最期の記憶
好きだった父親が亡くなった。あまりにも突然の別れだった。驚くのも無理な話だった。
父は何者かに刺されたらしい。その為に警察も動いていて私にも色々聞いてきたが、何も答えられなかった。
父は本当に何も持たない人だった。残ったのは私のカメラだけだ。残った僅かなものも捨ててしまい、父の部屋は空になってしまった。
それから学校を休んでいたが、それではいけないと制服を着て登校した。ところが、父が路上で刺されたという話を聞いたせいか、外が怖くなった。
学校に居る間も一言も声が出せなくなってしまった。そのせいで、気が強い女子生徒に目をつけられてしまった。
担任の塩見先生以外は事件の詳細を知らない。生徒達は、もしかすると誰かがこの町で刺されたのは知っているものの、それが私の父だというのは知らないだろう。
学校は元々嫌いではなかった。クラスに友達と呼べる子は居なかったが、放課後の写真部は楽しかった。それに、塩見先生は優しかった。苦手な数学を優しく教えてくれたし、放課後に質問しに職員室に行っても嫌な顔一つしなかった。
それなのに、外が怖くなったせいで学校も怖くなった。あの女子生徒、飯塚奈都に目をつけられたのは災難でしかなかった。飯塚さんと上手く付き合えている人を私は見た事がない。彼女は一度自分が気にいらなければその対象を徹底的に追い詰めるタイプだ。それなのに気にいった人を集める才能があるせいで彼女の周囲には部下のように女子が集まっている。そんな彼女被害に遭って転校した子の噂を聞いた事があった。
今、目の前に居る彼女を見るとその噂は本当かもしれないと思い始めた。私は授業中も口を開けない程になっていた。先生達は事情を知っているので私を当てなかったが、それを飯塚さんを含めた生徒達が不平等ではないかと騒ぎ出した。それがあまりにも大きくなってしまい、私は教室を飛び出し、放課後まで保健室に籠っていた。
学校に行っても良い事がない。母に頼んでしばらく休もう。私は下校する時そんな事を考えていた。
その時だった。脇腹に突然激痛が走った。私の背後はいつの間にか誰かが立っていて何かされたらしい。だが、私はそれに気づく前に倒れてしまった。
身体が今までに感じた事もない苦痛を訴えている。私は何が起こったのか考えようとしたが、その前に意識が遠のき、文字通り頭の中が真っ白になってしまった。