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【書籍化・コミカライズ8/29発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:グランガルド編 ~初夜に自白剤を盛るとは何事か!~

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10.ミランダの自白②禁忌の双子


「そういう顔をしている時は、年相応だな」


 膝の上にミランダを乗せ、腕の中に閉じ込めるようにして顔を覗き込む。


 自分の感情に歯止めが利かず、次から次へと涙の粒を落としていたミランダは、恥ずかしさのあまり頬を真っ赤に染める。


「クッ、……ハハハハッ」


 昼間、謁見の間で見事な口上を述べた姿からは想像もつかない可愛らしい様相に、普段滅多に笑わないクラウスから、笑い声が漏れる。


「……そちらが素か? 随分と可愛らしい顔をする」


 自分だって先程まで、私を睨みつけて怖い顔をしていたくせに!


 なおも笑う姿に腹を立て、クラウスの夜着を両手で引っ張ると、ミランダはそのまま自分の顔を拭くようにゴシゴシとこすりつける。


 普段なら絶対にやらない……というより、人前で泣くことすら皆無なのだが、涙と鼻水でグシャグシャにしてやった夜着を眺め、ミランダは何故だか仕返しに成功したような得意げな気持ちになった。


「……ん? それが報告書にあった、姉妹への虐待か?」

「恐らくは……、でももしかしたら産後の肥立ちが悪く療養中だったお姉様を、平手打ちした件かもしれません」

「療養中のアルディリア王妃を、平手打ち!?」

「はい。あ、たくさんお話をして泣いたら、ぼんやりしていた頭が、少しスッキリして参りました」


 加護持ち故、お酒が抜けるのも早いのですよとミランダが嬉しそうに話すと、クラウスは無言でグラスに手を伸ばし、残っていたワインを口に含む。


 二本の指で耳を挟むようにしながらミランダの頬に再び手をあてがい、その顔を、自分のほうへと向けさせた。


 そしてそのまま、ミランダの唇に口付けを落とす。


「ん? ……ん!? んん、んんん――!!」


 突然クラウスの顔が間近に迫り、唇を塞がれたミランダ。

 その腕の中で激しく暴れるが、非力なミランダがいくら力を込めたところで、鍛え上げられた男の身体はびくともしない。


 息をしようと唇を開いたところで、クラウスのがさついた唇から先程のワインが流し込まれ、ミランダの喉を潤していく。


 これ以上ない程に目を見開いたミランダは、こくんと軽く喉を鳴らしながら、ワインをすべて喉に流し込んだ。


 ミランダがすべて飲み込んだのを確認し、唇を離すと、少しだけ顔を上気させたクラウスが湿った舌で自らの唇をぺろりと一舐めする。


「どうした? アルディリア国王を篭絡した、その手管を俺にも見せてみろ」


 だから先程、それは嘘だと申し上げたでしょう!


 悪戯が成功した子供のように笑うクラウスを睨みつけると、その肩口に頭を押し当て、せめてもの抵抗にミランダは渾身の力を込めてグリグリと頭を動かした。


 その様子が可笑しかったのか、彼女を抱きしめたまま肩を震わせて笑い続けるクラウスに、強い口調でミランダは告げる。


「それ以上笑うと、もう何もお話してあげませんよ!」

「ああ、それは困るな。……気を付けよう。続けてくれ」

 

 一向に反省する様子のないクラウスは、そんなミランダを瞳に映し、相好を崩しながら話の続きを促す。


「それでそれから……、ああ、もう! 陛下のせいで、どこまで話したか分からなくなってしまったではありませんか!」


 追加のアルコールが、自白剤の効果を後押ししているのだろうか。


 またしても霞がかり、ぼんやりしてきた頭に舌打ちをしながら、ミランダは頬を膨らませる。


「お姉様はそのままアルディリアに嫁ぎ、政略結婚であったはずのこの婚姻は意外にも愛に溢れたものとなりました」


 元々真面目で勤勉、努力家で人の上に立つに相応しく、思いやりに溢れた優しい心を持つミランダ自慢の姉である。


 母親似のミランダとは異なり、茶色い髪と瞳を持つファゴル大公似のアリーシェ。


 整ってはいるものの、華やかさに欠ける地味な顔立ちが後押しし、王妃に相応しくないのではとアリーシェに反発していたアルディリアの貴族達。

 だがその人となりに触れ、次第に信頼を寄せるようになった。


 所詮は政略結婚だと他人行儀だった国王も、懸命に自分を支えようとするその姿に絆され、愛し愛されるうちにアリーシェは本来の自分を取り戻していったのである。


 翌年には男児を出産し、その地位を盤石なものとしたアリーシェだったが、再度の懐妊によりその幸せは終わりを迎える。


「大帝国アルイーダが滅び、四大国に分裂する原因となった双子の皇女。アルイーダ最後の女帝クラリスと、アルディリアの初代女王マルグリットの話はご存知ですか?」


 親から子へ、物語は紡がれる。

 揺らぐことのなかった大帝国は双子の皇女によって滅び、恵みの時代は終焉を迎えた、と。


 ――それから二百年余り。

 四大国の王族において双子は未だに禁忌とされ、生まれた場合は後から出てきた子を谷底へ投げ入れ、殺してきた。


 そこまで話し、ミランダはそっと目を閉じる。


「……そう、お姉様のお腹にいたのは、ふたり、だったのです」




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