第2話 転移の前提
僕は機械音痴だ。
時計やラジオなどを分解するのは大好きだったが、組み立てることはついぞできなかった。
休みに目白の伯父さんは古い外車を弄っているが、伯母さんは乗るよりも整備している時間が長いとよく母に電話口で愚痴をこぼしていた。
母方の親戚はみんなそんなものであるから、30年代の機械製品なんてお話になるはずがない。
それなのに、どうして僕が戦車や飛行機や軍艦などに関わらなければならないのかと聞くと、戸籍もない家もない親類もいない上に「特殊能力」なんてあったら囲い込まれて食い物にされると力説する。そんなものは扱い兼ねると渋ったところ。
「じゃあこうしよう」と、僕は可愛く微笑んだ。
我が身が可愛い。こんなに我が身が可愛いかったとは。
30年代の世界で、機械のメンテナンスよりも僕自身のメンテナンスを優先するのは当たり前ではないか。
これからの僕の人生にメンテナンスフリーの概念は必須である。機械の形をしているが機械ではないといった禅問答のような話をしていたところ、僕が怪我をしたり病気になったりしても勝手に面倒をみてくれるというのだから。
自分で自分の面倒を見られるなら犬でも猫でもなんでもよいではないか。さらには僕の面倒まで見てくれるというのだから願ったり叶ったり。
最初からその話をしていれば面倒はなかったのにと恨み言をいうと。
「外交的プロトコールというやつだね」と、得意げに返した。
僕と僕の間柄で外交的はないだろう。どっちにせよプロトコールもありはしないが。
メンテナンスフリーな「(仮)ゴーレム」の説明を受ける。
いいことばかりではないとのリバースエンジニアリングに関しての話は、右から左に聞き流す。それで商売をするでなし。テレビもラジオも何となく使っている。
それよりも、どんなゴーレムをどうやって創造するかが大事だろう。デパートで簡単に手に入るようなものではない。それくらいは僕でもわかる。
デパートで気がついたので、転移後の衣食住はどうなっているのかと、ゴーレムの説明中に割って入った。
若い身空でフーテンになるわけにもいかず、連れこみ宿の話まで脱線したが、男同士の御商談で爆笑している僕の知識はどこからきたんだ。
すくなくとも僕は知らない。
次回「召喚の手引」