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【書籍化・コミカライズ8/29発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:グランガルド編 ~初夜に自白剤を盛るとは何事か!~

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71.とても良い方法を思いつきました


「さて、報告は必要に応じて適宜行うこととして、私の持つ『女神の加護』について少しお話をしても宜しいですか?」


 あまりごねると先程のファゴル大公同様、面倒臭いことになると察したミランダ。


 適当に返事をして話を進めようと、部屋に残った三人……クラウス、ザハド、セノルヴォへ順に目を向けた。


「今回地下通路で刺され死に瀕した際、治癒に要したのは丸三日。私の加護はそれほど強くないため、通常であれば一週間はかかります。ですが途中で別途加護を使ったにも関わらず、たった三日で治癒しました」


 その時の状況を想像したのか、セノルヴォが苛立ったようにクラウスを睨み付ける。


「そしてシェリル様を死の淵から救った際は、わずか半刻――。その際、身体が焼き切れるような熱と共に、私は意識を失いました。そしてその瞬間、加護印の色が深紅に変わったと陛下から伺っています」

「……深紅に変わった瞬間、地の底で何かが蠢くような感覚が襲ってきた。慌てて引き剝がしたが、あのままだったらお前の身も危うくなっていただろうな」


 クラウスが補足をすると、セノルヴォが考え込むように目を瞑る。


 同じ時代に二つとして同じものはなく、数代に一人現れるかどうかの稀少な『加護持ち』。


 アルディリアの初代女王、マルグリットの系譜にのみ何故現れるのか、その実態は謎に包まれており、未だ解明されていない。


「大帝国アルイーダが滅びる原因となった『双子の皇女』。アルディリアの禁書庫で調べ、幾つもの綻びを見つけたものの、結局仔細は分からず仕舞いでした」


 そこまで口にして、再度ミランダは居並ぶ者達へと目を向ける。


「死に向かうほど強くなる力。加護というよりは――まるで、呪いのようではないですか?」


 身震いしそうな程に恐ろしい言葉。

 それは女神を拝し、『女神の加護』を妄信する四大国の民には、到底受け入れることの出来ない戯言(たわごと)


 だが確かにミランダが死に瀕する度、加護の力は増しているのだ。


「実は貴国の、王妃の間にあった石碑がずっと気になっていました。片側に積まれた石室を見て、ふと思い出したのです。アルディリアの初代女王が埋葬されているのは、確か石造りの埋葬施設だったと」


 黒曜石で作られた大きな石碑。

 壁に埋め込まれたその碑には一面に、見た事のない文字が彫られていた。


「グリニージ宰相に伺ったところ、いつ頃から王妃の間にあったのか記録は残っておらず、建国当初から存在していた可能性もあるとのこと」

「つまりはその石碑を解読できれば、何か分かるかもしれないと?」


 ミランダの意図を確認するようにセノルヴォが口を挿む。

 アルディリア初代女王の埋葬施設は封じられ、立入禁止となっている。


 禁書庫に図面は保管されているが、王であるセノルヴォも中へ入ったことはなかった。


「はい、もしかしたら帝国が四大国に分かれた際、本来はひとつであった石碑もまた四つに分かち、各大国のどこかに保管されているのではないかと、そう考えたのです」

「ふむ、調べてみる価値はありそうだな……」

「ですが問題は他の二大国。帝国とガルージャ……どうやって調べようか頭を悩ませていたのですが、祖国へ帰していただけると伺い、とても良い方法を思いつきました」


 嬉しそうに目を輝かせながら、セノルヴォへ視線を向けるミランダ。


 見つめ合う二人にヤキモチを焼いているのか、苛立ったように膝の上で指をトントンと叩くクラウス。


 そんな三人を、ザハドは心配気に見守っている。


「とても良い方法、とは?」


 何をやらかすか心配で堪らないのか、無意識に威圧するクラウスを意にも介さず、ミランダは得意げに破顔した。


「はい、インヴェルノ帝国の『皇太子妃選定式』です!!」

「「「……ッ!?」」」


 声にならない声を上げ、ソファーから飛び上がるように立った三人の男達。


 ファゴル大公がもしここにいたら、泡を吹いて倒れていたかもしれない。


「お、お前、何を言って……!?」

「殿下、正気ですか!?」

「だ、ダメだ! 許さん……許さんぞミランダ。お前はグランガルドの正妃になると約束したではないか!!」


 クラウスは狼狽え、覚束ない足取りでミランダの元へと歩み寄ると、渡さないとばかりに抱きしめる。


「そんなことを言うようなら、祖国に帰る話は無しだ! これからの一年間、ずっとグランガルドに閉じ込めてやる」


 衝撃のあまり、らしくない台詞を吐くクラウス。

 セノルヴォが小さく吹き出し、ザハドはどうしたら良いか分からずオロオロとしている。


「まったく、揃いも揃って面倒臭い。落ち着いて下さい! 私が候補として参加するなどとは一言も言っておりません。『皇太子妃選定式』に随伴できる侍女は二人。自国から護衛も一人付けられます」

「め、面倒臭いだとッ!?」

「帝国と停戦協定が結ばれるのであれば、二ヶ月後の『皇太子妃選定式』へと名乗りを上げられます。侍女へのお手付きは許されていない為、私は侍女として参加をしようかと」


 お前が侍女!?

 どう頑張っても侍女には見えない煌びやかな大公女。


 その場にいた男三人は呆れ(いた)し、目を瞬いた。


「何を言って……こんなに目立つ侍女など、いるわけないだろう!? すぐにお前だとバレてしまうではないか」

「ご安心ください。髪も染め、目から下は顔を隠しますので、何の問題もございません」


 むしろ問題しかないのだが、こうなっては止まらない。

 ニコニコと微笑むミランダを腕に閉じ込め、クラウスはポツリと呟いた。


「……停戦協定は取りやめだ」

「はぁッ!?」


 突然何を馬鹿げたことをと、身動ぐミランダ。

 すっかり思考が停止してしまったクラウス――混乱した場を収拾するように、セノルヴォが合いの手を入れた。


「だがミランダ、お前が侍女なら、誰を候補に立てるつもりだ? 『皇太子妃選定式』の候補は王族であることが条件。ファゴル大公国で残っているのは、妹だけではないか」

「問題はそこです。主たる目的はあくまで石碑の調査。欲をかき目的を忘れ、皇太子妃の座に目が眩むような方はご遠慮願いたいのですが……」


 腕の中で困ったように小首を傾げるミランダへ、クラウスはしてやったりと口元を歪めた。


「では無理だなミランダ、諦めろ。王族とは得てして我儘で自分勝手。お前の希望を尊重し、推し量ってくれるような奴はこの大陸どこを探してもいない」

「味方をするわけじゃないが、こいつ(・・・)の言う通りだ。どいつもこいつも唯我独尊極まれり……そんな御しやすい王女などいる訳が無い」


 きっぱりと言い切るセノルヴォに、隣でクラウスが「その通りだ」と相槌を打っている。


 途端にピタリと息が合い始めた二人。

 そういえばつい最近もあったな……既視感のある光景に、ミランダは顔を顰めた。


「仰る通り、そんな事は重々承知しております。残念ながらファゴル大公国内に該当する者はおりませんので、アルディリア王妃であるお姉様の伝手を頼ろうかと……」


 そこまで言って、ふとミランダは口をつぐんだ。


「欲が無く、皇太子妃の座に目が眩まず、私の希望を尊重してくれる御しやすい王女――?」

「だからそんな王女いるわけが――、ん?」


 見上げると、すぐ近くで視線が交差する。

 そしてクラウスも何かが頭を過ぎったのか、急に押し黙った。


 二人でゆっくりとザハドへ目を向けると、ザハドもまた思い当たる節があるのか、ゴクリと喉を鳴らす。


 急にどうしたんだと首を捻るセノルヴォを余所に、見つめ合う三人は徐に口を開いた。


「「「――――いた」」」



 ***



「くしゅん!」


 可愛いクシャミに場が和み、護衛騎士のギークリーがふわりとショールを手渡した。


「もう夜も更けて参りましたので、今日はお部屋にお戻りください」

「でもね、夜にだけ咲く花があるらしいの。どうしても自分の目で見たくって」


 遅い時間にごめんなさいね、と申し訳なさそうに謝るドナテラ。


 最近、食べられる野草の研究を始めたカナン王国の王女はふと顔を上げ、キョロキョロと辺りを見回した。


「何かしら? なんだか不穏な気配が……」


 まさか知らぬ間に、自分が『皇太子妃選定式』の候補に祀り上げられていようとは。


 この時はまだ、思いもよらなかったのである――。








もうすぐ第一章完結です。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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