バイバイゲェーム
「あぁ、まただ。またラッキーだ。ついてない」
今回もやっちまった。またラッキーだった。これで更に悪くなる。
彼は上手くいった仕事の後に、ため息をついた。
彼は普通の家庭で育ち、普通に学校に通っていたが、
中学くらいからおかしな特性が芽を出して来ていた。
その日、イヤホンで音楽を聞いていてノっていた彼は
歌詞である「かかってこいよ!」を振り付きで、イエーイとやった。
バカだったから道でやった。あぁ、俺のバカ。
それが丁度、不良グループの前だったから、すぐにタコ殴りにされたが、
怖かった彼は隙を見て必死に逃げようとした。
これがいけなかった。
蹴られて痛かった足がもつれて、不良のボスに頭から突っ込んでしまった。
ボスは失神してしまったが、さらに焦って必死な彼は、
抱き抱えて起こそうとしたら、ボスのフードを引っ張って起こす形になり
「こんなつもりじゃないんだ」が、
「こんなつもりなんだわ」になってしまい、
フードでボスの首を絞めながら、
「殺すぞ」と、不良グループにマウンティングする形となった。
そして彼は、
何の因縁もない不良グループに、突如としてケンカを売り、
もう失神しているボスの首を締めて殺そうとした、
絶対に関わってはならん奴として、超絶有名になった。
あぁ、なんでそうなるんだ、俺と不良のバカ。
その頃好きだった女の子は、目も合わせてくれなくなったし、
回りの友達は全員、不良グループと交代した。
しかし、付き合ってみると意外に話しも合うし乗りも良く
毎日グループの連中と結構楽しんでいた。
彼がそろそろ真面目に働こうと思っていた、二十歳くらいの時に、
その辺一体を仕切っている、頭もやることもやべえギャングが
彼を仲間に入れようとしていた。
ギャングに呼ばれてノコノコ行った彼にボスは
「お前には、こういう仕事をしてもらうぞ」
と、給与面の提示はなく業務内容だけを説明したが、
頭の足りない彼はルンルンで
「実は面接を受ける予定なんだ」
と、一瞬でボスの苛立ちゲージをMAXにする発言をした。
(あぁ、あのまま、ハイといって帰れば良かったんだ)
そして、
「青果市場に荷を運んで、そこで他の野菜を買い付けて」
と、説明の途中で、ボスからビシャビシャに殴られていた。
「何が何なの?どうしたの?」と、不足ぎみな脳ミソはパニックになり
まずは落ち着いてくれと、手を上げたらボスの喉に直撃した。
素晴らしい。あれで起き上がれる奴はいないと絶賛されるほど、
角度、タイミング、共に申し分のない手刀を打ち込んだ。
そして、
「いや、違うんだ。俺は青果市場のことで話があって」
と、発生していない、縄張り問題を解決しに来たと言った。
「いや、あいつやべえよ。一人で来て、ボスはのしちまうし、
縄張りがどうとか言ってるし、武器ももってねえし、やべえし、やべえよ」
このやべやべギャングは、やはり頭がやべえようで、
彼の頭の足りなさが上手く恐怖にすり替わった。
彼は今度はギャングのボスになってしまった。
そう、彼はラッキーを起こす度に、どんどん悪に染まっていった。
それからは命を狙われることも有ったが、またそこでラッキーを
起こす度に組織で出世し、勢力を拡大していった。
そんなことを繰り返して、世界でも有数な犯罪組織のボスになってしまった。
「あぁ、神様、ごめんなさい。こんなつもりじゃないんだ。」
ある日、遠くの取引まで移動するために、予約した彼の電車の座席に、
間違って座っていた美しいが女性いた。
彼女は自分を知るために、神々と世界を見て回っているといった。
彼女は「運命の神様があなたに会わせたのなら、」何とかかんとか言っていたが
自分と一緒で頭が弱いのかと可哀想になった。
しかし、危険な方の可哀想な人ではないらしく、
何のラッキーも起こらなかった。
そして、その女性は一週間後にまた、彼の座席に座っていた。
彼は頭は足りないがチャンスは逃さないので、
すぐに交際を申し込んだ。
そして、彼女の神々にも相談して許しをもらって夫婦として結ばれた。
今、世界でも有数の組織になり、頭の足りない彼は考えている。
もし自分の属しているものが悪であれば、
いつかは正義が滅ぼしてくれる。この倍々ゲームを止めてくれる。
しかし、もし、自分がやっていることが、
正義とはまた別の正義だとしたら?
いつの間にか大きくなり過ぎた正義はどこに向かうのか?
まあ、そんなことは神様が考えることだろうし、
とりあえず今日は飲んで、明日は妻と青果市場にでも出掛けよう。
と、やっぱり足りない頭を、楽しむことに切り替えた。




