87. 本人不在の場で、告白されましても
最後まで生き残れば、侍女であっても構わない。
選定式のルールが変わったことで、手を挙げさえすれば主人に成り代わり、侍女達にも皇后への道が開かれる。
「ラン、お前もどうだ?」
名指しで誘われたことにより、侍女達の殺意の矛先は、ミランダへと移る。
「とても光栄なお話ですがーー」
大丈夫、問題ありません。
いつも小憎らしいくらい冷静沈着なヴィンセントが不安そうな目を向けるので、ミランダは軽く微笑みかけた。
「皇太子殿下は民心を掌握され、善政を敷かれる方。であればその妃もまた同様に、隣に立つに相応しい器が必要かと」
仮に全ての候補者を殺し、最後の一人になったところで、貴女達にその器はありますか、と侍女達に問いかける。
「相応しくなるのは後付けでも構わない」
事も無げに告げる皇太子の、情報の出所はジャノバ領主のアルゼンだろうか。
ドナテラ付きの侍女がミランダである確信を得た以上、どうにかして表舞台に引きずり出したいようだ。
「そんなもの、どうとでもなる」
「ですが皇太子殿下。候補者には、ミランダ様がいらっしゃいます。とても生き残れるとは思えません」
相手はあの悪評高い悪女ミランダ。
殺戮ゲームだなんて、ミランダ様の得意とするところでしょう?
殺意を浮かべていた侍女達は、自分もまた狙われる立場であることを思い出し、意気阻喪する。
大国の国王達を手玉に取ってきたミランダ相手に、勝てる見込みがあるとは到底思えないのだ。
「それにその、私、実はお慕いする方がおりまして」
さらに始まる、愛の告白。
そもそも今回の主目的は石碑の調査。
ついでに滅多に入る機会のない帝国の敵情視察に、叶うならば関係性の構築。
帝国内に入る名分もないため表舞台には立たず、ドナテラを通して様子を伺いつつ話を進めるつもりだったのだが……. 。
下手に政治の話をするよりも理解を得やすく、断り文句に相応しいと思ったのが間違いだった。
「ええと、その方の求婚をお待ちしている状態なのですが……」
何故だろう。
丸く収めるつもりが、思っていた以上に恥ずかしい。
「待ってるというか、待たせたというか……」
先程までの凛とした態度とは一転、落ち着きなくソワソワし始めたミランダを、ヴィンセントが驚愕の眼差しで見つめている。
ドナテラは口元を両手で覆い、何が始まるのかとドキドキしながら見守り、コニーもまた身を乗り出した。
「つ、つまりその、想いを寄せる方以外の男性に、嫁ぐ気はないということです」
よ、よし、言い切った。
人生初、人前での告白をやり遂げたミランダは、朱に染まる頬で得意気に皇太子を見遣る。
感動に目を潤ませるドナテラとコニー、なおヴィンセントは当然ですとしたり顔で頷いた。
思いもよらぬ方向へと話が飛んでいき、皇太子は面食らったように言葉に詰まる。
一時的に停戦中とはいえ、敵地に飛び込んだ隣国の大公女。
悪女に相応しく当然のように乗ってくるだろうと目論んでいた提案は、あえなく却下され、始まりそうだった殺戮ゲームも皮肉を交えつつ流され……。
まるでなにも知らない乙女のように照れ始めるミランダに対し、こっちはこっちで人生初の恋話を聞かされ、どうしたら良いか勝手が分からず戸惑っていた。
「我が主、ドナテラ様をどうぞ今後ともお引き立てくださいね」
侍女の本分はあくまで主人を引き立てることですから!
気絶したもう一人の候補者はそのままに、その侍女達を、最後にもう一煽りするミランダ。
「もし他国の支援を必要とされる場合は、我が主ドナテラ様にお声がけください」
偽物への対応から、推薦した第二皇子は恐らく皇太子側。そして先程までのやり取りから、表面化している敵対候補は第三皇子、と想像がつく。
ミランダを妃に据えたい理由は、強国のひとつファゴル大公国の後ろ楯だろう。
頬の火照りは収まらないが、場がうまく収まったところで、素早くドナテラに目配せをした。
「で、では皇太子殿下、お時間になりましたのでわたくし達はこれにて、下がらせていただきます」
主従に相応しいと阿吽の呼吸。
決めた男性以外に嫁ぐ気はないと公言した。
協力も態度によっては考えると示唆もした。
だが何故ゆえ、こんなにも居たたまれない気持ちになるのか。
秒で撤収するドナテラ御一行様を、その場にいた者達が呆気に取られた様子で見送っていた。
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