↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【6/30コミカライズ発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:閑話集

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/120

閑話4. ファゴル大公夫妻暗殺未遂事件②


 検討会議で保留をし、今日が約束の五日目。

 ミランダはゆったりとソファーに腰掛け、ファゴル大公に向かって微笑んだ。


「お前に盛られた強力下剤で丸二日苦しんだ上に部屋を出られず、酷い目にあった」

「……ご無事で何よりです」


 牢内で過ごしているにも拘わらず、たっぷりと睡眠を取り血色の良いミランダとは対照的に、痩せこけて窪んだファゴル大公の頬が、ここ数日の苦悩を物語っている。


「しかも、暗殺未遂事件だなどと……」

「主治医に『死ぬほどつらい』と仰ったのは、お父様ご自身ではないですか」

「どの口がいうか!! どうせ大公宮内にいる馴染みの者達を強引に巻き込んだのだろう!?」

「……申し訳ありません。今回はわたくしも協力致しました」

「お前まで!?」


 ミランダの義母である大公妃まで一枚噛んでいた事実に、ファゴル大公は動揺を隠せない。


 後から聞いたら、『この症状に、即効性。ファゴル国立薬草園の希少種に報告例があります!!』とかなんとか得意げに宣言していた医師も、共犯であったことが判明した。


 確かに診断までがやたらスピーディーだなとは思ったが、ミランダとグ(・)ル(・)なら頷ける。


 フカフカの絨毯に革張りのソファー。

 中央に置かれたローテーブルの上で、ティーカップに注がれた紅茶がホワンと温かな湯気を立てている。


 すべて大公妃の心尽くし……居心地の良いこの牢にミランダが入るのは、これで二回目。

 グランガルド進攻の『発起人』として軍法会議にかけられた時が、記念すべき一回目である。


「と、言う訳でお父様。刑罰を国(・)外(・)追(・)放(・)に変え、私を人質としてグランガルドに送ってください」

「ミランダお前ぇぇぇ……ッ」


 本日も絶好調なミランダの隣で、大公妃がクスクスと笑っている。

 穏やかで控えめだが必要とあらば国のため、幼い実娘を人質に行かせることも厭わない公正な性格。


 大公妃を務めるだけあって状況を判断する目も確かであり、その彼女が表立ってミランダに手を貸したということは、これが最善なのだろう。


 素晴らしい人材に恵まれたファゴル大公国。

 だがミランダが指揮するとロクなことにならないと、ファゴル大公は今一度、強く思い知らされた。


「つまるところ」


 ミランダの決意に満ちた声が冷たい石壁を伝い、牢内に響きわたる。

 非凡な政治感覚を持ち合わせ、その強靭なメンタルは人質として打ってつけ。


 さらには加護持ちという貴ばれる稀少性……その上で、対(・)外(・)的(・)に(・)理(・)由(・)付(・)け(・)で(・)き(・)る(・)状(・)況(・)まですべてが整ってしまった。


「やはり私が適任、ということですね!!」


 力を失ったように、ファゴル大公が膝から崩れ落ちる。

 大公国一の美姫は高らかに宣うなり、それはそれは美しく微笑んだのであった――。



 ***



 物々しい警備とともに、重厚な馬車が鈍い音を立てて停まる。

 ただならぬ雰囲気に怯え、ファゴル大公の腕にしがみついた末の妹は心細げにミランダを見上げた。


 憂いなく、愛されて育った無邪気な第三大公女。

 この子が人質としての厳しい環境に耐えられるとは、到底思えない。


 自分が行けて、本当に良かった――。


 不安そうに揺れるその小さな身体を、ミランダは力いっぱい抱き締める。


「継承権はそのままだ」


 不愛想に告げるファゴル大公の言葉に驚いて、ミランダは顔を上向けた。


「いつでも戻ってこられるよう諸侯達には実情を説明し、理解を得ている。いざとなったら自分の身を最優先に考えろ」


 次期大公としての自覚を持てと日頃から言っていたのに。

 泣き出しそうに歪む父の顔を見ていたら、小さな火が灯るように胸のうちが温かくなってくる。


「……お前が、正しいと思った道を進みなさい」


 ミランダが頷き、馬車に乗ったのを合図に、出立のラッパが鳴り響いた。


 グランガルドとの関係性を保つこと。

 敵対国の脅威を跳ね除けながら、ともに存続する道を探すこと。


 何が待っているか分からない以上、手探りでも進むしかないのだ。


「私なら、きっと大丈夫」


 姉であるアリーシェにファゴル大公国を託された時から、とうに覚悟は出来ている。


 自身に言い聞かせるように呟くと、握りしめた拳にじわりと熱が籠もった。

 ミランダの決意を後押しするように木々の影がゆっくりと流れ、馬車の窓から柔らかな日差しが差し込んでくる。


 春の陽だまりのように温かなその光の先には、グランガルドの豊かな大地が広がっているのだ。


 ミランダは一つ息をつき、ゆっくりと瞼を閉じる。

 形の良い口元が緩み、……そして、ふわりと柔らかな弧を描いた。






《70.そして父はいなくなった》の以下シーンは、こちらの閑話からきています☆彡


ミランダ 「あらあら、何を仰いますやら? 自分が正しいと思ったことは死しても貫けと教えてくださったのは、他ならぬお父様ではありませんか」

ファゴル大公 「なっ、なんだと!? 言ってない! そんなこと、一言も言っていないぞ!? 正しいと思った道を進みなさいと言っただけだろうが」

ミランダ 「私は敬愛するお父様の教えを貫いただけです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。