『虚像』

さらば友よ、愛しき日々よ

　私(わたし)が生(い)きていたこの世界(せかい)か終(お)わる。いや、終(お)わるのは私(わたし)の方(ほう)だろうか。あるはずの意識(いしき)が沈(しず)み、大気(たいき)と入(い)り混(ま)じっていく。重(おも)たい身体(からだ)はもうない。空気(くうき)よりも軽(かる)くなっていく。

　残(のこ)された人々(ひとびと)はどうか私(わたし)を忘(わす)れてほしい。いや、忘(わす)れてほしくない。矛盾(むじゅん)しているがどちらも本望(ほんもう)だった。

　さらば友(とも)よ、愛(あい)する者(もの)よ、愛(いと)しき日々(ひび)よ。私(わたし)はいつか還(かえ)る場所(ばしょ)へいこう。もう戻(もど)れない、あの日々(ひび)にはもう帰(かえ)る事(こと)はない。もう誰(だれ)とも会(あ)わずに私(わたし)は空虚(くうきょ)へと向(む)かっていく。