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結果は

毎回言うの忘れるんですが、誤字報告等々ありがとうございます。大変助かってます。


 最後の一撃。

 『ばくだん!』を使用しての強引な真横への腕の振りの再現。

 その時、俺は真上にナイフを飛ばした。

 『投擲』による補助により、腕を振るために使った爆弾の風圧も考慮して真上に打ちあがるように調整した。

 素の俺の力では無理だが、スキルであるがゆえの結果を拾う能力。

 自由落下によるウラウさんの肩と言う被弾位置を設定しての投擲だった。

 俺が干渉できるのは結果的に投擲によって狙う目標物の設定だけ、その他はまるで計算でもするかのようにアシストが入った。

 そこまで行けばあの極限状態でのそれは可能だった。


 唯一、賭けと呼べる部分があるのならば、それは相対するウラウさんの攻撃のタイミングだった。

 そもそも投擲した瞬間に予想された最善の結果は引き分け。

 勝利ではなく、どこまでうまく行っても引き分けであった。

 それ故に、少しのことで負けへと転じることは明白だった。

 だから、俺は最後は願った。

 俺のナイフが彼女の肩口に触れるのと、彼女の刀が俺を一閃するのが同時であればと。


 そして、その結果は、ドローンに内蔵されたシステムによって示されることとなった。


DRAW(引き分け)


「ふぅ」


 結果が出て初めて息を吐いた。

 緊張と言うかなんというか。

 張り詰めていたものがなくなったような。


 と言うか、ジャッジ的には引き分けだが、実際の戦闘においては完全な負け。

 斬って傷を与えて、相手に一撃を入れるなんて言う条件であったら、万が一にも俺は彼女に引き分けることなど出来なかった。

 今回引き分けに持ち込めたのは、インクを相手につけると言うルールであったからだ。

 だから、触れさえすればよかった。

 そもそも初めからその前提で動いたのだから。


 でも、もしここまでして引き分けにならなかったと思うと立つ瀬がない。

 それだけに、もし負けていたらと酷く緊張していた。

 不意にコメント欄を見る。

 当たり前だが戦闘中は見れなかった。

 勝手に満足しているが綺麗なやり方ではない。

 第三者からすればどう見えているのか気になったのだ。


『引き分け!?』

『ハンデありとは言えすげぇよ』

『ウラウも惜しかったけどなぁ』

『普通にやったらウラウの勝ちだけど、ルール的には花火さんは間違ってないし。むしろウラウから引き分けたのは凄い』

『花火ちゃん強い!』


 思ったよりも否定的な意見は見当たらず、取りあえず胸を撫で下ろした。

 ペタンコだから下ろす胸がないとかくだらないことを思ったが、忘れることにした。

 そんなこんなで地面に腰を落ち着けていると不意に横からの衝撃を受けた。


「凄い!凄いよ!」


 ウラウさんであった。

 飛び込むように俺の身体に抱き着いてそう言った。

 元の身体だったらと一瞬焦ったものの、そう言えば俺は女体化している。

 絵面的にも社会的にもそこまで気にすることもないだろう。

 男の身体だったら、痴漢と言われれば問答無用で掴まりそうだし。

 まあ、彼女はそんなことをするような人でもないし、第一配信をしているため、そんな心配はいらないか。


 と、現実逃避をしているのは、やはり女性経験が皆無だからだろう。

 身体に当たる感触にいろいろ思いつつも、出来るだけ変なことを考えないように努めていた。


 そして俺が抱き着く彼女から解放されるのは数分後のことであった。






 ◆


「それにしても凄かったよ」

「いえ。あのルールだから勝ったみたいなところはありますし」


 ウラウさんは褒めてくれるが、俺はそう言った。

 別に謙遜ではなく事実である。

 

 それに今回の決闘で明確に俺と高実力者であるウラウさんの間にある実力差が分かった。

 俺と彼女の間にある決定的な違いはやはり、単純な力の差。

 スキル、そして強化を含む身体能力によるステータスの差。

 俺は自分自身の攻撃力や手数の足りなさを色々と補う工夫はしているが、それで縮まらない差がある。


 それをどうやって補うかが今後の課題だろう。

 俺の持つ魔物への直接的な攻撃力は『ばくだん!』だけと言っていい。

 ナイフを使った剣はその身に傷をつけることはできない。

 今回の決闘をしてより実感したことだが、やはりナイフを使った攻撃が出来ると言うのは相当に大きな意味を持つ。

 対人戦では、それをチラつかせるだけで相手の思考を妨げることだって……


 って、なんで対人戦の事ばっか考えてんだろ。

 俺はダンジョン探索メインの配信者だし、そうでなくとも今までのこれからも俺の敵は魔物だ。


 と、そんな風に思っていると、不意にウラウさんは思い出したようにゴソゴソと自分の荷物を漁った。


「忘れてた。はい、これ」

「これは……金の羊毛って、いいんですか!?」


 何かを取り出し渡してきたかと思えば、それは黄金に輝く羊毛であった。

 そしてそれは俺が目当てとしていた光嫌羊のドロップアイテムに他ならない。

 ただ、驚く俺にウラウさんは何でもないとばかりにいった。


「決闘を受けてくれたお礼だよ。そもそも、これを取りにこのダンジョンに来たんでしょ?なら、邪魔をしちゃったのは私だし」


 確かに当初の目的はそれだった。

 だが、今渡された量はどう考えても今日一日どころか、恐らく一週間ここで羊を飼って取れる量を超えている。

 それにだ。

 別に決闘を受けたことで得られたものは多くある。

 彼女は自分の我儘をなんて思ってるかもしれないが、彼女ほどの大物とコラボさせてもらったことで俺の配信者としての知名度は大きくあがった。

 それは俺のチャンネルの枠で配信を指せてもらっただけに決して小さくない結果を数字が表していた。


「気にしないで、これくらいなら花火ちゃんだってすぐに取れる量だろうし」

「じゃ、じゃあもらっておきます」


 俺がこれだけのドロップアイテムを自力で採れるだなどと買いかぶりすぎだと思いながら、お金がないことは事実なのだ。

 素直に受け取っておいた。


「そう言えば、花火ちゃんはこの後どうするの?」

「この後、ですか?」


 俺は首を傾げる。

 そう言えば色々とした気になっていたが、時間を見ればまだ切り上げるほどではない。

 どうしたものかと考えると彼女は提案をして来た。


「どうせならさ。一緒にダンジョン攻略してみない?」

「一緒にですか?」


 まさか誘ってもらえると思わず俺は聞き返す。


「そ。今日限定で。どうかな?」

「えっと。分かりました。俺でよければ」


 嬉しく思いながら俺はそう返した。

 そんな俺の視界の端ではコメントが流れた。


『コラボ継続か』

『ウラウが誘うとは珍しい』

『花火さんのこと気に入ったんじゃね?』

『花火ちゃんパーティ組んだことあんのかな』


「さ、いこっか!」

「は、はい!」


 俺がコメント欄に気を取られていると腕を掴まれ、何故か機嫌のよさげなウラウさんに引っ張られた。

 そうして俺は今日限りのパーティとして俺の入場限界である32階層まで攻略することになったのだった。

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