自分が間違っていなかったか、自分を振り返った浮気をした元王太子の悔い改め物語
レディウス王太子は、今日も自分の婚約者に愚痴を言う。
「君は将来の王妃になるのだから、令嬢達ときちっと交流を持って、王妃教育の成果もかんばしくないと言うじゃないか。それでは困る。アルティリア。もっとしっかりと学び、優秀さを私に見せてくれ」
イラついた。
アルティリア・フェレス公爵令嬢。
自分の婚約者の令嬢だ。
だが、社交性も無く、王妃教育も芳しくない、ぱっと見、目立たない令嬢である。
自分は将来の国王に相応しくなる為、勉学や剣技、乗馬、自分を高める事に時間を費やしてきた。
国王となるからには見目も大事だ。
銀の髪に青い瞳。整った顔をしているレディウス王太子は自分の見た目にも絶対的な自信を持っていた。
歳は17歳。婚約者のアルティリア・フェレス公爵令嬢は家柄だけで結ばれた婚約者である。
フェレス公爵は宰相も務めている、そしてフェレス公爵家は名門だ。
だからこそ、娘であるアルティリアと婚約を結んだのに。
あまり美人でないアルティリア。
何をやらせても、人並みで、突出したところがない。
こんな女が未来の王妃なんてあり得ない。
婚約を解消してくれ。そう、両親に懇願したのだけれども。
父も母も、
「フェレス公爵家と結ぶ事はとても大事な事だ。アルティリアの劣ったところは皆で補佐をしてやればいい」
「そうよ。それに、まだまだ時間はあります。わたくしもしっかりとアルティリアを王妃に相応しい女性に教育するから、待って欲しいの」
両親に言われては、婚約解消する訳にはいかない。
アルティリアに小言を言うもアルティリアは頭を下げて、
「申し訳ございません」
謝るばかりで、レディウス王太子はイラつくばかりだった。
そんな時である。
一つ下の従妹に声をかけられたのだ。自分の叔父である王弟の娘であるジュリアーナ。
ジュリアーナはレディウス王太子に囁いた。
「わたくし、ずっとレディウス様をお慕いしておりましたの。あんな女を婚約者にしておくよりわたくしが婚約者になった方がよいのではなくて」
銀の髪に青い瞳、自分とよく似た容姿のジュリアーナはそれはもう美しかった。
だが隣国の帝国の第二皇子と婚約を結んでいるジュリアーナ。
「あんな冴えない第二皇子より、わたくしレディウス様と結婚したい。この王国を離れたくない。昔のようにレディウスお兄様と呼んでよいかしら。いえ、結婚するのだから、レディウス様ね。わたくし、レディウス様と一緒にいたい」
涙ながらに告白されてレディウス王太子の心は動いた。
ジュリアーナはとりわけ優秀という訳ではない。
だが、美しさはアルティリアと比べて、月とスッポンの差である。
大輪の薔薇のような美しいジュリアーナ。
レディウス王太子は父王に頼むことにした。
あんな暗くて冴えないアルティリアなんかと婚約解消してジュリアーナと結婚したいと。
ジュリアーナはレディウス王太子に囁いて来た。
「レディウス様。わたくし、貴方の物に早くなりたい。そうしたら、わたくしとレディウス様を引き離されなくなるわ。だから、わたくしをレディウス様の物にして」
王宮のレディウス王太子の部屋に訪ねてきたジュリアーナ。
あまりの美しさに、レディウス王太子はジュリアーナを抱き締めて、熱い口づけをした。
そして、抱き上げてベッドに連れて行き、身体の関係を持ってしまったのだ。
ジュリアーナは素晴らしかった。
豊満な身体。レディウス王太子はジュリアーナを部屋に連れ込んでは、その身体を堪能した。
国王陛下に報告が言ったのか。
ある日、両親に呼び出された。
国王は不機嫌に、
「レディウス。どういうつもりだ?ジュリアーナに手を出して、淫らな事をしているようだな」
レディウス王太子は頷いて。
「ジュリアーナは美しい。まさに未来の王妃にふさわしい女性でしょう。提案します。ジュリアーナと私は婚約し、アルティリアと婚約解消したいと思います」
「隣国の第二皇子との婚約はどうする?ジュリアーナは第二皇子の婚約者だぞ」
「他の令嬢をあてがえばよいではないですか。代わりなんぞいるでしょう」
王妃が扇を手にしながら不機嫌に、
「愚かな事。ジュリアーナの不貞が発覚した時点で、慰謝料が発生するのですよ。それはフェレス公爵家も同様です。貴方の不貞の慰謝料を払わなくては」
「それぐらい、なんてことはないでしょう?美しい未来の王妃の為ならば、慰謝料なんて安いものです」
隣国が怒るかもしれないが、たかが婚約者が変更になる位、どうってことはない。
そう、都合よくレディウス王太子は思った。
ジュリアーナが王妃になる。
自分は光り輝く王国の国王になる。
美しき未来が見えるようだった。
国王はレディウス王太子に言い放った。
「お前を王太子から外し、第二王子クルドを王太子にする」
「ち、父上?どういう事です?」
「お前は優秀だと思っていた。政略による婚約を軽く考えていたようだな。幸い、クルドはまだ婚約者がいない。歳はアルティリアの3つ下になってしまうが。大した歳の差ではないだろう」
14歳のクルドがこちらにやってくる。
そしてレディウス王太子に向かって一言。
「兄上は愚かですね。フェレス公爵家を怒らせたらまずいと言う事も解ってはいない。何よりジュリアーナを貴方の新たな婚約者にしたら、隣国の帝国もうちの第二皇子の婚約者だったはずなのにと馬鹿にされたと思うでしょう。父上母上、隣国には謝罪の上、ジュリアーナの妹ミレーナを新たな婚約者にしては如何でしょう。歳も隣国の第二皇子と同い年の15歳。二人は姉妹。丁度良いのではありませんか」
国王はうううんと唸り、
「ミレーナには婚約者がいたぞ。確か伯爵家の……」
「諦めて貰いましょう。我が王国の為です。そして私はアルティリア嬢と婚約したいと思います」
レディウスは弟の言葉に、慌てた。
「私が王太子だ。お前なんかに王太子は務まらない」
「兄上。貴方は王太子から外されるのです。政略がなんたるか理解できていない兄上は無能と判を押されたのです」
王妃は首を振って、
「お前がこんなに愚かだとは思わなかったわ。ジュリアーナと共に離宮で暮らしなさい。せめてもの情けよ」
離宮に閉じ込められて、そこでジュリアーナと暮らす。二度と、外へ出る事は叶わないだろう。
クルドがにっこり笑って、
「ジュリアーナと一緒に暮らせるんですから、兄上は幸せものだ。私はアルティリアと、この王国の為に頑張りますよ」
ジュリアーナにその話をしたら、ジュリアーナは喚き散らした。
「わたくしが王妃になるのっーー離宮ってどういうことよ」
近衛兵に両脇から押さえつけられる。
ジュリアーナは更に叫んだ。
「お父様を呼んで頂戴っーー。お母様っーーーわたくし離宮なんて嫌よーー」
ジュリアーナの父である王弟殿下と母である王弟殿下夫人がやってきて、
王弟殿下はジュリアーナを見て、悲しそうに。
「甘やかして育て過ぎた。不貞を働くとは……離宮での生活は保障される。命を取られなかっただけでも感謝するがいい」
王弟夫人はハンカチを手に泣いているようだ。
こうしてレディウスとジュリアーナは離宮に閉じ込められた。
王宮の広い庭の端にある、小さな離宮で、決して外に出ることなく、暮らすことになったレディウスとジュリアーナ。
食事は質素な食事が、離宮の小さな窓から差し出され、玄関は外から鍵がかかっており、庭にも出ることも出来ず窓には鉄格子がついている。
ジュリアーナは喚き散らして、レディウスに当たり散らす毎日。
「わたくしはこんな所にいたくない。だしてよーーだしてっーー」
「ジュリアーナ。仕方ないだろう。幸い、暇つぶしの蔵書が沢山置いてある。読書をしてのんびり過ごそうじゃないか」
「嫌よーー。絶対にいやぁーーー」
日増しにヒステリックになるジュリアーナ。
レディウスはゆっくり読書と言ってもいられず、キイキイ騒ぎ立てるジュリアーナに疲れ果ててしまった。
何を間違ってしまったのだ?
アルティリアなんて地味で無能な女なんかに王妃が務まるはずはない。
だから、美しく元々、マナーも完璧なジュリアーナを婚約者に変更しただけではないか。
何故?どうしてこんな目にあっているんだ。
叫びたいのは自分なのに……諦めて読書で気を紛らわそうとしたのに。
ジュリアーナがうるさくて読書も出来ない。
両親に手紙を書いた。
眠れないので、睡眠薬をくれないかと。
認められて窓口から睡眠薬が差し入れされた。
あまりにもジュリアーナが煩いので、ジュリアーナの食事に大量にいれた。
そうしたら、ジュリアーナが眠ったまま目覚めなくなった。
やっと静かに読書が出来る。
レディウスは食卓で動かなくなった、ジュリアーナを放っておいて、部屋で読書を楽しんだ。
そしてまた手紙を書いた。
ジュリアーナがうっかり睡眠薬を飲み過ぎて、様子がおかしいから見て欲しいと。
しばらくして、外の扉が開けられて数人の男達が入って来た。
息をしていないジュリアーナ。
レディウスは説明する。
ジュリアーナが睡眠薬を誤って沢山飲んでしまったようだと。
男達は医者だった。
レディウスの言葉を信じたらしく、ジュリアーナを外へ運び出した。
やっと静かになった。
読書に励める。
レディウスの心にジュリアーナへの愛はとうに無くなった。
いや、愛なんて元々あったのか。なんでジュリアーナに夢中になったんだろう?
確かに美しくて、身体もよかったジュリアーナ。
しかし、彼女のせいで自分は王太子の位から追われたのだ。
そう、彼女がいけない。自分は悪くない。
アルティリアだってよくない。もっと美しくて有能だったら、彼女と婚約解消することはなかった。
自分はこんな所で終わる人間ではない。
いつかここを出て返り咲きたい。
そもそもクルドより自分の方が学業の成績はよかった。
だから、自分の方が未来の国王に相応しい。
季節が巡るに連れて、レディウスはそう思うようになった。
そんな時、ふと本棚の奥に隠し通路を見つけたのだ。
この通路は王宮の本殿に繋がっているに違いない。
王宮に言って叫ぶのだ。
自分こそが王太子に相応しい。
考え直してくれないかと父と母に頼めば……
隠し通路を通って、王宮の本殿に出た。
見知った物を置いてある部屋に繋がっていたらしい。
こっそり、扉を開けて両親の部屋へ向かおうとした。
そこへ誰かがやって来る。
両親に会う前に捕まる訳にはいかない。
柱の陰にかくれた。
クルドだった。見知らぬ女性を連れている。
いや、見知らぬ女性ではない。
アルティリア。あの冴えない女性はちょっと見ない間に美しくなっていた。
金の髪を結いあげて、綺麗に化粧をして。
桃色のドレスはとてもアルティリアに似合っていた。
もっと昔から美しくあったら、婚約解消なんてしなかったのに。
アルティリアの傍にいたのは自分で、自分は王太子のままで、この王国の国王になっていたのだ。
クルドに向かって微笑むアルティリアはとても美しくて。
あんなに幸せそうな顔で微笑んだ事は自分相手にあっただろうか?
思わず二人の前に飛び出して叫んでいた。
「アルティリアっ。冴えない地味な女だったはずだ。なんでそんなに美しくなった?」
レディウスが現れたというのに、クルドもアルティリアも落ち着いた様子で、
そしてアルティリアは扇を手に言い放った。
「女は相手が変わる事で、美しくもなりますし、やる気も出るものですわ。レディウス様はわたくしを貶めてばかり。わたくしに嫌味を言ってばかり。そんな方、相手にわたくしはやる気が起きなかったのです。政略として貴方と婚約を結んでいたのにも関わらず、わたくしの態度にお父様からもよく叱られて。わたくしは毎日陰で泣いておりましたのよ。王妃教育も厳しくて。疲れ果てていて。クルド様は貴方と違って、わたくしを認めて下さいましたわ。こう言って下さいましたの。自分はまだまだ未熟だ。だから共に励んでこの王国に相応しい国王と王妃になるよう努力しないか?って。そして頭を下げられましたの。兄が申し訳ないと。今まで兄の婚約者だから声をかける事も出来なかったと。わたくし、今はとても幸せですの。クルド様はわたくしを尊重して下さって。もちろん。わたくしもクルド様を尊重しておりますわ。そして愛しております。わたくし、とても幸せですのよ。婚約解消して下さって有難うございます。レディウス様」
こんなに饒舌だった令嬢だったか?
花のように微笑む令嬢だったか?
クルドがにやりと笑って、
「近衛兵。兄上が逃走してきたようだ。離宮へ連れ戻すように。二度と、こういう事がないようにしっかりと管理をよろしく頼むよ」
アルティリアをエスコートしながら、クルドは行ってしまった。
私は間違っていない。
アルティリアが悪いのだ。悪いのだ……悪いのだ……
涙が止まらない。
自分はあの離宮で一生を終えるのだろう。
レディウスは床に手をついて、涙を流すのであった。
レディウスは、今、国境警備隊にいた。
あの後、子が出来ない処置をされて、国境警備隊に送られたのだ。
本殿に勝手に忍び込んだ罰だからと。
国境警備隊の隊長は女性だった。
歳は30を超えているか?真っ赤な髪のリディア隊長はレディウスに向かって、
「元王太子殿下といえども容赦はしない。ここは魔獣も出るし、警備する国境の範囲は広い。心して警備するように」
厳しく言われた。
仲間達と国境沿いを見回る毎日。
山道を歩き、川沿いを歩き、国境沿いを見回る結構疲れる仕事だ。
レディウスは初日から音を上げた。
仲間の警備兵に、
「疲れた。少し休ませてくれ」
ずっと離宮に閉じこもっていたのだ。運動不足で身体がなまっていた。
警備兵たちはせせら笑うように、
「元王太子殿下だか知らないが、情けねぇなぁ」
「仕方がねぇ。休むか」
水を飲んで、山から下方を見渡す。隣国である帝国の広大な農村地帯が見えて。
キラキラと光る景色に思わず見とれた。
一人の警備兵が話しかけてきた。
「元王太子殿下殿ーー。何やらかしてここへ来た?確か病を経て離宮で療養中とか発表されていたような」
仕方なくレディウスは答える。
「離宮にいたよ。だが、本殿へ忍び込んだら、ここへ飛ばされた。まぁ離宮にいるよりはいいか。気晴らしになる」
「で?なんで離宮に?」
休憩が終わったので、歩きながら、話をする。
「アルティリアという令嬢と婚約をしていたんだが、冴えない女でな。婚約解消して華やかな従妹のジュリアーナと婚約したいといったら二人で離宮に飛ばされた。冴えない女だったアルティリアが弟相手に美しく変貌していてな。あの女が悪い。私が愚痴を言っていたからやる気がおきなかった?そんなので王族の婚約者が務まるか。ジュリアーナもジュリアーナだ。あの女が私を誘惑しなければ。あんなヒステリックな女だとは思わなかった」
「へぇ。そりゃあんたが悪いんじゃないか?なんで女達が悪い事になっているんだ?」
「私は王太子だぞ。女が悪いに決まっているだろう。私は王国の国王になる男だ」
「なるはずだったの過去形だろう?」
呆れた様子の警備兵にイライラする。
警備兵は急に真顔になって、更に言葉を続ける。
「王太子と言うからには、アルティリアという女性を尊重してやる気を起こされるのが、王太子の器ではないのか?ジュリアーナという女に対してもそうだ。ジュリアーナが誘惑してきたら、婚約者がいると断るのが筋というものではないのか?」
「し、しかしだな。私は王太子で……」
「王太子だからこそだろう。ジュリアーナと言う女性は隣国に婚約者がいたはずだ。政略で。それを壊す真似をして王国に不利益だとは思わなかったのか?アルティリアという女性に対して、婚約者に対して彼女の事を調べて親身になった事はあるのか?」
この警備兵に対して違和感を感じた。
「ただの警備兵ではないな……何でジュリアーナに隣国の婚約者がいた事まで知っている?」
その時、草むらから数人の男達が刃物を持って、襲いかかってきた。
こちらは10人。向こうは6人。刃物での応戦になった。
なかなかの手練れ。しかし、自分に話しかけてきた警備兵が凄腕で、次々と襲撃者達を殺していった。
最後の一人を捕まえて。
「誰に頼まれた?」
襲撃者は舌を噛んで死んでしまった。
とりあえず、リディア隊長に報告する為に戻ると、
「王弟殿下の手の者だろう。狙いはレディウス。お前だ」
「私ですかっ。私は叔父上に恨まれる覚えは」
リディア隊長に呆れたように言われた。
「娘を離宮に追いやる原因を作ったのはお前だろう」
「誘惑してきたのはジュリアーナだ。私は悪くない」
「しかしだ。娘が離宮に行かなければ帝国の第二皇子妃として、華やかな人生を送ることが出来た。亡くなったのだったな」
「あれは……」
自分が殺しただなんて言えない。
例の警備兵が、
「私の名前はグラディアス。国王陛下はお前の事が可愛いみたいだな。お前を守るように言われて、ここにやってきた」
「父上が……」
有難かった。ここまで自分の事を思ってくれるのなら、王宮へ戻りたかった。
自分は悪くない……自分は悪くない……
しかし、グラディアスの言った言葉が胸に刺さる。
本当に自分は悪くない?
自分は無能ではなかったのか?
弟の顔を思い浮かべる。
弟は自分より劣っていたはずだ。
それなのに王国の未来の国王だ。
あんな美しくなったアルティリアを娶って。
悔しい悔しい悔しい……
グラディアスに肩をポンと叩かれた。
「何でも人のせいにするのはやめた方がいい。まずは自分が悪くはなかったのか。間違ってはいないか、自問自答することから始めたらどうだ?過去の自分の行動は悪くなかったのか……よく思い返してみるんだな」
グラディアスの言葉が胸に染みる。
もっと弟のように、アルティリアに寄り添えばよかったのか?
彼女に小言を言うだけではなくて、彼女を労わって、親身になってあげれば、あの美しさもあの笑顔も全て自分に向けられたのかもしれない。
自分が殺したジュリアーナだって、幼い頃は可愛かった。そして美しく育った。
しかし、誘惑された時に、しっかりと自分が断っていればよかったのではないのか?
そもそも、あんなヒステリックに喚き散らす女性ではなかった。
殺す必要はあったのだろうか。
一度は夢中になった女性。離宮で彼女に寄り添っていればよかったのではないのか?
自分はジュリアーナの人生もつぶしてしまったのだ。
毎日毎日、警備兵たちと共に山を歩き、川沿いを歩きながら考える。
自分は悪くはなかったのか?
本当に悪くなかったのか?
そして、とある日手紙を書いた。
クルドとアルティリア宛に。
― アルティリア王太子妃殿下。貴方の心に寄り添えなかった事。婚約解消をしてしまった事。心から反省しております。クルド王太子殿下。私は無能だった。貴方が国王ならば、この王国はより良い国になるでしょう。遠くから王国の発展を願っております -
心から反省をした。
そして、自分が殺してしまったジュリアーナ。
リディア隊長に罪を告白した。
「私は自分と共に閉じ込められたジュリアーナを殺しました。睡眠薬を多量に飲ませて。王都に連絡を。どんな罰でも受け入れる覚悟はできております」
リディア隊長はレディウスの言葉に、
「国王陛下が罰を決める。報告をしておこう」
「よろしくお願いします」
そして、グラディアスに頭を下げて。
「私を守ってくれて、そして助言をしてくれてありがとう。君の事は忘れない」
「仕事だからな。罪をしっかりと償ってくれ」
いつしかグラディアスとは友となっていた。
互いに固い握手をしたのだった。
レディウスはその後、神殿に送られた。
自分の罪に向き合う為に、一生、神殿で働かされることに決まった。
彼は今日も祈る。
なんて自分は愚かだったのだろう。
なんて自分は浅はかだったのだろう。
なんて自分は……
人々の為に少しでも役に立ちたい。
だから、神殿の人に頼み込んで、人々の懺悔を聞く仕事をすることになった。
今日も人々は懺悔をしに、神殿に訪れる。
神殿の相談口で、レディウスは相談者にこう言うのだ。
自分が間違っていないか、まずは自分を振り返って。
悩みごとの大半は自分の行動が招いた結果なのだから。
そして、人を思いやる心を大切に……
そうすればおのずと貴方は救われることでしょう。