表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ8/29発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第二章:インヴェルノ帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/113

93. 『皇帝陛下』へのお目通り


「謁見式にわざと遅れてくるなど、前代未聞だ」

「そうですか? 良い見世物だったと思いますけれど」


 しれっと言い返すミランダに、皇太子は苦々しい顔を隠そうともしない。

 押し切る形で謁見式に単独入場したものの、思っていた以上に爪痕を残してしまったらしい。


 ファゴル大公国の後ろ盾があれば、現皇太子の座は揺るがない。


 コトを有利に推し進めてきた第三皇子は、形勢が逆転し、皇帝になることが難しくなってしまうのだ。


 ……ならばミランダに毒を盛り、命を奪い、すべてをなかったことにしてしまえばいいのでは?


 第三皇子の目論見は外れ、死んだはずのミランダは、謁見式に現れた。

 先日会ったミランダとはまるで別人……本物が死んだことに慌て、急きょ代役を立てたに違いない。


 その場で証明できれば良かったのだが、偽物の顔を知っているのは、入城の際に対応した侍従と、第三皇子だけ。


 ミランダを別人とするためには、偽物の状況について説明が必要になる。


「あの日は、夜目に顔を見分けられるほどの月明かりもなく、ましてや『偽物』が毒を盛られたことなど、当事者以外は知る由もありません」


 それも、皇太子の側仕え用にあてがわれた屋敷内での出来事である。

 なお偽物は現在、ドナテラの看病を受けており、回復次第、事情聴取をする予定だった。


「言及しようにもできないのです」


 結局問い質すことはできず、謁見式は滞りなく終了した。


 本来であれば、そこで解放されるはずだったのだが、皇后の指示により皇太子とミランダはその場に留め置かれ、気付けば半刻以上も城内で拘束されてしまう。


 待機用の部屋に通され、退屈そうに欠伸をするミランダ。

 それではと部屋の奥から皇太子が持ち出してきたのは、分厚い帝国法の法典だった。


「男性の不貞は軽い罰金刑なのに、女性は石打ちで死刑だなんて」

「鞭打ちで済む場合もあるが、そう決められているのだから仕方がない。例え皇女であっても女である以上、扱いはさほど変わらない」

「こんな法律がまかり通るとは……」


 ミランダが帝国法を目にするのは、これが初めて。

 よほど納得がいかないのだろう。周囲をはばかることなく、全身に不満を滲ませる。


「女性の地位が低いことは存じていましたが、まさかこれほど酷いとは」


 並べられた条文は、男性の優位性を示すものが大半を占め、女性は原則、男性に従うことが義務付けられている。


 男女間における懲罰の不平等まであり、先進国の法律だとは、とてもじゃないが思えない。


 暇つぶしに読んではみたものの、にわかには信じがたい内容に、ミランダはパタンと腹立ち混じりに法典を閉じた。


「これまで、どなたも異を唱えなかったのですか?」

「為政者は男だからな。女達もそれが当たり前の環境で育ってきた」

「ですが夫の許可なく外出すらできないなど、もはや奴隷ではないですか……!」


 男女平等を謳い、女性の大公位継承権が認められているファゴル大公国。

 帝国が歩んできた歴史に軽々しく口を挟める立場ではないが、ミランダにとっては到底受け入れられるものではなかった。


「だが、皇后だけは別格だ」


 ――帝国内で唯一、富と権力を手にすることが許された女性。


 それは文化の異なる他国から高貴な姫君を迎え入れ、『皇太子妃選定式』を経て皇后とすることを前提とした、ある種の外交的な緩和策にほかならない。


「今朝方、お前から預かった手紙は、ジャノバを通じてファゴル大公国へと送った。まだ時間は十分にある。もしこの国が気に入れば、このまま残ればいい」


 皇后は別格だから残れと言われても、この国の制度そのものが受け入れがたく、まったく心惹かれない。


 なおミランダが預けた手紙は勿論、皇太子により検閲済み。

 元気にやっている旨の報告とアリーシェへの伝言なので、見られても特段困らないのだが……。


 そうこうしているうちに、扉が控えめにノックされた。


 病が重く、謁見式にすら出席できないと聞いていたのに――。

 皇后陛下の立会いのもと、という制約付きで、特別に『皇帝陛下』へのお目通りが叶ったらしい。


 長らく公式の場に姿を現さなかった皇帝の寝所は、帝国の威信を象徴するような、広く荘厳な空間だった。

 高い天井からは天蓋が垂れ下がり、ミランダ達が身動くたびに、軽やかに揺れる。


「この後すぐ、皇后陛下がいらっしゃいます」


 すれ違いざま、大仰に礼をした侍医が、声を潜めて皇太子へと告げた。

 部屋には皇帝と皇太子、そしてミランダの三人だけが残される。


 皇帝の病状によっては、人目を忍んで治すこともできるのではないかと、ミランダは考えていたのだが――。


「父上」


 遠慮がちに寝台へと歩み寄り、皇太子がそっと呼びかけた。

 返事はなく、皇帝の枕元……寝台の脇にある陶器の水差しから、微かな薬湯の匂いが漂ってくる。


「父上……?」


 後ろに控えたミランダが訝しげに見遣る中、皇太子が歩み寄り、低い声で皇帝を呼ぶ。

 白絹の滑らかな寝具に身を包み、布団に横たわるその身体は、――ぴくりとも動かない。


 皇太子は一瞬ミランダを振り返るがすぐに気を取り直し、皇帝の手首に触れた。


 その身体はすでに冷たく、脈を採る皇太子の顔が次第に青褪めていく。

 掛け布の違和感に気付き、そっとめくり胸元に目を落とすと、そこには深紅の花が咲き広がっていた。


「ッ!?」


 皇太子が息を呑んだ次の瞬間、部屋の扉が勢いよく開け放たれ、皇后が姿を現す。


「お前達……何をしているのかしら?」


 ぞわり、と空気が凍りつく。

 枕元に皇太子が立っており、皇帝の胸元に滲む赤黒い染みを見れば、その場の状況は瞭然である。


「陛下に何を……!?」

「違います!」


 一歩踏み出すなり、皇帝の息が既にないことに気が付いたのだろう。

 空気を裂くような叫び声をあげ、皇后は一歩後退った。


「部屋に来た時は、既にこの状態だったんだ!」


 嵌められたと知り皇太子が即座に声を上げるが、皇后の悲鳴を聞きつけ、バラバラと衛兵達が駆け付ける。


 だめだ、これは言い逃れができない。

 迷う時間はなく、ミランダは咄嗟に陶器の水差しを掴むと、皇后の足元めがけて力任せに叩きつけた。


「何を呆けているのです! 緊急時の脱出口は!?」


 怒鳴るように叫んだミランダは、反射的に皇太子の腕を掴む。


「早く!!」


 王や皇帝の寝室には、いざという時のための脱出口が必ずあるはず。


 部屋を見回すと、奥にある壁の装飾が不自然にずれている。

 あれだ、と瞬時に悟ったミランダは皇太子の腕を引き、一直線に駆けだした。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ