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プロローグ

TSするのは二話以降です。


 ダンジョンが現れて二十三年。

 人々は挑み稼ぐ。


 ダンジョン攻略をする探索者が職業になった現在、インターネットの発達によって、ダンジョン攻略の風景を配信することが流行っていた。

 いや、最近ってほど最近のトレンドでもないけど、ダンジョン協会公認アプリ『D-NET』におけるダンジョン配信は全くと言っていいほどその盛り上がりに陰りが見えることはなかった。

 それどころか、まだまだ盛り上がりを見せていて、学校での話題に頻繁に出るくらいだ。


 そして、俺──玉屋葦(たまやあし)もダンジョン配信に熱中する一人……ではなく、今日もスマホにかじりついてみているクラスメイトを遠目に見ているような、いわばボッチ。


「やっぱ、俺もやっちゃおうかな。配信」

「気が早いって。探索者になるにしたってもう少しかかるんだから」

「ま、そうだけどさぁ」


 現在、高校二年生。

 数え年で十八歳になるとダンジョンに入れるとあって、最近クラスでの話題はダンジョン関連の事ばかりだ。

 今は高校二年の二学期の終わりごろ、年を跨げば法律上はダンジョンに挑むことが可能となる。

 とは言っても、この学校の校則としては三年生に進級しなければ原則禁止としていてルールを守るのであれば四月を待つしかないだろう。


 だが、中には内緒で友達と一緒に行くような人も多いと聞く。

 ただ、混むことを見越してかダンジョン側は元旦、いや、三が日は新規の探索者登録窓口を閉じている。

 学校に内緒に行くとしても、一月の四日以降だろう。


 それにしても配信か。

 俺も少しくらいは見るから別にそれに熱中することに疑問を覚えるなんてことはないが……

 

「自分が配信する立場になるなんて想像も出来ないな」


 そう一人呟いた。

 勿論ここは家である。

 教室でボッチを貫く俺が一人で呟こうものならキモイどころではないだろう。


 現在は授業も終わり、部活もバイトもないため、そのまま家に帰って来たところだった。

 そして、今日の出来事を思い出して一人寂しく呟いたところであった。


 制服から部屋着に着替えて、何となしにスマホでダンジョン配信を検索する。

 配信とは言え、危険伴うダンジョンとあって意外と夜遅くでなくともこれくらいの時間であれば結構な配信者が活動を始めている。

 危機察知能力や周囲の警戒と言う夜になると不利になる状況を考えると夜遅くに配信しているのはごく少数と言っても良いだろう。

 とは言え、皆無というわけでもなく、とある人気配信者が深夜配信を頻繁にしているためか、それに憧れたものの中には深夜にダンジョンでの配信を行っている人もいる。


『──今日は、軽く23階層ら辺で探索しようかな~』


 何気なく、と言うか、無難と言うか。

 ずらりと並ぶサムネイルの中から同接の多そうなものをタップする。

 この人は俺も良く好んで見る配信者の「フーカ」だった。

 そして、集まった人が多いからか、彼女が呟けば勢いよくコメントが流れた。


「まあ、この辺は猿しか出ないし」「軽くかぁ、軽くね」「23は別に軽くないんだよなぁ」「下手したら信号機猿がウザすぎてそれ以降の階層の方が楽まである」「ああ、あの三色団子みたいな猿か」「俺なんて12で死にかけるくらいなのに」「まあ、フーカなら大丈夫そうだけど」「今は他の配信者も近くに居なそうだしいいかもね」


 こんなに人を集めて凄いななんてボーと考える。

 こうやって見てるとなんだか俺もしてみたいと言う気分にもなってくるが、無理だろう。

 そもそもの話、俺がダンジョンに通用するか分からないと言う事は言うまでもないが、配信をするとして普段の生活でボッチをしている俺がペラペラと話せるような気もしない。

 配信者だから普段の生活でも上手くしゃべれるなんて思ってはいないが、少なくとも会話すらここ数年まともにしていない俺では無理だろう。


「そう思うとホントにすげぇな…………ふべぇ!?」


 ボソッと呟くとほぼ同時に、落ちて来たスマホを回避で出来ずに俺は顔面にもろに喰らった。

 この反射神経では尚更にダンジョンは無理だろうと思った。







 ◆


 結局のところ、俺は別にルールを破ってダンジョンに入るでもなく高校三年生の春を迎えた。

 一つ誤算があったとすれば、ダンジョンへの登録が半強制的であったこととその登録をクラス全員で行うことだった。


 何があったかと言えば、ウチの学校はどうやらダンジョンに力を入れたいらしい。

 そんな話を長々とされたのが四月の初めの出来事だった。

 そして学校の行事として全員でダンジョンへ登録に行くから五月の下旬、つまり、一学期の中間考査が終わるまで我慢してくれと言う事だった。

 よくわからんがそう言う事らしい。


 反対意見が出るなんてことはなかった。

 そもそもの話、半強制と言ったように嫌なら辞退が可能な催しであったし、逆に五月まで待てないと言う奴はすでに一月の時点でダンジョンの登録は済ませていた。

 で、返却されたボロボロのテストを涙で濡らしながら俺はバスに乗り込みダンジョンへと学校の皆と向かった。


 ダンジョンはいくつかあって意外とどこにでもある。

 一つの区や市に一個、何てことはないが、それでもどこから乗っても電車を使えばさして問題がないような距離にほぼ均等に存在している。

 まるで、誰かがそうしたかのような配置ではあるが、それもダンジョンの特性を考えればそうおかしくもない事だった。

 ダンジョンには他のダンジョンが干渉すると大きい方に取り込まれてしまうと言う性質がある。


 つまり、お互いに影響を及ぼしあう範囲内にそれらが出来れば、最終的に大きいものに統合されて程よくダンジョン同士の距離が開くのだ。

 その結果、今のような形になっている。


「──では、まずダンジョンについて軽く説明します」


 ダンジョン協会支部について少し、スタッフの人に誘導された俺たちは社会見学でもするかのように並んで歩いた。

 実際に、引率の教師が施設の人に挨拶したのを盗み聞きした情報を踏まえれば、どうやら俺たちの学校のようにこうやって大人数で登録に来るようなところも多いらしく、その為に用意されたプランを今日は使用しているとのこと。

 気になってホームページを見れば、普通にガイドなしで一人で来た方が安上がりなような気がしたが、それでも最悪死ぬような危険性があることを考えれば、実際に教えてもらいながらやるのも良いのかも知れないと考えた。


 それから俺たちは説明を軽く受けた。

 ダンジョン内には魔物が出ると言う事。

 それを倒してドロップ品を売ればお金がもらえる事。


 そして、魔物に挑むためのスキルの事。


「スキルは、ダンジョン登録時に付与されます。その際にスキル保有枠も確認できるようになりますので確認してみてください」


 スキルは、まあ、良いとして、スキル保有枠と言うのはその名の通りスキルを持てる上限の事だ。

 平均は、確か5とかだったか。

 通常、身体強化スキルと危機察知スキルで二枠潰して、一枠補助系、そして残りを攻撃系スキルで埋める。

 まあ、尖った構成をしている人もいるらしいけど。


「では、こちらの機器にて登録を致しますので、順番に並んでください」


 説明が終えられて、スタッフが呼びかける。

 今回は大人数の登録とあってか、本来の受付とは別に仮設された長机によって簡易的な受付が作られていた。

 そして俺はどんどん追い抜かされてしまって後ろの方へと並ぶことになった。

 順番が進むごとに騒がしくなる。


 始めにもらえるスキルはランダムでそれによって結構今後のことが左右されると言う。

 善し悪しがあるのだろう。


「しゃあ!『剣術』スキル来たぜ」

「マジかよ。俺なんか『暗視』、めっちゃ地味」

「聞いてくれよ!俺『魔法:炎』!めっちゃ強そうじゃね?」


 盛り上がりを見せる前方をなんとなく見る。

 そして、少し離れたところでたむろする集団に俺は気付く。

 男子三人。不良とまでは行かないが、あまり素行の良くない生徒たち。

 恐らくだが、先に登録を済ませている人たちだろう。

 先生も気付いているだろうが、ここで問い詰めても意味ないので見て見ぬふりをしてるように見える。


 そうこうしていると俺の番だ。

 正直少しワクワクしているのは否めない。

 だって、もし強いスキルを手に入れることが出来たら俺だって人生上手く行くかもしれない。


 そう思い、機器に触れた時、何か自分の中に流れてくるような感覚に陥った。

 でも、それも一瞬。

 これがスキルの取得の感覚なのだろうかと思って、俺の後ろにも数人ではあるが人がいるので詰まらせないようにその場を離れた。

 受け取ったダンジョンカード、確か『D-CARD』とか言っていたけど、まあ、いい。

 ダンジョンカードにスキルが印字されているという。


 なんだか緊張しながら俺は手で隠していたそれを見た。


「は……なんだこれ?」


 そこにはスキル名が書かれていた。

 空欄なんていうオチではない。

 だが、明らかに異常なその文字列に目を疑った。


『ばくだん!』


 そう書かれていた。

 爆弾、なのだろう。

 だがなんだ?

 ひらがなで、それに末尾には(ビックリマーク)が付く始末。


 そこまで考えて俺はある一つの可能性に思い到る。

 確か、そう確か本来のスキルとは違ったテイストのスキル、ユニークスキルなるものがあると言う。

 もしこれがユニークスキルなら。


 そう思うと少しテンションが上がって来た。

 俺の探索者生活の第一歩は最高潮にして絶好調に始まるのではないだろうか。


「では、実際にダンジョンに入っての体験をしていただきます」

 

 そんな声と共に思考の海から脱した俺は、ダンジョンデビューを飾ることとなった。





 ◆


 ダンジョンと言えば、魔物。

 そんな考えが一般的であるほどに、その存在は珍しくない。

 だから、比較的安全、それも学生を大所帯で引き連れて入れるほどの一階層であっても魔物は湧く。


「この階層にいるのは低級の魔物ではありますが、念のため注意を払ってください」


 一階層では魔物は滅多に湧かず素通りして二階層に降りるのが定番だと言う。

 この階層に湧くのは『数え蟲』と言う低位の魔物で、その名の通り虫型、正確には蟻の見た目をしている。

 手のひらサイズの蟻と言えば相当に気持ちが悪く、厄介そうに思えるかもしれないがそうでもない。


 この数え蟲と言うのは、まず接近戦を仕掛けてくることはない。

 その強靭な歯もこちらに向けられることはなく、攻撃の手段は一つだけ。

 発動までに60秒もの時間を必要とするスキルである『低級魔法:炎』だけである。


 耐久力もほぼなく、それでいてスキル発動時のカウントを始めれば身体に全部で六十個ある模様が光っていくと言う親切設計。

 そうそう被害にあうこともない。

 そして何より、六十秒かけて放った攻撃も火傷と言うほどの外傷も負わせることも出来ないのだ。


 とか何とかで、脅威度としては全くの低級であると言えた。


「では、次は二層に降ります。今回の体験ではこの層までとなりますのでくれぐれも三層以降には行かないようにお願いします」


 続いて二層。

 一層では、特にすることもないと言う事か下の層に降りた。

 この層でも一層とそこまで難易度は変わらないと言う。

 だが、この層は先ほどまでと違って魔物の出現率が違うようだ。

 そこまで多く湧くことはないようだが、ほぼ湧かない一階層とは違って、この二階層では適度に湧くらしい。


 そして、出現する魔物は「藁結蛇」と言う物らしい。

 まあ、藁だ。

 藁の束が蛇のように動くらしい。

 実際は蛇ではなく、憑依系の魔物だとか云々。


「では、順番にスキルを使ってみましょう」


 湧いてきた縄結蛇を見て担当者は言った。

 それからはクラスの皆が一人ずつスキルを使うのを眺めることになった。

 魔法って感じのスキルから、先ほど耳に挟んだ剣術のような体の動きをサポートするようなものを使用して倒している。

 他にも支援系であっても、ここの魔物は強くないようで特にスキルを使わずとも勝てるようだった。


 俺は自分の番になる前に感覚を確かめる。

 『ばくだん!』と言うスキルだが、どうにも分からない。

 爆弾と言ったって色々とあるだろう。

 そう思って、心の中で念じてみる。


 発動するには肉声でのスキル名の発声、または頭の中で念じることが必要となる。

 そして、どうやら上手く言ったようで何かが手に集まっていくような感覚を得る。


 全身のエネルギーが一点へ集中するかのようなそんな感覚に、ふらりと倒れそうになるがそれも一瞬の事だった。

 一秒もかからないその時間に俺の手には何かが握られていた。


「爆弾?」


 そう爆弾。

 そうとしか表しようのないものが手に握られていた。

 丸くて導火線が一本頭から生えていた。


 ただ、明らかに通常のものではないことは俺にもわかった。

 なんたって半透明なのだ。

 まるで現実味のないその見た目にやはりスキルなのだと実感する。


 そして、これをどうするか、なにも考えずに出してしまったが、これを爆発させるには人が多すぎる。

 そんなことを考えていた時、俺は爆弾を持っていた手に熱が走ったことに気付いた。

 原因と言えばいいか、とにかくその熱の正体はスキルによるものだった。


 故意に俺に向けられたものではない。

 それどころか、本人はおろか周りだって気付いていなかった。

 偶々だろう。

 偶然、向こうでスキルの行使をしていた誰かから飛んだわずかな火花がこちらにまで来た。

 だが、それでも確実にその炎は俺のスキルによって現われた爆弾の導火線に火を灯した。


 そんなことあるのか、とか。

 バカな、とか。

 外部からの干渉によって自分のスキルが発動して爆発するのか、とか。

 色々と思ったけど、結果として予期せぬスキルの暴発によって俺は意識を飛ばすことになった。

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