生霊…?
こちらは百物語八十八話の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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俺がまだ学生だった時の話。
うちは家族関係が複雑でね。
俺が小学生の時に母親が俺と親父、弟を捨てて出て行っちまったんだ。
理由はわかってる。
当時母親は色々な会社を経営していて、うちの家族はそこそこ有名な金持ちだった。
しかし、バブルが崩壊した後、状況は一気に暗転。
経営していた会社は全部潰れて、残ったのは多額の借金だ。
しばらくは家族全員で頑張っていたけど、母親は酷く疲れてしまったらしく、俺たち家族を残して行方不明になりやがった。
母親が行方不明になってから数年後、俺が中学三年生になった時のこと。
俺の家は親父が朝から晩まで働いていることもあって、ほぼ毎日友達が遊びに来ていたんだ。泊まっていく日も結構あった。
弟の面倒を見てくれることもあって、俺もかなり助かっていた。多い時には10人近く泊まりに来た日もあったな。
ある日のこと。
いつも通り友達と家で遊んでいると、うちのトイレから帰ってきた友達が俺に向かってこう言った。
「リビングでおばさんがテレビ見てたぞ。今日はお前と弟だけって聞いてたのに、もう帰ってたんだな」
その言葉を聞いた途端、俺は何も言えずにその場で固まってしまった。そして急いで部屋を飛び出し、リビングへ突っ走って行った。
「おい、どこにいるんだよ!?」
当然母親の姿なんてあるわけがなく、家の中は俺たち以外に人がいるはずがなかった。
「おい、変な冗談はやめろよ…」
当時の俺は友達に母親が行方不明になっていることを話してはいなかった。可哀想な目で見られるのが嫌だったからだ。
しかし、俺が仕方なく母親の事情を話そうとした途端、その場にいた友達が奇妙なことを話し始めた。
「何言ってるんだよ。俺は昨日もここでおばさんを見たぜ」
「前来た時もいたよね。トイレのドアから顔を出して俺たちの事見てたよ」
「俺なんて何回も廊下ですれ違ってるぞ」
そんなことはありえない。
「あのな…まだお前らには話してなかったけど…俺の母親、今行方不明なんだぞ…?」
最初は冗談だと思ったらしく、その場にいた全員へらへらと笑っていたよ。
しかし、俺と一緒に家の中を探索した後、状況は一気に変わっていった。
「おいマジかよ…誰もいないじゃん…」
「確かにおばさんの部屋埃だらけだったし、あれじゃ誰も住めねぇよなぁ」
全員俺が嘘を言っていないことだけは理解してくれた。家の中は俺たち以外誰もいないし、数年間掃除していない母親の部屋もしっかりと見てもらった。
「なぁ、もしかすると俺たちが見たのっておばさんの『生霊』じゃないか?」
心霊マニアの友達がそう言ったんだ。
生霊って言うのは、生きてる人間の魂の分身みたいなものらしい。怨念や想いが強かったりすると、生きてる人間でも幽霊になっちまうことあるんだとさ。
それを聞いた俺は、不思議と悲しい気持ちになったんだ。
(帰ってきたいのかね…あの人は…)
怖いとか腹が立つとか、そんなことは全然なかった。むしろ生霊になるくらいなら素直に帰ってくればいいのにって思ったんだ。
「とにかくもう気にしないでくれ。それは本物の母親じゃねぇからな」
そんなことを言ったはいいが、当然全員怖がってしまってよ。しばらく俺の家には友達が遊びに来なくなっちまった。
こんなことがあってから数年後、意外なことが起こったんだ。
「おい、〇〇!母ちゃん帰ってきたぞ!」
友達と一緒に家へ帰ってくると、慌てた様子の親父と弟が玄関で俺にそう言ったんだ。俺は友達と一緒に、急いでリビングへ向かった。
そこにいたのは…
「大きくなったねぇ、〇〇…」
間違いない。俺の母親、母ちゃんだった。
母ちゃんは色々あったが、俺たちにぶん殴られる覚悟で家へ帰ってきたらしい。
「馬鹿野郎。寂しいなら早く帰ってくりゃいいのに…」
言いたいことはたくさんあったけど、今はとにかく嬉しかったんだ。俺も母ちゃんに会いたかったんだから。
「あぁ、ごめん。今日は友達も来てんだ。お前も見てくれよ、これが『本物』の母ちゃんだよ」
その時その場にいた友達は、よく母ちゃんの生霊を目撃していたH本という友達だった。
「うん?あぁ…」
H本は母ちゃんに挨拶をした後、どういうわけか俺の部屋に小走りで駆けこんでいった。
「また後でゆっくり話そうや。ちょっと部屋戻ってくる」
俺もすぐに自分の部屋へ戻った。
そしてそこで見たものは…
「お、おいっ!何してんだよっ?」
部屋の隅で両膝を抱えてガタガタと震えるH本の姿だった。
「マジで何なんだよ!気分でも悪いのか?」
震えるH本へ近寄ると、H本は首を何度も横に振りながら小さな声でこう言った。
「…違う!」
最初は意味がわからなかった。違うとはどういうことなんだ。
「違うって…何が…?」
俺がそう言うと、H本は俺の耳元に顔を近づけてこう言った。
「俺がいつも家で見てた女の人、お前のお母さんじゃなかった」
そうか。
そうなのか。
じゃあ、あの女は一体何者だったんだよ…
母ちゃんが帰ってきてから、俺の家であの女が再び姿を現すことはなかった。