第5話 目白の伯父さんに敬意をこめて
守るも攻むるも黑鐵の
浮かべる城ぞ頼みなる
軍艦マーチの歌詞で、軍艦へ何が託されていたのかがわかる気がする。
船舶は十分の一サイズでも大きいので、何度も召喚と消滅を繰り返し段々と大きくなる船の模型を見ながら、米国の戦艦モンタナが最後に召喚された。
無断侵入した屋上から見下ろして講釈をきいている間は、「ドラえもん」のスネ吉兄さんを思い出していただけだったが、降りてきてその船体に手をついてみると十分の一とは思えない異様な存在感がある。
船尾に合わせて並べられた隣の大和との全長の差は二メートル程あった。
本物なら二十メートル近い。かなりの差だ。
船尾まで行き、そこで校庭を埋め尽くしていた船が全て消されると、前よりも広くなったように思えた。
「これで転移前の説明は一通り全部済んだつもりだけど、他に何か聞きたいことはあるかい?」と、ロールス・ロイス装甲車を背にした僕がいう。
理屈は教えてくれなかったが、僕の怪我や病気に関して目に見えない「(仮)ゴーレム」が管理してくれるそうだ。よほどの事がなければ大丈夫とのことだが、どの程度なのかまではその時にならなければわからない。
元の時代とは比べ物にならないから心配するなと笑っているが、戦車や戦艦を見せられたあとではとても笑えるものではない。五体が泣き別れになって無事とも思えない。
ボディーガードという面に関しては座敷に戦車を上げるわけにもいかず、座敷犬のほうがまだましではないかと抗議すると、砲艦外交だ、強気で押していけという。
ぐだぐだになったあと、僕は僕の機嫌を取るように移動用の高級車だとロールス・ロイス装甲車を召喚した。
好きなように色を塗り替えてもよいと、べったりとした緑色から生まれて初めてみた車体の真珠色へと色を変えていき、父の自慢のモルフォチョウの羽の色、漆の黒と金箔の市松模様とショーは続いた。
モルフォチョウの妖しいブルーなボディに、光沢のあるブラックのタイヤカバー、輝くメッキのホイールカバー、タイヤの側面は半光沢のホワイトにして、凸凹した車体表面は鏡のように成形されていた。
銃身は僕の強い推薦でガンブルーになっている。
茶室よりましだが中に入る為には身をかがまねばならなかった。
淑女が舞踏会にいくには辛かろう。ロールス・ロイスが台無しだと、30年代のドレスコードを曖昧に思い出しながら降りる。
乗り心地に関しては何も心配はしていなかった。なんといっても「(仮)ゴーレム」だもの。
僕のいうには、どんな悪路であれ走っていても止まっていても変わらないという。
「(仮)ゴーレム」の内と外は別の空間とのことで、エンジンの起動時には小さなエンジン音を、停車時は波の音や川のせせらぎ、木々の騒めきといった自然の音が流せるらしい。
長い間僕と一緒だが、これ以上何かを引き出そうとすればあとどれだけ苦痛な時間を過ごさねばならないのか。
そろそろ潮時かな。
次回「満州か、スペインか」