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【書籍化・コミカライズ8/29発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:グランガルド編 ~初夜に自白剤を盛るとは何事か!~

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53.ミランダの覚悟


 湯浴みをし、侍女達と同じ部屋で泥のように眠ったミランダは、久しぶりの心地良い目覚めに大きく伸びをした。


 室内には侍女長のルルエラが待機しており、私物だろうか、「粗末な櫛ですが」と前置きした後、ミランダの髪を丁寧に櫛梳(くしけず)る。


 服に染みた血や、雑に切られた横髪……何も聞かず、ただ労わるように触れるその手が心地良く、されるがままに目を閉じていると、モニカとドナテラが少し遅い朝食を持って来た。


「本日のメニューは、ミランダ殿下の薬草園で採取した、栄養たっぷり『草スープ』です!」


 く、草スープ!?


 聞き慣れない料理名にギョッとして視線を落とすと、どろりとした液体の中に、草の切れ端が入っている。


 経口薬になる葉が盲滅法(めくらめっぽう)突っ込まれた特製『草スープ』。

 匙で一掬いすると、ねばりと細長い糸を引いた。


「……この葉先が丸い薬草は、煎じてお茶にするのよ? こちらは粉状に挽いて、胃薬にします」


 呆れ顔でひとつひとつ説明するミランダの言葉を、ドナテラが一生懸命書き留めていく。


「食用であっても加工を要する場合があり、注意が必要なの。塗り貼りは出来ても、経口摂取が出来ない物もあるので、迷ったらすぐ私に聞いて下さい」


 あと……と、言いにくそうにミランダは続ける。


「工夫を凝らしてくれた中で申し訳無いのだけれど、購入した食材が王宮の食糧庫に溢れているから、それを好きに使って構わないわ」


 その言葉に、ドア口からこっそり覗いていたジェイコブが、嬉しそうにミランダの傍へと駆け寄った。


「ありがとうございます! 草スープはすぐにお腹が空いてしまい困っていました!」


 無遠慮な態度に、顔を顰める専属侍女達。

 ミランダは微笑み、ジェイコブの手を取った。


「ジェイコブ……元気そうで良かった。あの時はありがとう」

「いえ、そ、そんな! 殿下にもう一度お会い出来ただけで光栄です」

「……私こそ、また会えて嬉しいわ。ロン、ギークリー、ここはいいからジェイコブと食糧庫に行ってらっしゃい」


 両手を握られ、顔を真っ赤にして狼狽え始めたジェイコブを、ズルズルと部屋から引き摺り出す護衛騎士のロンとギークリー。


 そうそう、ダリルが壊した地下監獄の出入口を塞ぎがてら、捕虜達にも持って行ってあげなさい。


 次々と流れる様に指示を出すミランダに、ドナテラが目を潤ませた。


「毎日不安で仕方なく、侍女達と一緒に泣いてしまう事も幾度かあったのですが……ミランダ様は凄いですね」


 思わずといった様子で漏れ出た言葉に、ミランダはどこか力無く微笑んだ。


「それでは益々頑張らないと……食事が終わったら、重傷者の部屋を回りましょう。午後からは騎士達を連れ、王宮の被害状況を確認しに行きます」


 食材が届くので、昼は思いきり贅沢に食べましょうね!


 嬉しそうに頷くドナテラに再度微笑み、ゆっくりと厚みを増す曇天へと視線を移した。



 ***



(SIDE:ヴィンセント)


 引き続き残党を警戒し、なるべく複数人で行動の上、各自帯剣するように。


 火災の被害状況を確認する為、王宮へ向かう騎士達だけでなく、水晶宮の者達へも同様に指示を出したミランダ。

 反乱軍から王宮を奪還した今、一体何の危険があるのかと皆首を傾げたが、指示通り帯剣し呼笛を身に付け、常時辺りへ気を配る。


 王宮に着くと、広範囲に焼失したその姿を目の当たりにし、騎士達は絶句した。


「貴賓室を中心に西側の上階が焼失しましたが、『王の間』は無事です」


 騎士達の報告を逐一確認し、ザハドが被害状況を書き留めていく。

 一通り確認し終わり、陽が西空に傾く頃、ミランダは王の間から続くバルコニーへと目を向ける。


「そういえば殿下、以前花言葉を伺ったのですが……アレにはどのような意味があったのですか?」


 地下通路から王宮へと戻る直前に、告げられた花言葉。


 貴賓室に運ばれた植物は昨夜全て燃えてしまったが、その意図するところをヴィンセントが問うと、ミランダは無言でバルコニーへと歩を進めた。


「もうすぐ分かるわ」


 ぽつりと呟き、バルコニーから門の方角へと目を向ける。

 微かに聞こえる蹄の音に、ミランダは「ああ、来たわね」と独り言ち、ヴィンセントは険しい表情でバルコニーへと駆け寄った。


「ロン! ヴィンセント! ダリル! 呼笛を鳴らし、王の間へと隊士達を集めなさい!」


 ミランダが声を張り上げるのと同時に、ピィーッと甲高い笛音が、宮内を廻るように木霊(こだま)する。


 王の間には、扉が二つ。

 扉の両脇にそれぞれ騎士達が潜み、ダリルがザハドの傍らに付く。


 ミランダの両脇を、ロンとヴィンセントが固め、剣柄に手をかけながら表情を強張らせた。


「……第四騎士団でしょうね」


 事も無げに宣うミランダ。


「殿下はご存知だったのですか?」

「……少し考えれば分かるでしょう」


 ロンと掛け合いをしているうちに、走る足音が大きく近付いてくる。


 左側の扉を蹴破り、ジョセフを先頭に、第四騎士団の精鋭達が雪崩れ込んで来た。


「ミランダァァァアアッ!」


 目を血走らせ、狂ったような形相で叫ぶジョセフへと騎士達が斬りかかるが、まるで相手にならず、真っ直ぐミランダの元へと向かって来る。


 ロンが飛び出しジョセフの剣を受け止めたものの、元々の体格差に加え、相手は第四騎士団を束ね上げる騎士団長。


 その剣の重さにズシリと膝が落ちる。

 震える腕で剣を弾くが、連続する第二第三の剣撃に耐え切れず、押される様にジリジリと後退していく。


 数度打ち合った後、ミランダが逃げる間も無くその剣を弾き飛ばされ、振り下ろされた剣先が肩にめり込み、ぐしゃりと膝をついた。


「ぐぅっ……ッ!」


 痛みに顔を歪ませたロンを邪魔だとばかりに蹴り飛ばしたジョセフは、ヴィンセントに庇われながら、もう一方の扉に近付くミランダへと、咆哮を上げながら駆けて来る。


 ……第二陣だろうか。

 新たな蹄の音がまたしてもバルコニーの方から聞こえ、ヴィンセントは忌々し気に舌打ちをした。


 第四騎士団の精鋭達に切り崩され、一人、また一人と倒れていく。

 飛び掛かるジョセフの剣を受け止め、腕に響くその衝撃に歯噛みする。


 先程まで扉近くに立っていた隊士達は、交戦中のため役には立たない。


 ダリルはと目を向けると、ザハドを守りながら第四騎士団の副団長を相手にしており、とてもこちらに手を貸す余裕は無さそうだ。


 ヴィンセントの体格を以てしても尚、大柄なジョセフが振るう剣は、まるで鈍器の塊のように重く、打ち合うたびに腕が痺れ、剣を取りこぼしそうになる。


 これ程の剣撃によくもあれだけ耐えたものだとロンを見遣ると、懸命に立ち上がろうとはするものの、出血量が多く意識を保てないのか、そのままその場に(うずくま)ってしまった。


 圧倒的に不利なこの状況で、ミランダをどう逃がすか必死で考えるヴィンセントに向かい、ジョセフが横一線に剣を薙ぐ。


 縦に構えた剣で受け、わき腹に伝う衝撃に胃液を吐きそうになりながら耐えると、間を置かず、今度は反対側からジョセフの剣が閃いた。


 圧し潰すように角度を付けて入った剣は、肋骨を砕き、肺を圧し潰す。


「……ッ…………!!」


 肺から空気が漏れ、ふらついたヴィンセントの肩口を掴み腕を振るうと、壊れた人形のように床に打ち付けられた。


「哀れだなミランダ。お前を守る者は、いなくなったぞ?」


 どうせ嬲り殺すだけだが、泣いて跪くならもう少しだけ生かしてやろう。


 扉を背にするミランダを玩ぶように、だが逃げる隙を与えず、ジョセフは歪んだ笑みを頬に浮かべる。


「諦めるんだな……俺に敵う者など、いない!」


 狂ったように大声で叫び笑うジョセフの声が、王宮内に響き渡る。

 その様子を意にも介さず、ミランダはうっそりと微笑んだ。


「大事な戦場を放り出して、騎士団長自らお出ましとは……思った以上に戦局が傾いたようね?」


 ジョセフは笑いを止め、ヒュッと息を呑む。

 グラリと身体を傾かせ、憎悪に濁った眼をミランダへと向けた。


「お前がこの王宮で何をしたところで、陛下の勝利は揺るがないわ」


 憤怒の表情で震えるジョセフを蔑むように見下(みくだ)し、ミランダは言葉を重ねた。


 ――勝ったのは、私よ。


 垂直に振り下ろす剣が、まるでスローモーションのようにヴィンセントの目に映る。


 ああ、あの時彼女は告げたのだ。


 その植物の花言葉はね。

 ――『私は明日、()()()()()』、よ。


 と。


 どれ程までに、先が見えていたのか。

 貴女が死ぬ必要はないんだと、叫ぶ声は潰れた肺の中で滞るように掻き消える。


 すべてを覚悟し、ミランダが目を瞑った次の瞬間、扉から飛び込むように乱入した大きな背中が、その視界を塞ぐように割って入った。


 鋭い金属音が空気を震わせ、火花を散らすように剣が交差する。


 縦一直線に振り下ろされた剣を、ぐぐ……と押し上げ、力任せにジョセフの剣を弾き飛ばした。


「……お前如きに、敵う者がいないだと?」


 ミランダを背に庇うように、剣を構える青灰色の瞳。


 双眸に燃え上がるような怒りを滲ませ、見る者全てを圧し潰すような威圧感に、思わず後退ったジョセフの瞳が揺れる。


 遠目にも分かるほど肩で息を吐き、返り血の付いた頬を腕で拭うその男は、嘲るような微笑を口端に浮かべた。


「残念だったな。――()()()()()








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