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【書籍化・コミカライズ8/29発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:グランガルド編 ~初夜に自白剤を盛るとは何事か!~

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38.水晶宮にて③私しかいない


「王宮は今、どのような状態ですか?」


 隣室で療養中の護衛騎士、ギークリーの右腕に包帯を巻きながら、シャロンは尋ねた。


 医師のような治療は出来ないが、騎士の訓練を受けている者であれば誰しも、止血等の応急処置を心得ている。


 他に出来る者もいないため、侍女兼護衛として、特殊な訓練を受けているシャロンが立候補し、ドナテラの許可を得て治療にあたっていた。


「……()()()()()宰相とアシム公爵は反乱軍に捕らえられ、王宮内の地下監獄にある独房に幽閉されました」


 ギークリーは痛む右腕を庇うようにしてベッドから立ち上がると、心配そうに見つめるドナテラの足元に跪き、深く頭を下げる。


「肝心な時にお傍にいられず、申し訳ありませんでした」


 謝罪をするギークリーに、「悪いのは貴方ではないのだから、謝る必要はありません」とドナテラが声をかけ、椅子に座るよう差し示す。


 ミランダが出立した後、水晶宮の仔細をザハドへ報告するため、王宮へと向かったまでは良かったが、時を同じくして反乱軍が雪崩れ込んだ。


 至るところから上がる火の手と、ぶつかり合う金属音。

 常ならぬ様子に警戒しながら王宮内へと足を踏み入れると、既にそこは反乱軍に制圧され、凄惨な光景であった。


 歯向かう者はすべて殺され、投降した者は捕縛された上、地下監獄の大部屋に()()()()で収容される。


 水晶宮にも手が伸びるのではと、身を翻し脱出したところで反乱軍に見つかり、右腕に傷を負ってしまった。


「最後に見たのは玉座の間で、レティーナ殿下が反乱軍に、『水晶宮への立入禁止』を命じるところでしたが……なぜ、そのように命じたのか腑に落ちません」


 釈然としないのか、首を傾げるギークリーに、シャロンは水晶宮への立入りを禁じたレティーナの意図を説明した。


「なんということを……」


 一国の王女ともあろう者がよくもここまで道義に反することを、とギークリーは吐き捨てるように言う。


「そうなると、この情報を得て、反乱軍に追い立てられたグランガルドの残党兵達が、水晶宮に押し寄せるのは時間の問題です」


 ドナテラを真っ直ぐに見つめ、ギークリーは問いかけた。


「殿下、()()()()()()()?」



 ***


(SIDE:ドナテラ)



 突然問われ、ドナテラは頭が真っ白になってしまった。


 どうされますかと問われても、何をどうすればよいか全く分からない。


 何も考えず、誰かの言葉に従って生きることが女性の美徳される国で、王女として生まれ、育ってきたのだ。


『王の言葉は無条件に従うべきもの』


 そう教えられてきたドナテラは、他人からの指示に従うことが日常になっており、自分の責任で何か選ぶという選択肢は、今の今まで一度も無かった。


 ――それなのに。


 今になって、この状況下で選択を迫られている。


「……どうされますか、とは?」


 震える声でオウム返しに尋ねると、今度はルルエラが口を開いた。


「残党兵の受け入れを拒否するか否かです。受け入れる場合は、どのように水晶宮を開放すればよいのか考える必要がありますし、拒否する場合は、侵入された時にどう対応するか等、細かい部分を詰めねばなりません」


 いずれにせよ、策を練る必要があるとルルエラは言う。

 

「そ、それでは、なにか決定事があるのならば、ミランダ殿下に……ああ駄目だわ、殿下はいらっしゃらない……シェリル様もいないし、宰相閣下とも連絡が……どうしましょう、どうしたら……」


 半ばパニック状態となり、突然立ち上がると、ドナテラは室内をウロウロと歩き始めた。


「誰に相談したら……そ、そうだ、この中であればギークリー卿に決めて頂くのが一番宜しいかしら?」


 ねぇ、ギークリー卿? と視線を向けると、ギークリーは目を伏せ、(かぶり)を振った。


「……駄目です。ここにいる誰も、ドナテラ殿下の代わりにはなりません」


 それに被せるように、ルルエラも言う。


「……どうかご決断を」


 どのような結果になっても、我々はその指示に従いますと、一同は固唾を呑んでドナテラの決定を待っている。


「え、でも……でも」


 ドナテラはそれでも一縷の望みをかけて、キョロキョロと室内を見廻した。


 誰か、誰か私の代わりに指示してくださる方を――!


 ふと気が付くと、その場にいる全員がドナテラを見つめている。


 すべての責任が自分にかかる重さを初めて経験し、ぶるぶると手が震えた。


「代わりに、誰か……!」


 ドナテラは再度見廻すが、皆一同に黙りこくり、指示を待っている。


 ……だれも、いない?


 震える唇から、荒い呼吸が漏れ出した。


 ……わたし、しか、いない――――?








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