とは言え、事実としてこの三十層と言うのは特別らしい。
「まあ、なんていうか、端的に言えば、ボス戦って感じかな」
「ボス戦?」
俺はウラウさんの言葉を聞き返した。
ボス戦と言う意味が全く理解が出来なかったわけではない。
だが、ことフィクション以外の現実におけるダンジョンにおいてはそう言った類の話を聞いたことはなかった。
無論俺はここ一年そんな物には遭遇していない。
とは言え、俺が言葉をそのままに飲み込んでいたのを見かねてか彼女は言った。
「ボス戦、と言っても言葉の綾だよ」
ただ、そう言うにふさわしいものであるとも彼女は言った。
そして気を取り直すようにして「行こうか」なんて呟く彼女に俺は追随した。
◆
『確かにこれはボスって感じ』
『やっぱ三十ってどこもこんな感じなんだな』
『ここが実力が大きく分かれる階層と言ってもいい』
コメントが流れる。
だが、それに俺は注意がいなかった。
目の前の魔物が放つ威圧感に、コメントを見るほどの余裕はなかったのだ。
「あれが、ボス」
俺が見据える先には、巨大な鉄の魔物がいた。