第8話 ナイト・フライヤー
眠れぬ夜の夜間飛行。
日比谷公園に戻り、大噴水があったところで米国のK級軟式飛行船を召喚。
大騒ぎするまわりを無視して乗り込み、そのまま上昇して高度3万メートル、速度100キロを保ちながら関東平野を大きく周回していた。
本来の計画では、銀ブラのあと月島への渡しがあったところから召喚した船で東京湾にでて、ニューヨークに向かうはずだったが過ぎたことだ。
ニューヨーク・デビューする予定を一旦棚上げにして、日本が第二次世界大戦へ進まないようにするために何ができるか考えてみたところ、第二次世界大戦自体まだ始まってもいない。
第二次世界大戦自体を止めようとすれば何をすればいいのか。
僕が知っていることを全部話せばいいんじゃないか?
それで駄目ならどうしようもない。自分にできることはそれくらいのものである。
問題はそれを聞いてもらえるかということであり、大戦艦の艦隊でニューヨークへの入港を求めれば、世界の目が僕にあつまる。
長々と考えた結果がこれである。後は野となれ山となれ。
地球は丸かった。
北に機首を向け、西の大陸に沈みつつある太陽と真っ暗になっている東の太平洋の両睨みで、地球が回っていることを実感しながら遅くなった夕食をとっていた。
乾パンと水だけの侘しい食事のはずが、備えつけのギャレーにはボンカレーがあった。乾パンとボンカレー、インスタントコーヒーで、山の頂上で食べているような爽快感もある。
「(仮)ゴーレム」から大量の信号が下から送られているという連絡が再度入る。
考え事をしているから後にしろと、何度も後回しにしていたものだ。とくに話すこともなかったので、夕食が終わり次第ニューヨークへ行く予定とだけ返信させた。
「(仮)ゴーレム」との連絡は、頭の中だけで会話というほどはっきりしたものではないがなんとなく伝わるので問題はない。
相模川の河口近くからニューヨークへ向けて出発することになった。
ニューヨークの100キロ沖、現地時間午前七時に到着するように頼んだら、僕はもうすることがない。
高揚しているせいかまったく眠くならない。
暇なので「カタログ」をみることにする。静かだ。微かにエンジンらしき音が再現されているが、振動はまったくない。
小型艦は召喚する意味がないので、大型艦だけ拾いあげていく。
大和型戦艦は、副砲が二基撤去されたものが別の枠扱いになっているのがありがたい。大和、武蔵で召喚することに決めた。両方とも大和で召喚できたがややこしいのでそんなことはしない。
さらに超大和型戦艦紀伊を召喚することにする。
米国にいくのにモンタナ級戦艦モンタナを外すのは失礼といっていいだろう。見栄えもいいし。
召喚を決定。
強い印象を与えるためには、現存していないことと大きくて強力なことは重要である。
その点、英国のライオン級戦艦は微妙なので召喚しないことにした。大きくても小さくても勘定の面では扱いが同じだからだ。
N3級戦艦でセント・ジョージという名を選んで決定。
続いて、ドイツのH39級からはフリードリッヒ・デア・グロッセを.
ソビエトからは、ソビエツキー・ソユーズ級からソビエツキー・ソユーズと、プロジェクト24級からヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・スターリンを選ぶ。その大きさを表している数字は素晴らしい。
大きいことはいいことだ。
阿って命名されたのだろうが、スターリンは自分の名前がつけられることをどう思っていたのだろう。その名前を口にするのも大変だろうが、その名前を書くほうはたまらないだろうに。
フリードリッヒ・デア・グロッセをアドルフ・ヒトラーに変えたらドイツの国民感情は僕に好意的になるだろうか。
そうするとセント・ジョージはミュンヘン会談のチェンバレン首相になるのか。
名前はネヴィルだったはずだが首相を讃える空気は英国にまだあるのか、それともウィンストン・チャーチルにするべきなのか。
そうなるとモンタナはフランクリン・ルーズベルトになるな。
僕の知る未来を変えるためニューヨークで何を話すべきか考えていた。船の名前をどうするのかは決まっていた。
飛行船はニューヨークに向けて飛んでいる。
次回「ミス・ワタナベ」